第230話サブヒロインは、ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインのために頑張るのである。5

 ゆるふわ宏美は、何度も7組教室に戻ろうと抵抗する政宗を、赤ちゃん言葉であやしながら、なんとか郁人様ファンクラブ部室まで連れて来ることに成功する。


「……貴様……こんなところに連れてきて何の用だ? 俺は、あのクソ女をどうにか説得して、早く美月のところに行かなければならない……あんな、あの時のような……あんな美月を放ってはおけないのだ!! 話があるなら手短にしろ!!」

(この人~……あれだけ醜態晒して~、まだ上からくるなんて~、どんな神経してるんですかね~)


 ゆるふわ宏美は、事情聴取を行おうと、政宗を部室の中に無理やり押し込み、会長席にゆるふわっと着席し、郁人がよくやるように、両手を組んで口元を隠す。そんなゆるふわ宏美に対して、対面で尊大な態度ながらも、話を聞くという姿勢になった政宗に、呆れながらも、尋問を始めるのであった。


「覇道さん……すみませんが少しお聞きしたいことがあるのですが~?」

「ふん!! どうせ、リレーの件だろう……美月のファンクラブは解散させる……だが、美月とは離れんからな!! 絶対にだ!!」

「いえ~……その件はまた後程お話ししましょう~……今聞きたいのは別件ですね~」


 もはや約束など知るかという横柄な政宗に対して、心の中で呆れ果てるゆるふわ宏美だが、今は例の写真の件を確認することを優先せねばと、怒りをゆるふわ笑みで隠しながら尋問を続ける。


「単刀直入で聞きますが~、例の合成写真を掲示板に張ったのは覇道さんですか~?」

「貴様、なんの話をしているんだ? 訳わからん話なら、俺は美月のところに行くぞ」


 鋭い視線を向け、単刀直入にそう尋ねるゆるふわ宏美に、疑問の顔を浮かべるも、すぐにイライラしながら踵を返し、部屋から出て行こうとする政宗に、右手を前に出して、待ったをかけるゆるふわ宏美なのである。


「待ってくださいよ~!! 誤魔化して逃げようとするってことは~、やっぱり、犯人は覇道さんなんですね~!! 本当に人間として終わっている人ですね~!! 覇道さんは~!!」

「なんだ!! 貴様!! なんの話をしているか知らんが、貴様にそんなことを言われる筋合いはない!!」

「リレーの勝負に負けて~、美月さんに突き放されたからって~、やっていいことと悪いことがありますよね~!! あんな合成写真作ってまで~、美月さんの傍に居たかったのですか~!?」

「合成写真!? 細田……貴様は何の話をしているんだ!!」

「まだ、とぼけるんですか~!! だからですね~!!」


 ゆるふわ宏美は政宗を叱りつけるが、何のことかさっぱりわからないと怒る政宗に、朝の合成写真事件の事を事細かに説明する。


「悪いが……俺は知らん……そうか……それで美月の様子が……くそ!! 誰だそんなことをしたやつは!! 美月を悲しませるとは!! 許せん!!」

「……本当に~覇道さんじゃないんですか~?」


 事情を聞いて、すぐに怒りを露にする政宗に対して、疑惑のゆるふわジト目で疑うゆるふわ宏美を睨む政宗は、鼻を鳴らす。


「当たり前だ!! 俺と美月はつきあってなどいないし……そもそも、そんな卑怯な手は使わん!! 俺は美月の幼馴染なんだからな!!」

「……その何かにつけて~、幼馴染強調するのやめてくださいよ~……正直、気持ち悪いですよ~」

「なんだと!! 貴様!!」

「そもそも普通は幼馴染の事を~、そんなに幼馴染アピールしないと思いますよ~」

「……」


 不満と怒りに満ちた表情で、自分は犯人ではないと豪語する政宗の言葉を、一旦は信じようとゆるふわ笑みに戻るゆるふわ宏美だったが、何かと美月と幼馴染アピールをする政宗にいい加減に辟易してきたので、呆れながら鋭い指摘で、政宗を黙らせるのである。


