ジョン・牧紫栗、鬱憤を募らせる
また、副主任の
さらに、元副社長の
が、それでもさすがに殺人教唆などの犯罪に手を染めるとなれば容赦はされず、副社長の職は解かれて逮捕され、現在は裁判を待つ身となっている。
しかもそれまでは自身の権力で隠蔽してきた数々の余罪が捜査の過程で明らかになり、本人は財力にものを言わせ優秀とされる弁護士を何人も雇って徹底抗戦の構えを見せているものの、ここは火星。たとえ無罪を勝ち取ろうとも再浮上の目はないと見られていた。
そのため、本人は地球への帰還を望み、地球で裁判を受けるべく根回しをしているという話もある。
とは言え、それはあくまで
牧紫栗はそれに対しても不満を抱いており、
「こんな社会はクソだ! 自分は不当に差別されている!!」
と、懲りもせず捨てアカウントを使ってネット上に発信している有様だった。
しかしそんなことで自身の状況が改善されるはずもない。いくら他人を罵ろうと社会を恨もうと、それはむしろ状況を悪くするだけでしかない。そのようなことをしていてもなお浮上することができるのは、それに見合う才覚を持つ人間だけであり、そして牧紫栗にはそれだけの才覚がなかった。
実に単純な話であるが、彼にはそれが理解できないらしい。特別扱いしてもらえるだけの才覚がないのなら社会に適応して慎ましく生きるのが結局は自分のためになるのだということを。
ありもしない<秘めた才能>を信じ、社会が自分を不当に扱っていると逆恨みし、ただただ鬱憤を溜め込んでいる状態だった。
実に嘆かわしい。
さりとて、そんな人間でもこの社会は<権利>を認めてくれる。自由に出歩いて酒で憂さを晴らす程度の権利は。
だから、懇親会を終えて店から出てきたエリナ・バーンズの一行と鉢合わせるなどという偶然も起こってしまうということだ。
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