第231話サブヒロインは、ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインのために頑張るのである。6

 スマホのスピーカーを通してもわかるほどのカム着火インフェルノォォォウな白銀の怒りを、激おこプンプン丸に抑え、なんとか教室に政宗を置かせていただけるように許可を取り付けたゆるふわ宏美は、郁人様ファンクラブ部室前の廊下で政宗と別れ、始業のベルと同時に、1組教室に飛び込み、何食わぬゆるふわ顔で、自分の席に着席するのであった。


 そして、席に着くと同時に、郁人からの視線を背中にひしひしと感じるゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みを浮かべながら冷や汗ダラダラで気づかないふりをするのであった。


 しばらくすると、一組の担任が教室に入ってきて、出席を取り始め、ホームルームが始まるとゆるふわ宏美は、郁人の視線をスルーしながら、両手で頬杖をついて物思いにふける。


(はぁ~……7組大丈夫ですかね~……なんとか覇道さんと白銀さんにはしばらくおとなしくしてもらえる約束を取り付けましたが~……どうなる事やらですよね~……い、郁人様の視線をまだ感じますよ~!! わ、わたしぃはアイドルなんて、絶対にやりませんからね~!!)


 ゆるふわ宏美は、郁人が予想した通り、白銀が7組でのリーダーポジションになったことに不安を覚える。郁人の予測通りに全てが進んでいる状況は、計画が順調な証なのに、色々と現在の状況はゆるふわ宏美の不安感を募らせる。


 そして、郁人のアイドルをやれという視線に対しても、断固拒否でスルーなゆるふわ宏美なのである。


(でも~、あの様子ですと~、郁人様の計画もあながち理にかなっているのかもしれませんね~……だとしても~、アイドルはやらないですからね~!! 滅茶苦茶郁人様の視線を感じますよ~!! 絶対に屈しませんからね~!!)


 7組の美月ではなく、共通の敵となった政宗に敵意が向いている現状を見ると郁人の計画もしっかり考えられていると思うゆるふわ宏美なのである。そもそもだが、リレーの件がなくとも、そのうち7組は険悪なムードにはなっていたのは間違いないと思うゆるふわ宏美は、郁人の先見の明に感心するのであった。


 しかし、それはそれ、ゆるふわ宏美は絶対にアイドル活動などしたくないのである。もうすでに一回屈していることなど、忘れて、断固拒否を心に誓うゆるふわ宏美なのである。


(それにしても~、覇道さん……本当におとなしくしててくれますかね~……まぁ、あの感じだと~、当分は大丈夫だと思いますが~)


 約束は交わしたものの、今までの行動から、政宗に対してのゆるふわ宏美の信頼度は低いのである。両手で頬杖をついて考えていると、いつの間にかホームルームが終わるのだが、なにやら廊下が騒がしい。1組担任の先生が、少し長引いたホームルームを終えて、廊下に出ようと教室の扉を開き、しばらく呆然と立ち尽くし、頭を抱える。


「また、朝宮君ですか……あなたは問題を起こさないと気が済まないようですね」

「……え?」


 ゆるふわ宏美は、担任の郁人を非難する声で、現実に戻ってくると、1組教室前の廊下に女子生徒達が大量に出待ちしていることに気がついたのである。いきなり、怒られている郁人は疑問顔なのである。


「朝宮君……早急に集めた女子生徒達を解散させるように!! いいですね!!」

「……いや……俺に言われても……なにがなにやら……」

「朝宮君!! 言い訳しない!! 早く、集めた女子生徒達を解散させるように!!」

「……いや……そう言われても……俺が集めたわけじゃな……」


 指をさされ、名指しで怒られる郁人は、これ俺が悪いのかという表情で困惑し、担任の無理難題な要求に対して首を縦に振らないのであった。そんな郁人の様子を見ながら、ゆるふわ宏美は、朝の郁人様親衛隊達の話を思い出し、まだ、ファンクラブに加入してない生徒達が押し寄せてきたのだと理解した。


