第56話「溢れた想い」※美里
★前書き★
ご無沙汰しております。
久しぶりにカクヨムを訪れました。
最新話付近を少し読み返したのですが、とんでもないところ(気になるところ)で更新を止めていたみたいで申し訳ありません。
この1話だけ、ここで区切りがよくなるので更新させてください。
そのあとはまた、お時間いただきます。
──────────────────────
横峯くんから唐突に告げられた好きの言葉。
複雑な心境の中に遥の顔が頭をよぎる。
その言葉は本来私が受け取る言葉じゃない。
「横峯くん、そういう好きじゃないんだよ」
「どうして? 神谷さんが言ってることは分からないよ」
横峯くんは納得しない。
私はずっと言わなかった言葉を口にした。
もう何が正解なのか、分からなくなってしまったから……。
「ねぇ、横峯くん。遥は?」
「遥? どうして遥の名前が出てくるの?」
「本当に何も思い出さないの?」
「うん、どういうこと?」
ああ、私何言ってるんだろ。
「本当は遥の気持ちに気付いてるんでしょ?」
「僕は遥じゃないから分からないよ」
もう、やめて。
「だって、いつも一緒にいたじゃん」
「いつも一緒にいたってわからないよ」
それ以上は。
「じゃあ横峯くんはどうなの?」
「さっきのが好きの条件なら僕は遥じゃなくて神谷さんの方が好きだよ」
抑えられないから。
「違う、違う違う! だからそうじゃないの」
「違くないよ。僕は神谷さんが──」
「いいかげんにしてよ!!」
さっきまでの和やかな雰囲気から一変。
突然声を荒げた私に横峯くんは驚く。
ふいに出た言葉とは裏腹に、内心は自分でもびっくりするくらい冷静だった。
こんな冷たい言葉を投げかけたの、あの時以来だったと思う。
これは八つ当たりだ。
私への想いじゃないことへの──。
「ごめんね、横峯くん。私、ちょっとお手洗い行ってくる」
私は逃げるようにその場を去る。
もう、横峯くんの顔は見れなかった。
傷ついたかな、傷つけちゃったかな。
どうしよう……。
本当に横峯くんは、なくしてしまっただけ。
どこかに大切な想いを、落としてしまっただけ。
“その抜け落ちた遥の空白を埋めるように、近くにいた私が無意識に選ばれてしまった”
横峯くん自身ではどうすることもできなかったこと。
だから、横峯くんは何も悪くないのに。
私、どうしたらよかったんですか……お姉様。
*****
トイレで鏡を見る。酷い顔。
今日家を出てきたときの表情とは全く違う。
こんなんじゃ、横峯くんを心配させちゃう。
戻ったら、ちゃんと謝ろう。
それでまた……元通り。
そう思ってトイレから出ると、私を呼び止める声が聞こえた。
「あれ、神谷じゃん」
「あ……荒木くん」
振り向くと、昔通っていたスイミングスクールの男の子と知らない二人の男の子たち。
タイミングが良いのか悪いのか、あまり会いたくない人と遭遇してしまった。
家を出るときの不安が現実になった瞬間だった。
「なんでここにいんの? 今日予定あるっつってたじゃん」
「えーっとね……」
荒木くんにはお祭りに行こうと誘われてたけど断っていたから。
私がどう答えようか思案していると、二人の男の子が会話に混ざってくる。
「え、ちょ待って、めっちゃ可愛いじゃん」
「おい荒木、お前ばっかずりーぞ」
「お前らは黙ってろ。友達と来てるのか?」
「あー、うん、そう。ごめんねー」
「だったらそう言ってくれよ。よかったら一緒に回ろうぜ?」
今日じゃなかったら、きっと了承してた。でも、今日はダメ、今日だけは。
「ごめんねー。今日は友達とがいいな」
「もしかして……友達って男か?」
「えーっと、うん、そうだけど……」
「ぷふー、荒木振られてやんのー」
「イケメンよ。俺たちの気持ちが少しはわかったようだな」
男の子たちが荒木くんを
