夢や希望

泥んことかげ

【知らなくて良いことは大人に近づく事】


〝ある日の遊園地で名物キャラクターから風船を購入〟


 僕たち親子の番になり、『風船ください!!』と、まだ幼い息子が言った。


 僕はすかさず『いくらですか?。ねぇ、いくらですか?。魔法はかけてもらえますか?』と、父親らしくを優先した。


 その後、無事に買えた親子は遊園地を散策中に事件が起こった。


 何と――――突風の拍子に息子が持つ〝2000原価120円〟の風船が4M程の木の枝に引っ掛かってしまったのだ。


 登ってもどうしようも出来ない……

 長い棒状の様な物もない……


 もう駄目だ。あ~……なけなしのお小遣いで買ったのに……


 少しだけ涙目の息子と、絶望で闇落ちしてしまいそうな父。


 誰もが、諦めかけたその時だった――――先ほどの着ぐるみが猛烈な勢いで走ってきた。


 商品である無数の風船を私に手渡すと、肩を叩きながら息子に聞こえないほどの声で『後は任せな。大事な風船だろ?』と、格好良く決め台詞を吐いて風船の真下まで歩いた。


 それを見た父は息子に言った。


『あのキャラクターが取ってくれるみたいだよ!』


 息子は可愛らしく両手でメガホンを作りながら『頑張れ~~!頑張れ~~!負けないで!』と、ヒーロー戦隊に応援する様に無邪気に叫んだ。


 着ぐるみは小刻みにジャンプをした。

 一定のリズムが親子の耳に届く。


 息子は『魔法で飛ぶの?』とファンタジーな脳になっている。


『あぁ、そうだよ。何たって魔法の国だからね』と、幼心に夢を与えた。


〝夢〟と〝希望〟……それから〝誰かを思う気持ち〟――――世界は温かいな。


 感動で涙が出てしまいそうだ。


 しかし――――着ぐるみは、あろうことか頭部を着脱して思いっきり風船に向かって投げた。


 頭部はジャイロ回転しながら、真上へと向かう。


 そして見事に風船へと覆い被さり、ユラユラと揺れながら静かに地面へと降り立った。


 キャラクターは頭部の中にある風船を取り出して、こちらに向かって歩く。


 しかも、〝してやったり〟の顔をしながら近付いてきた。


『大丈夫か坊主?怪我はないか?』

(頭部ない貴方の方が重症だよ)


 最後に頭部を失ったキャラクターは息子の目線になり『もう……離すんじゃねぇぞ?』と、ドスの効いた声で言った。


 父の分もおまけに1つ無料で風船を貰うと、着ぐるみは頭部を小脇に抱えたまま、何処かへ消えてしまった。


 その姿はまるで――――未知なる惑星へと向かう宇宙飛行士みたいに……




 夢や希望を持つことは大切だ。

 でも、最も大切な事は――――〝真実〟を知らないことだ。




〝完〟



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夢や希望 泥んことかげ @doronkotokage

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