「朝宮君って、この教室なんでしょ!!」

「そうそう!! リレーでカッコよかった男子!! ファンクラブあるらしいし私入ろうかな!!」

「超カッコよかったよね!! 話できないかな!!」

「手紙書いてきたんだけど……受け取ってくれるかな~?」

「私は手作りのクッキー作って来たの!! 食べてくれるかな」


 など、エトセトラ廊下は女子生徒達で大盛り上がり、もちろん、郁人の耳にもバッチリ会話は聞こえており、朝の件を思い出し、絶対に廊下に行きたくはないのである。そんな郁人に怒り心頭な1組の担任は、教師の伝家の宝刀を振りかざす。


「朝宮君!! 早急になんとかなさい!! じゃないと、停学にしますよ!!」

「早急に対処します!! 先生!!」


 学生に対しては、最強の脅し文句を告げる担任に、すぐさま立ち上がり、敬礼と共に了承する郁人なのである。権力には逆らえないと、素早く行動に移る郁人のもとに親衛隊三人娘が素早く集う。


「郁人様!! お供致します!!」

「尊い郁人様の凱旋に……僭越ながらお供させていただきますわ!!」

「一生郁人様推しの私も、一生お供します!!」

「……あ、ああ……とりあえず、なんとかしてみるか」


郁人と親衛隊3人組が意を決し、教室後方の扉を開き廊下に出て行くのを確認したゆるふわ宏美は、すぐに例の件の話を聞きに、郁人の後を追おうと、ゆっくり、清楚よろしくと立ち上がる梨緒の所に向かう。


急いでこちらに近づいてくるゆるふわ宏美に気がつき、清楚笑みを浮かべ、自分の席にゆっくり清楚よろしくと座り直して、快く迎えてくれた梨緒に対して、口元を隠しヒソヒソ話の姿勢になるゆるふわ宏美は例の件を確認するのである。


