千堂アリシア、魔鱗2341-DSEとリンクする

魔鱗マリン2341-DSE>が出演する予定の水中ショーを実際に間近で見て、アリシアはますますやる気になっていた。


「よろしくお願いします、アリシアさん」


かなり入れ込んでる様子のアリシアに、第三ラボの技術者<敷島紘一郎しきしまこういちろう>が声を掛ける。彼は現在、第三ラボの主任補佐という立場で、今回の開発の責任者でもあった。主任は現在、別件で出張中であるものの、彼がいれば問題はないとして任されている。


こうして、とにかく魔鱗マリン2341-DSEの開発は本格的に始まった。


とは言え、ベースになる機体についてはすでに完成している。そしてアリシアの役目は、その機体とリンクして水中での運用試験を行うことだった。


魔鱗マリン2341-DSEとしてのアルゴリズムは、そのデータを基に同時進行で組まれていく。


半年もの期間を取っているのは、実は機体そのものよりも、アルゴリズムの開発に時間が必要だからである。万が一にもロボットが原因の事故があってはいけないので、慎重の上にも慎重が期されるのだ。


ましてや今回は、水中でメイトギアを全力稼動させるという前代未聞のプロジェクト。いつも以上の慎重さが求められる。水中で競演することになる人間の演者に怪我などさせてはそれこそ大事おおごとだ。


だからアリシアも、興奮はしつつも真剣である。


「それでは、リンクお願いします」


敷島の合図に、アリシアは魔鱗マリン2341-DSE(の実験機)とリンクを開始する。今回はそもそもリンクが前提の運用なので、以前のような<特殊コード>を用いての、半ば強制的なリンクではない。


いつもは水中作業用のレイバーギアや機器類の開発に使われている、ロボティクス部門社屋に隣接した開発棟の大水槽の脇に座った魔鱗マリン2341-DSE(実験機)がスッと目を開いた。


「どうですか? アリシアさん」


敷島が問い掛けると、魔鱗マリン2341-DSE(実験機)の姿をしたアリシアが、


「全項目クリア。問題ありません。リンクは良好です」


と応える。


「じゃあ、お願いします」


言われて、魔鱗マリン2341-DSE(実験機)の姿をしたアリシアはするりと水へと入った。


基本的に水中での運用は想定されていないメイトギアは水に浮くようには設計されていないが、魔鱗マリン2341-DSEは当然、人間と同じように水中でダンスをしなければいけないので、ボディを軽量化した上に内部にフロートを備え、比重は水とほぼ同じに設計されている。


が、


「アラート! 浸水警報!」


敷島の隣に立っていた<千堂アリシア>が声を上げたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る