「しかし~……覇道さんじゃなとすると~、もう、わたしぃには~、心当たりがありませんね~……覇道さんは~、犯人に心当たりとかないですか~?」

「……全くない……そもそもの話、なぜそんなことをする必要があるかわからん……だが、やはり、怪しいのは朝宮の身内だろう!! あの三橋とかいう女じゃないのかい? あいつが一番怪しいと思うが!!」

「梨緒さんですか~……どうしてそう思うんですか~?」

「美月に嫌がらせをして、なおかつ俺と美月が付き合っているという噂を吹聴しようなどと考える奴など……あの女くらいだろう……本当にムカつく女だ……朝宮に騙されているとも知らず……」

「覇道さんって~、前から思っていましたけど~……郁人様のこと~、敵視しすぎじゃないですか~?」

「貴様こそ、朝宮などに懐柔されて可哀想な女だ……朝宮郁人という人間は女を自分の玩具としか思っていないクズだぞ……ヤツは、女の事を自分を飾るファッションの様にしか思っていない……まぁ、そんな男の方がモテる世の中が間違っているのか……そんな男を好きになる女が馬鹿なのか……」

「……郁人様への偏見が凄すぎますよ~……そもそも~、それ信憑性のない噂じゃないんですか~?」

「……噂か……まぁ、今の貴様に何を話しても信じられんだろうが……俺は事実を述べてるにすぎん」


 郁人に対していつも通り怒りと憎しみを込めてそう言い放つ政宗に、頭を抱え呆れ果てるゆるふわ宏美、そんな彼女を憐れむ政宗なのである。


「はぁ~……まぁ~、この話は終わりにしましょうか~……あとは~、白銀さんの件ですが~……覇道さん……とりあえず~、わたしぃが仲裁しましょうか~?」


 ゆるふわ宏美は、この会話は無意味と判断し、会話を早々に打ち切り、現状一番問題になっている政宗と白銀達との関係改善の手伝いを申し出るが、疑惑と迷惑そうな表情を浮かべる政宗なのである。


「貴様……何が狙いだ!?」

「別に~、なにも狙ってないですよ~……今のままだと~、美月さんにも迷惑がかかるじゃないですか~? それに~、覇道さんも困っているわけですよね~? つまり、二人を助けたいって言うわたしぃの親切心ですよ~」


 信用できないと疑惑の表情の政宗に、ゆるふわ笑みを浮かべる口元に人差し指を持っていき、優しくそう言い放つゆるふわ宏美なのである。


「ふん……貴様の手など借りんでも、俺が何とかするさ」

「……先ほどの様子見るに~、覇道さんが~、一人で何とかするのは無理だと思いますけど~……というか~、覇道さんが何とかしようと暴れるほど~……美月さんにも敵意が向きますから~、正直大人しくしてほしいんですが~」

「貴様に心配されんでも問題ない!! それに美月に何かあれば、この俺が守るさ!!」

「……あのですね~……覇道さんがそう言った行動が~、一番美月さんを危険にしてるって~、気がついてますか~?」


 何をどうやって守ると豪語しているのかと、胸を叩き自信満々な政宗に、呆れて頭を抱えるゆるふわ宏美は、結構強い口調で事実を口にするのである。この男が動いて自体が好転したことがないため、ゆるふわ宏美は、心の底から、政宗にはおとなしくしていて欲しいのである。


「ふん!! 貴様に何を言われようと俺が美月を守る!!」

「……そうですか~、では~、はっきり言いますね~!! 今の状況は全て覇道さんの無責任な行動が原因なんですよ~!! 美月さんを一番危険に晒しているのは~、覇道さん……あなたなんですよ~!!」


 自分こそが美月の騎士(ナイト)と言わんばかりの政宗に、呆れながらも、小学生を叱るように諭すゆるふわ宏美の表情は真顔なのである。


「そんなことはな……」

「あるんですよ~!!」

「……こ、これも朝宮の……」

「なんでも郁人様のせいにすればいいって考え~、そろそろやめませんか~?」

「……くっ!! し、しかし、貴様のせいでもあるだろう!!」


 何もかも周りが悪いで押し通そうとする政宗に、心の底から軽蔑と失望しながらも、なんとか彼を更生させられないかと悩むゆるふわ宏美は、とりあえず、説得することを決める。