「……宏美ちゃん……確かに私を怪しむのはわかるけどねぇ……あの時、私は救護テントに居たんだよぉ……まぁ、誰かに頼んだと言われたら……それまでだけどねぇ」

「そ、そうですよね~……い、いえいえ~、わたしぃも梨緒さんが犯人だとは思ってないですよ~」


 頬杖をついて呆れた表情な梨緒に、ゆるふわ宏美はゆるふわ苦笑いと両手を左右に振ってなんとか誤魔化そうとする。


「……本当かなぁ?」

「……ほ、本当ですよ~」

「怪しいなぁ……まぁ……良いけどねぇ……それで、宏美ちゃんは、その合成? 写真の犯人を捜してどうするつもりなのかなぁ?」

「それは~、もちろん何でこんなことをしたのかという確認と~、今後このようなことをしないように厳重に注意するためですよ~」

「そっかぁ……そんなことしてもぉ、あんまり意味ないと思うけどねぇ」

「え!? どういうことですか~?」

「そのまんまの意味だよぉ」


 意味深な発言をする梨緒に、首をキョトンと傾げ、疑問顔なゆるふわ宏美に対して、呆れた様子の梨緒なのである。


「まぁ、本当に意味ないと思うけどぉ……宏美ちゃんがどうしても犯人と話したいって言うならぁ……調べるのはそう難しくはないと思うけどねぇ」

「え!?」


 頬杖を突き、左手の人差し指を宙でくるくる回しながら、そう言い放つ梨緒に、またまた戸惑うゆるふわ宏美なのである。


「はぁ~、簡単なことだよぉ……ワトソン君、そもそも、生徒の大半は体育祭で運動場に居たわけだよねぇ」

「わ、わとそん~?」


 急に人差し指を突きつけられ、梨緒にそう言われ、やはり戸惑うゆるふわ宏美に対して、全ての答えはわかっていると自信満々な表情の梨緒なのである。


「ほら、ワトソン君、つまりはそう言うことだよぉ」

「は、はぁ~……まぁ、スマホを運動場に持ち込めなかったことはわかりますけど~……それが~、どういうことなんですか~?」

「本当に、ワトソン君はダメダメだねぇ……写真を撮るにはどうすればいいのかなぁ?」

「そんなのスマホで~……あっああっっっ~!!」


 ゆるふわ宏美は、大声を上げてやっと梨緒が言いたいことが理解できたのである。そんなゆるふわ宏美に呆れた視線を向ける梨緒なのである。


「そうだよねぇ……大半の生徒はスマホなんて体育祭中に持ってないんだよぉ……そして、写真は中庭で、突発的な出来事を収め合成してるんだよねぇ……つまり時間も場所も特定できないってことは、設置カメラという線は消える訳だよねぇ……つまりは、突発的に撮影したってことになるよねぇ…………そう考えると犯人捜しはそんなに難しくはないと思うよぉ」


 梨緒が言うには、単純に、中庭で起こった不確定な出来事を撮られた写真なら、その時間に中庭に向かった人物の目撃情報を探し、なおかつ、スマホやカメラなど写真を撮れるものを所有していた可能性のある人物となる。


郁人様ファンクラブの会員から目撃情報を募ればおのずと調べられるだろうということである。


「た、たしかに~……そうですね~!!」

「宏美ちゃんってさぁ……やっぱり、少しおバカさんだよねぇ」

「……」


 こんな簡単なこともわからなかったのかなぁという馬鹿にした視線と、はっきりと口でも馬鹿にしてきた梨緒に、地面に視線を逸らし、拳を握り締め、悔しそうな表情で黙るゆるふわ宏美なのである。


「おい!! ゆるふわ!! お前も加勢しろ!! 俺達だけじゃ何ともできん!!」

「……郁人様……わたしぃは大事な用事がありますから~!! 頑張ってくださいね~!!」


 しばらく悔しさに震え黙っていると、教室後ろの扉から、顔を出し、ゆるふわ宏美に大声で助けを求める郁人の声で、ハッとなるものの、合成写真の件を調べるなら、郁人が拘束されている今しかないと、ゆるふわ笑顔を向けて拒否するゆるふわ宏美なのである。


「おい!! ゆるふわ!! って、いやいや……とりあえず、み、皆さん落ち着きませんか? あまり、廊下で騒ぐのも……」

「郁人様へのプレゼントは受け付けておりません!! また、郁人様とお話がしたい方は、ファンクラブ入会し、厳選な抽選会に応募し、当選された方々のみとなっております!!」

「尊い郁人様を困らせてはいけませんわ!! あ、こら!! そこの方!! 抜け駆けは赦しませんわ!!」

「一生郁人様推しの私が、推しとして正しい在り方を一から教えて差し上げます!!」


 ゆるふわ宏美は、カオスな状態の郁人達を華麗に無視し、梨緒にお辞儀をペコリとすると、脱兎の如く、教室前方の扉から逃走する。


「クソっ!! ゆるふわ逃げやがったな!! あ、梨緒か……すまないが、なんとかこの人達を解散させるの手伝ってくれ……あと、例の件は任せていいか?」

「もちろん……任せてよぉ……ふふふ、宏美ちゃん……覚悟してねぇ」


 教室前方の扉から逃げ出したゆるふわ宏美に、怒る郁人は、合流してきた梨緒に対して、応援を頼んだうえで何やらお願い事をすると、梨緒は、嬉しそうに答えた後に悪役のような邪悪なニヤッという笑みで親指を立てて例の件を任されるのであった。






 教室前方の扉から逃げ出し、慌てて廊下に出たゆるふわ宏美は、女子生徒達の群れの隙間を、小柄な身体ですり抜け、7組の教室を目指す。目的はもちろん、政宗がおとなしくしているかの確認の為であった。


 7組の教室の前にたどり着くと、いつも通り、コソコソと扉を少しだけ開いて、中を覗き見る。滅茶苦茶目立つゆるふわ宏美だが、もはや、7組教室を覗くゆるふわ宏美という光景が日常化した結果、誰も不審に思わなくなっていた。


 7組クラスはというと、自分の席で取り巻き達に囲まれ、ネチネチと大声で、政宗に嫌味を言い続ける白銀と、同じく自分の席に座り頬杖をついて、ジッと耐え、無視している政宗の様子が確認できた。


(いちよ~、覇道さんおとなしくしているみたいですね~……しかし、美月さんは相変わらず、我関せずで~……永田さんは寝たふりしてますね~……そういえば~……例の陸上部の三人組が見当たらないですね~)


 例の陸上部3人組も政宗と同じく、白銀達に喧嘩を売っていたので、もちろん、攻撃の対象になっているだろうと思ったゆるふわ宏美だが、教室には姿が見えない。疑問には思ったが、とりあえず、問題ありありだが、問題なしと判断し、おもむろにスマホを取り出し、情報収集を始めるゆるふわ宏美だった。


7組の教室を監視しながら、ネットで目撃情報を募っていると割とすぐに情報は集まり、1年C組の女子生徒が一人、美月と政宗の後に、中庭に向かったという目撃情報が入った。


 少し、その生徒を調べると、どうやら写真部所属で、体育祭の時は記録担当でお高いカメラを持っていたことが判明したのである。


 そこまでわかった時、予鈴が鳴ったため、とりあえず、ここまでと、最後にチラッと7組教室を覗き見るゆるふわ宏美は、こちらをチラッと見てきた美月と視線が合う。覇気のない美月の瞳に、心が痛くなるゆるふわ宏美は、次の準備休みで目撃情報のあった女子生徒を呼び出すことを決意するのであった。






 1限目の授業が終わるも、朝のホームルームと同様に、女子生徒達が1組廊下に集まってくる。もちろん、郁人と親衛隊三人組と応援で梨緒と郁人様ファンクラブ副会長でクラス委員長が急いで廊下に出て、対応を始める。


 そして、ゆるふわ宏美は会長権限で、目撃情報のあったファンクラブの女子生徒をスマホで郁人様ファンクラブ部室に呼び出し、急いで部室に向かう。もちろん、郁人達からの応援要請は華麗にスルーした。


 部室に着いたゆるふわ宏美は、会長席に座って、重い空気を纏い、両手を組んで口元を隠し例の呼び出した女子生徒を待っていると、少しして、ノックされ部室の扉が開く。


「あなたが金澤さんですか~?」

「はい……何か用ですか……会長」


 入室してきた少しふくよかな体系の眼鏡をかけた女子生徒に、ゆるふわ宏美は、呼び出した人物と同一人物かの確認をすると堂々とした様子で答える。彼女の堂々とした姿に、これは犯人ではないかもと思うゆるふわ宏美なのある。


「……えっとですね~……突然で申し訳ないんですが~……例の写真の噂はご存じですか~? その件で少しお話を聞かせて欲しくてですね~」

「……朝宮君から聞いたんですか?」

「……え?」


 呼び出してしまったからには、とりあえず、事情を確認しようとしたゆるふわ宏美は、気まずいゆるふわ笑みを浮かべていたのだが、突然、予想外なことを言われ、間の抜けた声と同時に真顔になる。


そんな、ゆるふわ宏美を見て、自分が失言をしてしまったことに気がつき、自虐的な笑みを浮かべる女子生徒なのである。


「……違うのかー……まぁ、別に隠すことじゃないし……お察しの通り犯人は私です……会長」


 意外にもすんなり犯人と名乗り出た女子生徒に、ゆるふわ宏美も驚きの表情を浮かべるも、犯人の女子生徒の開き直った態度に少しムッとなるゆるふわ宏美なのである。


「なんであんなことをしたんですか~?」

「なんであんなことをしたのか……ですか? じゃあ、そのまま質問を返しますね……会長はなんで朝宮君のファンクラブを作ったんですか?」

「……し、質問を質問で返すのはダメだと思いますよ~、だいたいですね~、それと~、写真の件に何か関係があるんですか~?」

「もちろんありますよ……会長……私の事……少しは調べてきましたか?」

「……い、いえ~、あなたが中庭に一人向かったという目撃情報があったから確認しようとしただけなんですけどね~」


 強めの口調になるゆるふわ宏美に対して、冷静な口調の女子生徒という二人の口論は、完全に女子生徒が主導権を握っている。正直、事実確認するだけのつもりだったゆるふわ宏美は、彼女に対しての情報が圧倒的に少なかったのである。


「なるほど……ねぇ……会長……会長がどうして朝宮君のファンクラブを作った時……人数がこんなに簡単に集まって、結束力も高かったのか……疑問に思ったことはないですか?」


 女子生徒に対して、どう対応しようか悩んでいたゆるふわ宏美に、突然そう言い放ち、疑問を投げかける。彼女の言葉に、ゆるふわ宏美は目を見開いて驚きの表情を浮かべると、その表情が見れたことに満足したのか女子生徒は、見下し口角をあげる。


「そもそも、会長……少しも疑問に思わなかったのですか? 朝宮君と夜桜さんのこと」

「……どういうことですか~?」

「会長って……やっぱり、少し残念ですよね」

「……」


 女子生徒の台詞で、先ほどの馬鹿にしてきた梨緒を思い出し、少しムッとなるゆるふわ宏美だが、とりあえず、わたしぃは馬鹿じゃないですよ~っと黙って相手を睨みつける。


「……まさか、本当に疑問にも思わなかったんですか? 朝宮君と夜桜さんが幼馴染だってこと……この学校で誰も知らないってことに」


 ゆるふわ宏美は呼び出し、犯人なら彼女を注意するだけのはずだったのだが、完全に主導権を奪われ、女子生徒に主導権を握られる。彼女の発する言葉に息を呑むゆるふわ宏美なのである。


この女子生徒は郁人と美月が幼馴染であると知っている。そのことに対して、驚きを隠せないゆるふわ宏美なのである。


「え!? あ、あなたは知っていたんですか~? 郁人様と美月さんが幼馴染だってことを~!?」

「それはそうですよ……だって、小学校から一緒の学校なんですから」


 ゆるふわ宏美は虚を突かれ、今更ながらに重要なことに気づいてしまう。


そう郁人と美月は徒歩通学で確かに結構距離はあるものの、もよりは近い学校ということ、つまり、この学校には郁人と美月と同じ小学校や中学出身の生徒が居てもおかしくないという事実を、なのに、誰も郁人と美月が幼馴染と知らない……否、知らないふりをしていたということに……。


「……気づきましたか?」

「……た、確かに~……今考えればおかしな話ですね~……郁人様と美月さんが幼馴染なことを知っている人は……いて当然……なのになぜか梨緒さんと覇道さんが事実上幼馴染という事になっているというのは~……あまりにも……今考えると~、確かにあまりに不自然ですね~」


 つまり、意図的に同じ出身校の生徒達が隠蔽し、事実を捻じ曲げていたということである。そして、今、ゆるふわ宏美の目の前に、隠蔽工作を行った犯人の一人が居るという事実に冷や汗が流れ、息を呑む。


「そう……つまり、同じ中学校出身の人達は朝宮君と夜桜さんが幼馴染という事を黙っていた……いえ、あえて幼馴染ではないという情報を拡散し……三橋さんや覇道さんの嘘に乗っかた……なぜかわかりますか? 会長?」

「……」


 淡々と告げられる事実に、ゆるふわ宏美は寒気を感じる。目の前の人物に恐怖心を抱く。


「……その方がみんなにとって都合が良いから……そういうことですよ……会長」


 冷たく据わった女子生徒の目が、目を見開き驚きの表情のゆるふわ宏美を映す。


 あまりにも恐ろしい事実、つまり、ゆるふわ宏美が何の疑問も抱かずに、郁人は凄いモテるからと、女子生徒達を制御するためにファンクラブを作った段階で、すでに昔から郁人が好きだった女子生徒達が集まっていたのだとしたら、上級生の加入も初日に申請があったことを想いだす。