荒木くんの気持ちには薄々気がついてる。
でも、嘘はつけない。
その気持ちには答えられないから。
そんなときに来てしまう、彼が。
「神谷さん、大丈夫? なんか僕……ごめんね?」
「横峯くん……」
悪いのは私なのに……横峯くんから謝ってくる。
そんな私たちの状況などお構いなしに、荒木くんは何かを思いついたのか、右手を横峯くんに差し出した。
「俺、神谷の友達の荒木ってんだ。よろしく」
「あ、神谷さんのお友達? 僕は横峯修司です」
横峯くんは何の迷いもなくその右手を取った。
この先のセリフは何となく想像がつく。
「おんなじ友達同士、仲良くしようぜ。それでさ、今から一緒に回ろうぜ」
やっぱりだ。
横峯くんはきっと断らない。私はそんなことを考えていた。
でも……。
「あ、ごめんね。今日はダメなんだ。二人じゃないと」
「つれないこと言うなよー」
「ごめんね。絶対にダメなんだ」
横峯くんらしくて、横峯くんらしくない答え。
私との約束を頑なに守ろうとしてくれているのがわかって、それがとても嬉しかった。
「ちっ、なんだよ。ケチくせーなー。神谷、こいつろくな奴じゃねーからやめといた方がいいぜ」
そんな捨て台詞を吐いた。
安い挑発だった。
それは横峯くんへ向けてのものだって分かってる。分かってるからこそ、だから許せなかった。
気がついたら後の祭り。
パンッという乾いた音が辺りに響き渡る。
右手で荒木くんの頬を振り抜いていた。
「何も知らないくせに! 修司くんの悪口言わないでよ!」
睨むようにして、荒木くんが一歩前へ、私との距離を詰める。恐怖で身体が硬直する。
お姉様みたいに強かったら、動じなかったのかな。ダメだな、私。自分で解決する力もないくせにこんなことして。
きっと私達が子供だったら、かわいい喧嘩で終わるのに。
相手は大きな男の子。力でなんて勝てっこない。
そのとき荒木くんを止めたのは……横峯くん、じゃなかった。
「あ〜……荒木、今のはお前が悪いわ……」
「ないわ〜、荒木、ないわ〜」
名前も知らない二人の男の子たちだった。
その言葉を聞いて、荒木くんは私から距離を取る。
「……ごめん、言い過ぎた。そっちの、横峯にも悪かった」
「私の方こそ……叩いてごめん」
悪いことをしたときに、止めてくれる友達がそばにいて。
そんな友達の言葉に、素直に耳を傾けることができる関係を築けてる。
本当の友達同士だった。
「ほら、行くぞ荒木」
「あぁ、じゃあな神谷。また今度」
「うん、またね」
二人の男の子は荒木くんと肩を組み、引き連れるように去って行く。
それでも、手の震えが止まらなかった。
自分のした行動に恐怖がつきまとう。
すると──そっと、私の右手を横峯くんの両手が包み込む。
「神谷さん、僕のために怒ってくれてありがとう。痛かったでしょ?」
「痛かったのは……荒木くんだよ」
そんな私の回答に横峯くんは首を横に振る。
それが答えじゃないと。
「違うよ。お友達を傷つけるのは……心が痛くなるでしょ?」
「……うん、そうだね……」
自分が何で震えてたのか、初めて気づいたと同時に震えが収まった。
こんな当たり前のことを、横峯くんがまた教えてくれる。
まるで何事もなかったように、横峯くんは私の手を引っ張って屋台の方へ連れ出した。
「神谷さん、僕クレープ食べたいな。チョコバナナクリーム!」
「……じゃー私は……いちご生クリーム!」
この約束の先にあるものがいったい何なのか──答えを探すのをやめた。
いまはただ、今日の残り少ない時間を。二人だけの時間を。
楽しく過ごしたい。そう、心に誓う。
幼馴染に男だったら誰でもよかったと言われ記憶を喪失しました。 ベータ先生 @beta-teacher
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