コデット、社会に意趣返しする
その食堂で最も高い料理から順に出され、コデットは片っ端から貪り始めた。
まさに『貪る』という表現がぴったりの、獣のような食べ方。マナーもへったくれもない。
とは言え、元々あまりお上品な店でもなかったことから、他の客から笑われつつもそれほど不快に感じてる風でもなかった。
何しろこんなまだ夕暮れ時という時間から酔いつぶれて寝ているような客もいる食堂である。
が、コデット自身は、一口食べて自分の好みではないと判断するともう食べるのをやめて次の料理に手を付けた。
その調子で五品の料理を食べると、
「もういい! 終わりだ!」
次の料理を運んできた給仕の女性に告げる。
テーブルの上には、完全には食べ切られていない料理がいくつも無残な姿を晒していた。
これは、コデット自身がわざとそうしたというのもあった。自分を見下し蔑んできた社会への<意趣返し>の意味もあるのだ。
けれどアリシアはまったく気にすることもなく、彼女が食べ残した料理を口に運んでいく。
「アリシア様…! そのようなことは……!」
今はアリシアが預かっている身とはいえついさっきまでは<盗賊>だったコデットの食べ残しを食べるとか、仮にも爵位を持つ者のすることとは、ただの村娘でしかなかったナニーニも思えなかった。
なのにアリシアはきっぱりと言う。
「今の私は、この子の身元引受人。親代わりなんです。親が子供の不始末の責任を取るのは当然のことです。気になさらないでください」
笑顔でそう告げる彼女に、ナニーニは二の句が告げなかった。
そもそも、コデットのことを快く思っていないナニーニ自身、礼を失したことをしている。
『アリシア様の弟子だ!』
とコデットに対して発言したことである。何しろアリシアは、ナニーニに対して同行は認めたものの、まだ<弟子>として認めたわけじゃない。それを明言もしてもらっていないのに勝手に『弟子にしてもらった』と解釈してるのだから、これも大概、非礼な行為であろう。
しかしアリシアはそれに対しても、強く否定はしなかった。
いくら否定しても結局は済し崩し的に弟子に納まってしまうのだから、否定するだけ無駄と考えているのもある。
それに今はまだ互いに知り合って日も浅い。これから徐々に理解を深めていけばいいとも考えていた。
『何もかもを自分の思い通りにしたい』
と考えるのは、人として未熟な者がすることだ。それに対して自分はそれなりに経験を積んで成長もしてきた自負がある。ならば、その分、自分が二人の手本とならなければとアリシアは思っていた。
コデットよりもあどけなく見えることさえあるくらいに、ナニーニの内面はまだまだ子供なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます