敷島班、トライエンドエラーを繰り返す

魔鱗マリン2341-DSE(実験機)に備えられたセンサーが、機体内部への浸水を検知、アリシアはすぐさま水から上がった。


そして敷島達が急いで魔鱗マリン2341-DSE(実験機)を調べる。


しかしどこにも浸水した形跡がない。しかも、浸水を検知したセンサーも、水から上がった途端に異常がないことを告げている。


つまり、センサーの誤作動だったのだ。


「浸水を警戒するあまり、感度を上げすぎたか」


敷島はそう推測した。


魔鱗マリン2341-DSE(実験機)のセンサーは、電位の変化を感知して浸水を知らせる方式だったのだが、その感度を上げすぎたことで、機体に水圧がかかった際の僅かな変化を浸水として検知してしまったらしい。


くだらないといえば実にくだらないトラブルだったものの、こういうことを一つ一つ潰していくのが今の<ロボットの開発>なので、トラブルはむしろ早々に出てもらえた方がいいとも言える。


「センサーのセッティングはそれこそトライアンドエラーだからね」


敷島が言うように、実際に防水が大きく破れて大量に水が浸入してきてからでは警告も何もないので、わずかに滲んできただけの時点で感知しなければいけない。そのために感度を上げていたわけだが、どの程度の水圧が掛かればどの程度の電位差が生じるかというのは、機体形状や装備により変わってくるので、機種ごとに当たりを出すしかないのだ。


こうして取り敢えずセンサー感度を調整。再度、魔鱗マリン2341-DSE(実験機)が入水。


「浸水警報ありません」


スタッフとして敷島らと一緒に見守っている<千堂アリシア>が状況を告げる。


それを受けて、


「よし、それじゃ泳いでみようか」


との指示に、


「はい」


<千堂アリシア>が応え、<魔鱗マリン2341-DSE(実験機)としてのアリシア>が、水中を自在に泳ぐ。


本来は水に浮かず泳げないアリシアだが、魔鱗マリン2341-DSEには当然、すでに一流ダンススイマーから得たデータを基にした<泳法>がインストールされているので、彼女はその通りに泳げばよかっただけだった。


しかし、五分ほど泳いだところで、


「アラート! 浸水警報」


<千堂アリシア>が声を上げると同時に魔鱗マリン2341-DSE(実験機)水槽から上がってきた。


「ああ、耐水皮膜が規定値に達していなかったのか」


今度は実際に機体内部に浸水していた。しかも、すでに内部の機構が、一部、水に濡れている。このままだと漏電の危険性があるので、関連する部位と共に全交換となった。


そのため、今日の水槽での運用はこれで終わりである。


「それではアリシアさんは、アルゴリズム班の手伝いをお願いします」


「分かりました」


敷島にそう告げられ、アリシアはメイトギア課第三ラボのオフィスへと戻っていったのだった。


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