「……まぁ~、確かに~、わたしぃにも悪いとこはあるかもですが~……あんなに白銀さん達を煽ったのは覇道さん達ですよね~?」

「そ、それは……」


 とりあえず、現実を理解してもらうために、自身も悪いけど、あなたも悪いですよと説得を試みるゆるふわ宏美に、動揺する政宗なのである。意外と話が通じるかもと希望を持つゆるふわ宏美なのである。


「わたしぃに~、表立って仲裁されるのが嫌だというのなら~……白銀さんには~、裏でわたしぃから教室に入れてもらえるように~、お願いしてあげますから~……覇道さんは~、しばらくはおとなしくしていた方がいいですよ~」

「……し、しかし、美月が……」

「美月さんの為にも……今はおとなしくしておくべきですよ~……そもそも、負けたら美月さんに近づかないと賭けに乗ったのは覇道さんですよね~? だいたいですね~、あれだけ、白銀さん達を煽っておいて~、有耶無耶にしようって言うのは~、さすがにどうかと思いますよ~」


 そもそも、政宗がプライドを捨てて、本気で謝罪すればここまで話は拗れていなかったのではと思うゆるふわ宏美は諭すように政宗にそのことを伝える。しかし、やはり納得のいかない様子の政宗なのである。


「……いや、これも全部朝宮が……」


 視線を逸らし、口癖のように郁人の名前を出す政宗に、流石のゆるふわ宏美も血圧急上昇で血管がムカムカッとなり、目の前の机に対して、ゆるふわ台パンを繰り出してしまうのである。


突然の台パンにビックっとなる政宗を睨みつけるゆるふわ宏美は本気で怒っているのである。


「もう、いい加減にしましょうよ~!! この状況は覇道さんが悪いんですよ~!! そもそも、郁人様が負けたら~、覇道さんはどうしてたんですか~? ああやって、白銀さん達みたいに、言いたい放題したんじゃないんですか~? いえ、してましたよね~? 結局因果応報ってことですよ~」

「……」

「いいですか~……少し頭を冷やした方が良いですよ~……これ以上美月さんに嫌われたくはないですよね~?」

「み、美月は俺の事を嫌ったりは!!」

「嫌ってますよ~!! もう、目を背けるのはやめた方が良いですよ~!!」

「………………」


 ゆるふわ宏美は怒りのあまり、政宗が美月に嫌われている事実を、はっきり伝えると最初は否定するも、その言葉を真っ向から否定し、事実をナイフの様に突きつけるゆるふわ宏美の言葉に、顔を伏せハイライトオフの瞳で地面を見つめ黙る政宗なのである。


「はぁ~……とりあえず~、しばらくは~、美月さん達の為にも~、大人しくしていてくださいね~」

「……そ、そういう訳にはいかない!! 俺が、俺がここで諦めたら誰が美月を守るんだ!? 朝宮のクズから!! 誰が!! 俺がぁぁぁ!! 俺が!! 俺だけが守ってやれるんだ!!」


 少し落ち着きを取り戻し、冷静になったゆるふわ宏美は、暗に何もするなと政宗に伝えると、その言葉に不服と詰め寄り、今度は政宗が、ゆるふわ宏美の前の机を両手で台パンし心の底から、美月を守ると叫び威圧するのである。


しかし、あまりにも薄っぺらい政宗の発言と行動に、全く心動かされないどころか、逆に滑稽なゆるふわ視線を政宗に向けているゆるふわ宏美なのである。


「……覇道さん……残念ですが~……あなたに美月さんを守れるほどの力はないですよ~……むしろですね~、今、覇道さんが暴れれば~暴れるほど~、美月さんの立場が悪くなるってわかってますか~?」

「ぐぐぐぐっ!! こ、これも全部貴様等がリレーで勝つからだろ!! すべて貴様等が悪い!!」

「つまりは、もしもリレーで勝っていれば~、覇道さんは好き放題できたって訳ですか~? 本当に嫌な性格してますよね~? はっきり言って~……美月さんに~、いえ~、人に好かれる要素が全くないですよね~? 覇道さんは~」

「な、なんだと!! き、貴様!!」


 政宗の心の底の醜悪な部分を見透かすゆるふわ宏美の視線に対して、不快感を感じ、顔歪め、怒りを露にする政宗は、大声でゆるふわ宏美を黙らせようと威圧するのである。そんな政宗の虚勢に、もはや恐怖心は皆無なゆるふわ宏美なのである。


「はっきり言います~!! 今の覇道さんは誰から見ても~、カッコ悪いですよ~!! 守るって言葉で言えば~、守って~、って女子が惚気ると思っているんですか~? 馬鹿にしないでください~!! 愛している~、可愛い~、君だけだよ~、君を守る~とか当たり障りのないこと言っておけば~、女子が惚れると思ったら~!! 大間違いですよ~!!」

「そ、そんなことは思っていない!!」

「思っていますよ~!! いいですか~!! 顔が良ければ~、イケメンなら~何をしても許されるって言うのは~、都市伝説なんですよ~!! イケメン無罪何て思い上がらないことですね~!!」

「……な、なら、朝宮は!! 朝宮は何をしても許されるというのか!! 美月を悲しませ、周りを不幸にし!! あいつこそイケメンでやりたい放題じゃないか!!」

「だから、自分も同じように好き放題して良いって言うんですか~?」

「そ、それは……」


 政宗は、生まれながら、イケメンで才能にも恵まれていたのだろう、女子から好かれはしても嫌われたことなど経験ないのだろうと、傲慢な態度の正体にゆるふわ宏美は気がつき、指摘し、大声で威圧し返すのである。


 ゆるふわ宏美の言葉が、今の自分の心に突き刺さったのか俯き黙ってしまう政宗なのである。


「はぁ~……もう、これ以上醜態を晒さないでくださいよ~……はっきり言いますけど~、今の覇道さんは~、本当に気持ち悪いですよ~……誰かに好かれる要素本当に~ゼロですよ~……だから~、美月さんも~、覇道さんのこと嫌いなんですよ~」

「……なっ!? なんだと!! そこまで言うのか!? 貴様!!」

「はっきり言ってあげますね~、今の覇道さんは~、美月さんに嫌われて当たり前ですよ~……良い機会ですから~……冷静に自分を見直した方が良いと思いますよ~」

「好き放題言うじゃないか!! 本当にムカつく奴だな!!」

「いくらでもムカついてくれても構わないですよ~……いくらわたしぃを嫌っても~、覇道さんが~、美月さんに嫌われているという現実は変わらないですからね~」


 ゆるふわ宏美は、いつかはこの話を政宗としないといけないと思っていたのである。今の7組の現状はあまりに不安定であり、美月と政宗の関係性を知っているゆるふわ宏美からすると、完全にストーカーな政宗には、しっかりと事実を認識してもらい改善してもらう必要性を前々から感じていた。


 いい機会なので、ここで決着をつけようとするゆるふわ宏美なのである。怒りで睨みつけてくる政宗の視線に、逃げてはダメだと、睨み返すゆるふわ宏美なのである。


「では~、覇道さんにお聞きしますね~……今の現状で~、覇道さんがどうやって美月さんを守るおつもりですか~? そのプランを、是非ともわたしぃに聞かせてくださいよ~?」

「……フン!! なんで敵である貴様にそんなことを教えないといけない?」

「……どうせ~、ノープランなんですよね~?」

「……」


 守ると豪語する政宗に対して、ゆるふわ宏美は、ゆるふわっと立ち上がり、政宗の前まで詰め寄り、上目遣いで尋ねる。彼女の探るような視線から目を逸らし、誤魔化す政宗に、両手をあげて、やっぱり何にも考えなしだったのですね~と呆れ果てるゆるふわ宏美なのである。


