1‐002.約束と出会い
――三年後の八月二十四日。
僕は大樹との約束どおり裏山に来ていた。
あまりにも印象が強すぎて忘れることのできなかった親友との約束はいまも
まあ、おかげで忘れずに来られたんだけど。
当時小学生の僕と高校生の大樹は山道を外れて人の踏み入らない場所を進み。木々のない開けた場所にタイムカプセルを埋めた。人が来ないから掘り起こされる心配もないだろ?と当時大樹が得意げに言っていたのを思い出す。
あの時なぜ大樹がタイムカプセルを埋めようとしたのかは分からない。ただこの場所に僕を連れてきたかったと言っていたのは覚えている。タイムカプセルを埋めた場所に行ってくれと最後に言ったのはこの場所を僕に覚えてもらう必要があったんじゃないかと今では思う。
ただ気になったのは大樹の指定した時間。埋めたとき日が上っていた時間とは違う夜中の十九時。案の定外灯の無い裏山は真っ暗でライトを点灯していないと周囲が把握できないほど暗い。森の中を闇雲に歩いたら木の根に躓くし、藪や枝、幹にぶつかってまともに歩けないだろう。
木々の枝に空を遮られていない開けた場所に出れば空から星空の光が降り注ぐから、目が慣れれば僅かに見えるかもしれないが、それでも周囲がおぼろげな視界じゃ見えないのと変わらない。
結局唯一の光源は僕の張ったテント周りを照らす光だけになる。
そしてそれだけ暗い場所にいるから見下ろした街の明かりがとてもきれいだった。
大樹がヒーローとして守ろうとした街は大樹が死んだ今でも強い輝きをていしている。
親友の形見の腕時計を見ると時刻は十八時五十四分を表示していた。
六分前か。
今日あのとき頼まれたことの意味がついに分かる。
大樹が死んだ後も僕は大樹に捕らわれている。幼い頃に僕の前に現れて僕の命を救ってくれた唯一無二のヒーローの背を僕は追いかけている。
大樹が死んだ後。僕は大樹のしていたことを引き継いだ。生きていた大樹に付いて歩いて見たままに僕は誰かを助け続けた。それはみんなに大樹を忘れないで欲しいという訴えだったのか?それとも大樹の影を探して僕が彷徨った結果なのか?大樹の目指した景色の先を見たかったからなのか?は分からない。
街じゃ僕を後藤大樹の後継者なんて呼ぶ人もいるけど。
僕は大樹のようなヒーローじゃない。
ただ僕にとって
そんな僕にとって唯一無二のヒーローであった親友に僕は何を託されたのか?
期待に胸を膨らませながら、逸る気持ちを抑えきれずにソワソワしていた。
そうして訪れるなにかを探して空を見上げたときだった。
大きな碧光の塊が真上に現れた。人一人を飲み込めるほどの大きさで。明るさは直視できないほどの強いというわけではなく、ぼんやりとした淡いランプの火のようなやさしさのある碧色の光だった。
「少し約束の時間には早かったかな?」
聞こえた声に周囲を見渡すが近くには誰もいない。まさかと森の中を見はするものの。森の中は真っ暗闇でうかがい知ることも出来ない。ただ声の聞こえた距離から考えてもこの光から発せられたとしか思えなかった。
目の前の光は人魂みたいなものなのだろうか?
そんな考えが浮かぶ。
僕は呆然としながら再び碧の光を見上げた。
「どうかしたかね。大樹。私だ。ヴィレだ」
声の主が主張する。大樹という
「もしかして私のことを忘れてしまったのかい?確かに以前から数えると君たちの時間の数え方で五年が経過している。私にとってはごくわずかな時間でしかないが、この星の住人にとっては短いと呼べる時間ではないはずだからね」
間違いない。この光から声が出ている。続く言葉に碧色の光が声を発しているのだと確信する。心臓は落ち着かず。早鐘を打ち続けていた。
光が口にした言葉を反芻する。自分を大樹と呼んだことに心惹かれて僕は光に聞きたいことを問いかける。
「あなたは・・・いや。あんたは大樹を知っているのか?」
「君は・・・大樹ではない・・・のか?」
ヴィレと名乗る光は明らかに動揺していた。僅かに明減して声が微かに過細くなる。
「そんなはずは・・・君からは大樹と同じ意志の波長を感じる。私は君たちを顔などの肉体的特長で見分けることはできないが、君たちの言葉で言うところの魂で見分けることができる。君は一体何者なんだ?」
何者か、か。むしろこっちが聞きたい。でも大樹を知る存在に僕は先に答えたかった。
「僕は
後藤大樹の親友。それが僕だ。
「大樹が・・・死んだ・・・」
淡く光り輝くだけの光に表情は無い。それでも驚きと戸惑いが声から感じられた。
「しかし、君からは大樹の意志を感じる。なぜだ?」
自分の中に大樹が。気がつけば無意識に右手で右わき腹を触っていた。大樹が幼い頃の僕の命を救った証がそこにある。
「そう。君の手を当てているその位置に大樹を強く感じる」
ヴィレの言葉に僕は思い当たることを口にする。
「昔大樹から腎臓を貰った。僕の中には大樹がいる」
「なるほど。大樹の肉体の一部が君の中にあるのか。これでわかったよ」
「わかった?」
「大樹がなぜ君を私の元に使わしたのかだ」
どういうことだろうか?僕は首をかしげる。
「大樹が君に未来をかけたのなら、私もそれに賭けてみよう」
「未来をかけた?それはどういう――」
がさがさ。雑木林を掻き分ける音がした。ヴィレの光が届かない先。森の中からだ。
反射的に懐中電灯を手に掴んで光を向ける。
向けられた光を右手で遮って立つ人影が目に入る。
女の子?
見た目は若い。年は同じくらいだろうか?
肩にかかるぐらいの長さの髪。オレンジ色のパーカーにジーンズ。山歩きで特に目立つ服装でもない。左手には懐中電灯が一つ。下に向けられていた。僕は彼女に光を向けてしまっていたことに気がついて懐中電灯を降ろす。
彼女はいったい?
遭難者でもない限りここに人が現れるとは思えない。ここはそんな場所だ。
彼女は僕が懐中電灯を向けていたときも光を気にせずずっと上を見上げていた。視線だけで目的がヴィレであのがわかる。近寄ってくる間も彼女は僕には目もくれず、 ヴィレだけを見ていた。
「あなたを待っていました」
「まさか、君は・・・」
どうやらヴィレに心当たりがあるらしい。
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