1-004.戦い

 どこに降りたい?


 自分の体が霧散したのを見届けたところまで覚えている。

 目覚めた途端に自分が発した声に僕は答える。


 決まってる。

 あの怪獣のすぐ側だ。


 おかしな自問自答だった。

 ヴィレから伝わる知識によれば、本来なら合体したときに意識は一つになるらしい。でも僕とヴィレの意識にはずれがある。中途半端な意思融合で言葉のやり取りが発生する。


 やはり大樹のようにシンクロ率百パーセントとはいかないようだ。貫志とのシンクロ率は七十パーセントといったところだろう。

 それだと問題?

 いや。このシンクロ率なら巨人になって戦うことは可能だ。それでも勝てるかどうかはわからない。

 って。意識は中途半端でも一つなんだ。伝わるから不安なこと思わないでくれよ。

 なるほど。これが不安か。


 貫志の不安にヴィレが興味深いと感心する。

 そうこうしている間に中空に肉体が出来上がる。

 ズーンと辺り一帯に空気の波を起こしながら足が地に着いた。貫志の経験側から衝 撃を吸収しようと体が勝手に着地姿勢をとったが着地衝撃はなかった。

 腕や足のリーチ。肉体を把握させるためにその姿形が脳裏に映る。

 碧の体に銀と蒼の筋。角張った細長い五角形のゴーグルのような黄色い二つの目に光が灯る。頭には尖がりが三つ。中央は小さめで左右の尖がりはミミズクの羽角のような形でWの文字を描いている。

 巨体の銀、蒼の二つの筋を光がなぞる。

 精神生命体イデアは肉体を持って生まれ、成長と供に肉体を捨てる。この碧巨人の姿は捨てたヴィレの肉体がモチーフになっているらしい。

 大樹に格闘技を習っていた貫志の経験が自然と両手を上げて戦闘体勢に入った。


 鉄塔に再びかぶりつき、電気を補給しようとするクプラ。その背後に走り寄る。首に腕を回してヘッドロックをかける。効果的な腕の位置を探りながら腕に力を込めると締りが増した。クプラが鉄塔から離れた。胴体を左右に振ってヘッドロックをはずそうと抵抗する。思いのほか効いているようだ。

 いける戦えると思ったのもつかの間。前のめりになるクプラの思いのほか強い力に踏ん張りきれずに地面から足が離れた。そのまま左右に振られて、堪えきれずに腕が解けてしまった。

 思いのほか勢いよく飛んで宙を滑空する。


 いけない。このままだとまだ無事な街の上に落ちる。

 大丈夫だ。この肉体は元の貫志の肉体分しかない。足りない分は物質と反応するだけの火や電気といった励起エネルギーで補っている。調整により建物は壊さず透過できる。


 体をひねって背中から地面に落ちる。受身をとって体を横に捻る。ひざ立ちの姿勢で起き上がり着地した。足下で体が透過して建物を傷つけていないことを確かめる。よかったと安堵するがゆっくりはしてられない。

 クプラがこちらを見つめていた。す~っと身を低くする。


 突進する気か。


 このままだと足元の無事な街が破壊されることになる。受け止めなければ。同じく身をかがめて突進体勢へ。少しでもクプラの突進距離を減らすために先手を取った。

 相撲のぶつかり合いのようにクプラに体当たりをかます。しかし、かぶりついて組み合うこともできずに吹っ飛ばされた。

 ヴィレの体当たりでも相殺し切れなかった勢いのままクプラが進む。

 クプラに建物が踏み潰される。

 途端に沢山の声が聞こえた。


 痛い。死ぬ。苦しい。助けて。

 これは・・・人の意志の声?クプラがいま破壊した場所にいた人たちの・・・


 早く倒さない被害が広がってもっと沢山の声が充満することになる。

 クプラのプラズマみたいに必殺技とかないのか?マイネン光線?

功を焦る中で脳裏に特別な攻撃が浮かぶ。左手で肘から小指の先までをこすると光の筋が生まれた。右腕を横向きにする。拳を握った左腕を右手首に当てて発射台となる右腕を支える。左拳の甲をクプラに向けた。

 巨体の蒼の筋を光がなぞる。


 いけええええええええええ!


 腕に集まった意志が光線のように打ち出された。

 緑色の光がクプラへと到達。苦しいのかクプラが悶え始めた。

 内部に大量のエネルギーを保有し扱うことで怪獣はプラズマや光線、ガス等を吐くことができる。しかし、それはいうなれば諸刃の剣でもある。器である肉体がエネルギーを保有できなくなるまでダメージを与えられたり、限界以上のエネルギーを保有したりすると保てずに押さえ込めなくなったエネルギーが暴走。自爆して死ぬことになる。そして、いうなればそれが怪獣の倒し方でもあった。

 このままマイネン光線で限界値までダメージを与えられれば倒せる。


 クプラの背中が青白く光った。

 背筋に悪寒が走る。

 予想通りプラズマが吐き出された。

 相殺されるマイネン光線。持久戦とはいかないらしい。光線は徐々に押し返されていた。


 弱気になるな。意志を保て。押し返すんだ。


 奮い立とうとしたとき、破壊された街から聞こえていた声が断末魔を残して消えた。

 死。


 集中力が。意思が一瞬途切れた。

 しまったと思ったときにはもう遅かった。

 プラズマのまばゆい光は襲い掛かる。


 負けた・・・・・・

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