「ほら~……いいですか~? 今の覇道さんに美月さんを守ることは~、はっきり言ってできませんよ~……むしろ~、危険にさらしていると言っても過言ではありませんよ~!!」

「そんなことはない!! 美月を守れるのはこの俺だけだ!!」

「俺だけですか~? 今の覇道さんがどれだけ学校の人達に嫌われているか~? わかっていますか~?」

「な、なんだと!?」

「理解できてない様子ですが~……正直言って~嫌われる要素は沢山ありますよ~、中庭の件、リレーの件、あと、永田さんと美月さんに土下座させた件」

「な、なんでそれを!?」


 後ろで手を組み、左右にうろうろしながら、政宗の悪事をあげていくゆるふわ宏美の最後にあげた例で、あからさまに動揺する政宗なのである。


「……結構噂になってるんですよ~? 親友と幼馴染を土下座させたって~」

「き、貴様が流したんじゃないのか!? 卑怯だぞ!!」

「いえ~、7組の陸上部の方達が武勇伝のように語ってたらしいので~、自業自得ですね~」

「な……なんだと!? あ、あいつら!!」

「とにかくですね~……覇道さんの好感度はぶっちぎりの~マイナス何ですよ~……そんな人が~、美月さんの近くに居たら~、どうなるか~? もう説明しなくても~、わかりますよね~? そもそもですね~……守ると豪語していた対象に対して~……土下座させるのは人としてどうかと思いますよ~?」

「……くッ!! ち、違う!! あれは美月が勝手に!!」

「……本当に~、人として終わってますよ~……あなた」

「くっ!!」


 絶対零度のゆるふわ宏美の冷たい眼差しと言葉が、政宗の心に突き刺さる。最愛と豪語する相手にまで責任を押し付けようとする政宗に、心の底から見損なったゆるふわ宏美は、ため息をつき、俯く政宗に話を続ける。


「まぁ~、さすがのあなたでも~、今の現状が理解できたみたいですね~……まぁ~、土下座の件は噂にしかなっていないので~……誤魔化すことは可能ですよ~……美月さんと永田さんが許してくれて~、協力してくれればですけどね~」

「……お、俺は悪くない!! 俺は悪くないんだ!! あれは浩二が!!」

「だから、いい加減!! やめた方が良いですよ!! 誰かのせいにするの!!」

「ッッッ!!!!!」

「……別にわたしぃの事が嫌いでもいいですし~、郁人様を嫌っていても問題ないですよ~……ただ~、現状に目を瞑って、反省しないで~、誰かのせいにするのは~人として終わっていますよ~!! だいたい、今、心の底から~、自分は美月さんの幼馴染って~、立派な君の幼馴染だと胸を張って言えますか~?」

「……」

「言えませんよね~? いいですか~? あなたが今の現状を打破できるプランがあるというなら~、わたしぃは手を引きますよ~……7組のことは~、7組で解決した方が良いですからね~……でも~、何もプランがないまま~、暴れて~、美月さんにこれ以上迷惑をかけたら~、本当に~、美月さんに嫌われちゃいますよ~? いいんですか~!!」

「く!! そ、それは……な、なんとかしてみせる!! 美月と話をできれば!! 何とかなるはずだ!!」

「なんとかって~? 具体的には~?」

「なんとかは!! なんとかだ!!」

「はぁ~……お話になりませんね~」

「な、なんだと!!」

「……はっきり言いますね~!! 今、美月さんにとって外敵があるとすれば~……それは~、あなたですよ~!!」

「な!? き、きさまぁぁーーーーーーーーーッッッ!!」


 激しい口論の末、完全に論破された政宗は、ゆるふわ宏美の胸倉をつかむ、勿論、対格差があるので、宙に釣られるゆるふわ宏美は、怒り狂い拳を振り上げる政宗を、冷たい視線で睨みつける。


「いいですよ~……殴ってくれて~、構いませんよ~……正直、停学か退学になってくれた方が~、後々楽ですからね~……今あなたが美月さんの近くに居るだけで~迷惑ですからね~」


