ジョン・牧紫栗、罵倒する
『あいつは確か、メイトギア課のエリナ・バーンズ……っ!』
憂さを晴らすために仕事を終えた後で安酒をあおり、しかしそんなことでは実際には解消などされない事実も理解できないジョン・
その姿はとても輝いていて、華やかで、まさに成功者の姿そのものと言えただろう。
職場は一緒になったことはないものの、
そして、火星出身で輝かしい経歴を順調に重ねている彼女の存在は、牧紫栗にとっては妬ましい以外の何物でもなかった。
だから、酒で気が大きくなっていたことも手伝って、
「まったく、火星のクサレま~んさんはいいご身分ですなあ! 大した能力もないクセに女っていうだけで男よりも評価してもらえて、メイトギアの開発とか、いやはや、大したもんだ」
などと、ネット上での発言そのものの悪態を吐いてみせる。
「なんだこいつ……」
エリナの部下が不愉快そうにそう呟くより先に、アリシアがエリナの前に立っていた。不審者から彼女を守ろうとするメイトギアとしての習性が働いたのだ。
「何か御用ですか?」
アリシアがエレナの代わりに応対する。
それを見た牧紫栗はカアッと顔を赤らめ、吠えた。
「お前、メイトギアか? ラブドールなんかにゃ用はねーんだよ!!」
けれど、メイトギアであるアリシアに罵倒など通じるはずもない。<心のようなもの>を得たばかりの頃の彼女ならショックを受けて動揺することもあっただろう。しかし、ある程度の制限はあるとしてもすでにこうやって人間社会に出ることを認められたアリシアにはどうということもなかった。
しかも、
「どうなさいました?」
警備のために配置されていたレイバーギアが異変を察知し、駆けつける。
実はこれ自体が一種の<警告>だった。警備用のレイバーギアが駆け付けるという時点で警察に一報が届いており、レイバーギアのカメラを通じて現場も確認される。録画もされている。これによって迅速な対応ができるということだ。
しかし酒が入っていたことで自制心も低下していた牧紫栗の暴走は止まらない。
「なんだこの鉄くずどもが! 人間様に逆らうのかよ!? マジで火星にはクズとゴミしかいねえよな! 火星なんざいっぺん核で焼き払って更地にすりゃいーんだ! それで地球人だけで作り直せばいいんだよ!!」
暴言が止まらない牧紫栗を、エレナもエレナも部下も、そしてアリシアも、ただ悲しそうに見ていたのだった。
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