1-008.奮起
「桐須さんも含めて三人合体しよう」
僕は思い至った結論を二人に告げた。それしか勝つ方法はない。
「しかしそれでは・・・」
「マイネン光線を出していたとき、僕の意志の弱まりと供に出力が弱っていった。意志の弱まりで出力が下がったというなら、逆に強い意志があれば出力を上げられるってことだろ?」
僕の考えが確かならそこに勝機はある。人の感情はそう長く持つものじゃない。でも瞬間的な爆発は数値化できるものじゃないんだと思う。
「三人の意志の混在か。確かに三人の意志の向きが常にそろっているなら理論上は倍の力を生むかもしれない」
僕の意図を察したヴィレが呟く。
「が・・・複数の意志が介在すると動きにも影響がでる。もちろん共鳴率も低くなり、肉体を維持できなくなる。あっさりと合体が解けてしまう場合も考えられる」
「どうにかならないの?」
「私が肉体の維持に集中すれば何とかなるだろう。幸いシンクロ率の低さで我々は重なりつつも一つの中で個別にある。出力と操作を二人が担ってくれるなら十分戦えるだろう」
「しかしいいのか?貫志とは大樹というつながりがあった。しかし恵那は羽衣一族ではなかった。偶然この場に居合わせただけの娘だ」
「なら大丈夫。この三人の出会いは必然だ」
「なにを言っているんだ?」
「あたしも選ばれた者ってこと?」
困惑するヴィレをよそにそう聞いてくる恵那は興奮ぎみだった。中二病の彼女としてはこのシュチュエーションはツボだったらしい。士気をあげるために僕もあえて言う。
「そうだ。桐須さんは選ばれた。世界を救うヒーローの一人として」
「おう!やってやるぜ!」
即答だった。彼女はノリノリだ。ヴィレもそんな桐須さんの様子に諦めたのか。
「やれやれだ。おかしいな。この状況を悪くないと思う私がいる」
そんなことを口走る。
「ヴィレ。時間が無い」
「わかった。二人とも手をつないで空に掲げてくれ」
桐須さんが僕の隣に立つ。さっきまで見知らぬ他人だった彼女。初めて会ったときは猫をかぶっていてあんなに激しい気性の主だったなんて思ってもみなかった。でも僕を引っ張り上げてくれるその力強さが今は心地いい。一緒に死地に飛び込んでくれる桐須さんと僕はもう運命共同体だ。その手を意図的に握らなきゃと思ったら、少しの抵抗感があって、自分が気恥ずかしいなんて気持ちを抱えていることに驚いた。この手緒僕は本当に握っていいのだろうかと逡巡していたら、業を煮やした彼女のほうが乱暴に僕の手をつかんだ。握った手のひらは汗だらけで振るえていた。中二病の狂った少女なんて思ったけど。こうしてみれば彼女は正常なんだ。僕だけじゃない。彼女の人間味に触れるたびに心が落ち着いていく。
あっ、と桐須さんが何かを思い出して声を上げる。
「思い出した」
隣の僕と空のヴィレに顔をむけて彼女は思い出したことを口にする。
「『ヴィレ』ってドイツ語だ。同じ発音の単語がドイツ語にあるんだ」
「ふむ。ドイツ語。この星の日本で使われている言語は日本語。ということは、日本以外の国の言語かな」
思いのほかヴィレがそれに食いつく。
「そう。地球を四分の一周ぐらいするとヨーロッパってところに辿り着くんだけど。そこにドイツっていう国があるんだ。そこの言葉」
「それは興味深いな。戦いが終わったらこの星を周り、知識を得たいものだ。それで?私の名前は何を意味するのかな?」
「ヴィレにぴったりの言葉。『意志』」
「『意志』か。ヴィレにぴったりだな」
「私も気に入った。ありがとう恵那。おかげで緊張もほぐれた」
「どういたしまして」
桐須さんの手の震えは止まっていた。
「じゃあいこうか。僕らの『
つないだ手をヴィレに向かって掲げる。
二人で決意をあらわすように口にした。
『ヴィレ!』
色の光が輝いた。
目が覚めたとき、僕は再び碧光の巨人になっていた。
僕の体が青く淡く光る。
隣では桐須さんの体が夕日と同じ暖かな色合いで赤く淡く光る。
肉体が透けてやがて粒子は霧散した。
二人は空気中に消えた。
その意思とともに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます