夢や希望
泥んことかげ
【知らなくて良いことは大人に近づく事】
〝ある日の遊園地で名物キャラクターから風船を購入〟
僕たち親子の番になり、『風船ください!!』と、まだ幼い息子が言った。
僕はすかさず『いくらですか?。ねぇ、いくらですか?。魔法はかけてもらえますか?』と、父親らしく息子を優先した。
その後、無事に買えた親子は遊園地を散策中に事件が起こった。
何と――――突風の拍子に息子が持つ〝
登ってもどうしようも出来ない……
長い棒状の様な物もない……
もう駄目だ。あ~……なけなしのお小遣いで買ったのに……
少しだけ涙目の息子と、絶望で闇落ちしてしまいそうな父。
誰もが、諦めかけたその時だった――――先ほどの着ぐるみが猛烈な勢いで走ってきた。
商品である無数の風船を私に手渡すと、肩を叩きながら息子に聞こえないほどの声で『後は任せな。大事な風船だろ?』と、格好良く決め台詞を吐いて風船の真下まで歩いた。
それを見た父は息子に言った。
『あのキャラクターが取ってくれるみたいだよ!』
息子は可愛らしく両手でメガホンを作りながら『頑張れ~~!頑張れ~~!負けないで!』と、ヒーロー戦隊に応援する様に無邪気に叫んだ。
着ぐるみは小刻みにジャンプをした。
一定のリズムが親子の耳に届く。
息子は『魔法で飛ぶの?』とファンタジーな脳になっている。
『あぁ、そうだよ。何たって魔法の国だからね』と、幼心に夢を与えた。
〝夢〟と〝希望〟……それから〝誰かを思う気持ち〟――――世界は温かいな。
感動で涙が出てしまいそうだ。
しかし――――着ぐるみは、あろうことか頭部を着脱して思いっきり風船に向かって投げた。
頭部はジャイロ回転しながら、真上へと向かう。
そして見事に風船へと覆い被さり、ユラユラと揺れながら静かに地面へと降り立った。
キャラクターは頭部の中にある風船を取り出して、こちらに向かって歩く。
しかも、〝してやったり〟の顔をしながら近付いてきた。
『大丈夫か坊主?怪我はないか?』
(頭部ない貴方の方が重症だよ)
最後に頭部を失ったキャラクターは息子の目線になり『もう……離すんじゃねぇぞ?』と、ドスの効いた声で言った。
父の分もおまけに1つ無料で風船を貰うと、着ぐるみは頭部を小脇に抱えたまま、何処かへ消えてしまった。
その姿はまるで――――未知なる惑星へと向かう宇宙飛行士みたいに……
夢や希望を持つことは大切だ。
でも、最も大切な事は――――〝真実〟を知らないことだ。
〝完〟
夢や希望 泥んことかげ @doronkotokage
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