その上級生達も、郁人と同じ出身校で、最初から彼の事が好きだったとしたら、ゆるふわ宏美は、そんなことを考え恐怖で震える。


 だが、今はそのことと、合成写真の件は別なのである。恐怖心を必死に振り払いゆるふわ笑顔で誤魔化し、目の前の女子生徒を見つめる。


「……そのお話と~、写真の話は別ですよね~? いいですか~……世の中にはやっていいことと~、悪いことがありますよ~!! わたしぃは、合成写真の件の話をするためにあなたを呼んだんですよ~!!」

「では~……会長が……朝宮君とやろうとしていることは……正しいのですか?」

「な!?」


 話を無理やり戻して、怒るゆるふわ宏美の説教モードを、あざ笑うかのように、一刀両断する冷たい女子生徒の問いに、心臓を掴まれたような感覚がゆるふわ宏美を襲い、驚きの声をあげる。


「な、何のことですかね~?」


 この女子生徒は郁人が今からやることを全て知っているかもしれないという事実と、どこからか情報が洩れ、どこまで知っているのかと恐怖するものの、なんとかゆるふわ笑顔を浮かべ、誤魔化そうとするも声がうわずるゆるふわ宏美なのである。


「……会長……会長は、なぜあんなことをしたのかと聞きましたね? はっきり答えてあげますね……それは夜桜さんとだけは朝宮君と付き合ってほしくないから……それだけですよ……会長」


 どこかで聞いたようなことを言い放つ犯人の女子生徒相手に何も言えなくなるゆるふわ宏美、しばらく、嫌な沈黙が流れるも、意を決し疑問をぶつける覚悟を決め、郁人がよくやるように、両手を組み、口元を隠し、シリアスモードになるゆるふわ宏美なのである。


「……そ、それはなぜですか~?」

「朝宮君は……正直、夜桜美月が居なければ……もっとクラスの中心人物になれる……つまり、陽キャだったと思う」

「そ、それは~……ど、どうなんでしょうか~?」


 いきなり、斜めな女子生徒の発言に、肩透かしを食らい、シリアスモードが解けるゆるふわ宏美は、えっとなり、両腕を組んで、陽キャの郁人を想像しようとして、ないないと心で否定し、心の底から同意できないのであった。


「会長って、朝宮君といつも一緒に居るのに彼の良さには何も気がついてないんですね?」


 呆れ否定するゆるふわ宏美に対して、逆にため息と憐れみの視線を向けそう告げる女子生徒なのである。


「朝宮君は……本来は優しくて、頼りになって、凄く話しやすい……いつも一緒に居る会長ならわかるんじゃないですか?」

「……それは~……そ、そうですね~……で、でもい、意外と陰キャですよ~……郁人様」


 確かに、話しやすいし、ゆるふわ宏美も郁人の事を意外と頼りにもしているが、決して今まで接してきた感じやイメージでは、陽キャ要素は皆無だと断言できるゆるふわ宏美なのである。


「そう……それこそ!! あの夜桜美月のせいなんです!! あいつが居なければ、朝宮君は男子生徒に嫌われることもなかったでしょうし……今みたいに、陰キャみたいになることもなかった!! 全てあいつのせい!! わかります? 会長……夜桜美月と言う存在が、朝宮郁人という本来の性格を歪ませたの!!」


