勇者アリシア、ボーマの街の暗部に踏み込む

ナニーニやコデットと別れ、アリシアは一人、男達から聞き出した、


<ゴクソツの関係者がたむろする酒場>


へと向かった。


そこは、扇情的な恰好をした女性が角々に立ち、明らかに真っ当な暮らしをしていないだろうと思しき者達が行き交う、まさに、


<ボーマの街の暗部>


とでも言うべき区画の中にあった。


そんな場所なので、その酒場に辿り着くまでの間にも何度も絡まれたりケンカに巻き込まれそうにもなった。


これも、ゲームで言うなら、


<モンスターとのエンカウント>


に類したものなので闘ってこちらの強さを見せ付けるということもできるものの、アリシアには自身の強さを誇示したいという欲求はないので、その都度、魔法のような<足捌き>だけで翻弄し、先を急いだ。


多少の腕自慢であっても、どんなにナイフを振り回しても捕まえようとしても、まるで幻を相手にしているかのように触れることさえできない。


しかも、気付いたら何メートルも離れた位置にいたりもする。


「な……なんなんだよ、あいつ……!」


チンピラの一人が、彼女を捕えようとして何度も掴みかかるもまるで敵わず、息も絶え絶えになって、悠然と歩み去るアリシアの背中を見送りながら言ったりということも。


そうして辿り着いたそれは、店構えだけはなるほど立派な、<ちゃんとした店>にも見えるものだった。


が、その前にたむろしている者達も、店に出入りする者達も、明らかに<普通>ではない。


身なりだけなら<まっどうな冒険者>のようにも見えるアリシアに、誰もが訝るような視線を向ける。


<まっとうな冒険者>なら、余計なトラブルは避けるためにこういう場所には来ない。来るのは、<冒険者のふりをした犯罪者>か、興味本位で裏世界を覗こうとする未熟で世間を知らない者だけだ。


だから、店の入り口で立っていた<案内役>らしき、スキンヘッドで胸板が異様に分厚いいかにもな男が、


「ここはお前みたいのが来る場所じゃねえぜ。うちは健全な店だが、客はお上品なのばかりじゃねえ。入って三歩も歩かねえうちに気を失って朝には素っ裸で墓地に捨てられてるってこともあるんだ。酒なら余所で飲みな」


と、これまたいかにもなセリフを投げかけてきた。丸太のような腕をアリシアに向けて伸ばしながら。それで肩でも掴んで力の差を思い知らせようとしたのだろう。


なのに、掴んでぐいと押そうとしたのに、逆に自分の体が後ろに下がってしまった。まるで壁でも押したかのように。


すると男の顔が一瞬で真っ赤に染まる。


馬鹿にされたような気にでもなったのかもしれない。


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