 今まで冷静だった女子生徒が大声をあげて怒りを露にし、叫ぶのである。呆気にとられるゆるふわ宏美は、ただ茫然と彼女の話を聞く。


「だから、夜桜美月を許さないし……夜桜美月だけは認めない……これは……我々の総意ですよ……会長……つまり、あの写真は警告です」

「……け、けいこく~?」

「夜桜美月……お前には覇道とかいう偽の幼馴染がお似合いだという」

「そ、それならはっきり言葉で伝えればいいじゃないですか~? こんな姑息な手段を取らずに~」


 怒り、憎しみ、色々な感情がまじりあった濁った瞳で、ゆるふわ宏美を捉えながら、合成写真を作り張り出した理由を淡々と語る女子生徒に対して、あまりの自分勝手さと卑怯なやり方に、ゆるふわ宏美は、正しいと思ったことを口にだし怒り叱る。


 そんな、ゆるふわ宏美の言葉に激昂する犯人の女子生徒なのでる。


「会長はいいですよ!! 可愛いから!! 私なんかとは違う!! 私は相手になんてされない!! 朝宮君の相手になんてされないモブなの!! 醜くて不細工だもの!! そんな私が……夜桜美月相手にはっきり言う? 無理に決まってるでしょ!! わかるでしょ!! 私みたいなのはこういうやり方しかないのよ!!」

「……そ、そんなことは~」

「下手な同情はやめて……そんな整った顔で言われても……嫌味でしかない……でも、会長……あなたがファンクラブを作った時……こんな私でも……いや、私達でも夢を見れると思った……思ったのに……」


 犯人の女子生徒の心からの叫びに、なんて言っていいのかわからず、言葉が詰まるゆるふわ宏美なのである。犯人の女子生徒は戸惑うゆるふわ宏美を真直ぐ見つめ、悲しそうな表情を浮かべ語る言葉に、ゆるふわ宏美は心が痛む。


「会長は!! 私に!! 私達に夢を見させてくれるためにファンクラブ作ったんじゃないんですか!?」

「そ、それは~……」

「だから……また、同じようにやったの……二人の仲を引き裂くために……今度はあの人を使ってやった……これはね!! 私の……いえ、私達の総意なの!! あいつだけは!! 夜桜美月だけは認めない!! 朝宮君の隣に居るのを!! 絶対に!!」


 もはや、何も言えなくなったゆるふわ宏美に対して、犯人の女子生徒も腕を押さえ、苦しそうに押し黙っている。犯人の女子生徒をここまで駆り立てる理由は何なのだろうとゆるふわ宏美は考える。


 思い当たる事は一つしかない。だから、ゆるふわ宏美は、意を決し尋ねることを決める。


「……あなたは郁人様達とは同じ小学校だったんですよね~?」

「そう……です……そして、朝宮君が変わってしまった事件の事もすべて知っているの……あの時……私は同じクラスだったから……」


 やはりと、得心がいったゆるふわ宏美は、郁人達の過去を知ろうと、知らなければと、目の前の犯人の女子生徒に尋ねることにする。


「……その~……小学校の時に何があったんですか~?」

「……もう……私からは何も言うことはないですよ……そもそも……会長は夜桜さんと親友なんですよね……小学校の時のことを聞きたいなら……夜桜さんから全て聞いてください……まぁ、夜桜さんが話すとは思えませんけどね……あの性悪女が!! 自分の都合の悪いことを話すとは思えない!! そんなんだから、イジメられるんですよ……嫌われるんですよ……夜桜美月はね!!」


 はっきりと拒絶され、美月に対して怒りを示す彼女の姿がある人物と重なる。ゆるふわ宏美は、なぜか政宗の事を思い出していた。そんな、心ここにあらずのゆるふわ宏美に、女子生徒は落ち着きを取り戻し、呼吸を整えると話を続ける。


「理由は以上……それで……会長は私をどうするつもりですか? 朝宮君のファンクラブの会員から外しますか? 別に……いいですけどね……今までと一緒で……遠くから朝宮君を見ているだけなのは変わらないから……あ、このこと……朝宮君に言っても意味はないですからね……前も同じことした時、バレて注意されたことありますから……でも、やめなかった……そういうことですよ……会長」

「……」

「なんにしろ……二人と同じ中学出身の人達は……二人が付き合うのだけは……絶対に許さないと思いますよ……誰も……ね」


 女子生徒は捨て台詞を吐き捨て、踵を返し、郁人様ファンクラブの部室から去っていく、彼女が去った後も、部室の扉を呆然と眺めるゆるふわ宏美の耳から彼女の捨て台詞がずっと残り響き続けるのだった。






 フラフラした足取りで、ゆるふわ宏美は予鈴と共に教室に戻って来た。いつの間にか、授業が始まり、いつの間にか授業が終わる。その間、ずっと犯人の女子生徒が言ってたことを考えていた。


 結局、郁人や梨緒が言った通り、犯人と会話しても意味はなかった。いや、本当に意味はなかったのだろうか、そんな考えがずっと頭を駆け巡っていた。


 ゆるふわ宏美は、郁人の方に顔を向けると、今から、また廊下に集まった女子生徒達の対応に向かおうと立ち上がった郁人とバッチリ視線が合う。


「……郁人様は……犯人が誰か知っていたんですか~?」


 重い足取りで、郁人の方に近づいて、ゆるふわ宏美は元気なく郁人に訊ねる。


「……いや……ただ、なんとなく予想はついただけだな? あれだけ、止めたのに……探し出したのか?」

「……はい~……すみません~」

「別にいいが……で……そいつは何か言ってたか?」

「……美月さんと郁人様の仲は絶対に認めないって~」

「なるほど……だから、言っただろ……放っておけって……注意してやめたなら……とっくにこういうイタズラはやめてるからな」

「……わたしぃはどうすればよかったんですかね~」


 珍しくしおらしく、おとなしいゆるふわ宏美は、すがるように郁人に尋ねるが、郁人の方は呆れた様子でゆるふわ宏美を見下ろしている。


「まぁ、とりあえずは、今からこの騒動を終らせた後に、ゆるふわはアイドル活動すればいいだけだ……簡単な話だろ」


 郁人はドヤ顔で、意気消沈と落ち込むゆるふわ宏美にそう言い放つのである。その発言に、驚き、郁人の方を見上げて、目を見開き、開いた口が塞がらなくなるゆるふわ宏美なのであった。


「……後は……何か言ってたか?」

「……えっと、小学校も同じで……その~」

「……いいにくいなら、言わなくていい……なんとなく想像ついたからな」


 郁人は両腕を組んで明後日の方を見ながら、何気ない素振りでゆるふわ宏美に対して探りをいれる。そんな郁人に、言いよどむゆるふわ宏美に、全て察したという雰囲気な郁人なのである。


「……郁人様」

「まぁ、小学校の頃の話は、俺の口から話したことが全部だ……小学校の時、イジメにあった……だから変わった……そんなありふれた出来事なだけだ……他に語る事はないし、ゆるふわが気にする必要はないからな」

「……そうですか~」


 あっけらかんとそう言い放つ郁人に対して、ゆるふわ宏美はそれ以上は郁人に対して、何も聞けなくなる。


「もういいか? 早くこの事態を収めないと……先生に何言われるか……」


郁人はそう言うと、廊下に向けて歩いて行く、そんな彼の背中を見つめながら、ゆるふわ宏美は、答えが出ないことを考えても仕方ないと覚悟を決める。郁人が語る気がないというなら、美月に過去のことを聞くことを、そして、二人の過去と向き合うという覚悟を……。


「郁人様……すみませんが~、わたしぃはまだ用事があるので~、もうしばらく頑張ってください~」


 そう郁人に告げると、ゆるふわ宏美は、またも脱兎の如く教室前の扉から廊下に飛び出していく。


(まさか、犯人まで突き止めるとは思わなかったが……まぁ、どうでもいいか……俺がやることは別に何も変わらないからな……今も……昔もな)


 逃げて行ったゆるふわ宏美を見逃し、呆れる郁人は、とりあえず、目の前の女子生徒達の対応に向かう。ゆるふわ宏美が何をしようと郁人自身がやることは何も変わらないのだから……。

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ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、 涼風悠 @hotatenonono

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