 そう冷たい声で、冷静に言い放つゆるふわ宏美に、悔しそうに、泣きだしそうに、振り上げた拳を、下ろし、胸倉をつかんで宙づりにしていたゆるふわ宏美を地上に下ろす政宗なのである。


「クッ!! ああ、貴様の言う通りだ……美月を守るプランなどない……今の俺にできることなど……ないと……わかっている……わかっているさ……だが!! それでも!! それでもだ!! 俺が美月を守らないといけないんだ!!」

「……はぁ~、だから~、守るって~……言葉でだけなら幼稚園児でも言えますよ~? 現状、守る事は無理なんですよ~……今のあなたには~」


 まだ、駄々をこねるように、美月を守ると言い続ける政宗に、乱れた制服を戻しながら呆れ果てるゆるふわ宏美なのである。


「……なんでそこまで~、美月さんを守ると言い続けるんですか~? 理由は何ですか~? 正直言って~、あなた……普通じゃないですよ~? 自分が何してるのか~? どういった行動をとっているか~? もう自分自身……なにもわかってないんじゃないですか~?」

「……貴様に言ってもわからんさ……美月同様に……朝宮に洗脳された貴様には……」

「また~……なんで~、ここで~郁人様が出てくるんですか~?」

「……」

「はぁ~……話たくないなら~、もう無理に話さなくてもいいですけどね~……とにかくですね~……あなたは~、しばらく~、美月さんと距離を置いて、少し静かにしていた方が良いですよ~」

「そ、それはできない!! これは貴様の罠だ!! そうだろ?」

「……頭が痛くなってきましたよ~……本当に~、わたしぃの罠だったら~、こんなに必死に説得しないで~、負けたんだから~、美月さんに近づかないように~で終わる話なんですよ~……理解できますか~?」

「……」

「はぁ~……わたしぃは美月さんの……そうですね~……親友……のつもりなんです~……あなたが認めようと認めないとですね~……だから~……本当は~、美月さんの意思を尊重したいとは思ってるんですよね~」

「……なにがいいたい?」

「……わたしぃが~、美月さんの遺志を無視して~、無理やりあなたと距離を取らせるという事は~……したくないということですよ~……もしも~、美月さんが万が一……いえ、億に一……いえ、極に一……あなたを頼ったりすることがあるとするじゃないですか~?」

「貴様!! なんだ、その途方もない数値は!!」

「まぁ~、その時に~……困らないようにはしててあげたいんですよね~……わたしぃや郁人様はクラスが違う訳ですからね~……わたしぃ達が居ない7組で美月さんにトラブルがあったら~……何かできるのはあなた達だけですからね~」


 クラスが違えば、出来ることは少ないという事実を、悲しそうな表情で告げるゆるふわ宏美を、目を見開き、見つめる政宗なのである。


「だから~、賭けの件もわたしぃがなんとかしますよ~……もちろん~、条件はありますけどね~」

「……条件? ふん!! 貴様の事だ……滅茶苦茶なことを言うに……」

「しばらくは~、美月さんに近づかずかないでおとなしくしている事と~……もう一つは、美月さんが本当に困った時に~、きちんと力を貸してあげることですかね~」

「……前者はともかく……後者は言われるまでもない!!」

「前者も守ってくださいね~……そもそも~、わたしぃだって大変なんですよ~? 怒り狂っている郁人様ファンクラブの方達を説得しないといけないんですよ~? どれだけ大変かわかりますか~?」

「……」


 政宗に詰め寄り、人差し指を突きつけ、交渉するゆるふわ宏美に、心動かされる政宗だが、まだ、納得がいかない様子、そんな彼にどれだけ大変か、腕を組んで、滾々と説明するゆるふわ宏美は、政宗の前に右手の小指を持っていく。


「約束……してください~……美月さんのためにも~」

「……細田……一つだけ聞きたい……これは朝宮の奴の差し金か?」

「いえ~……わたしぃの独断ですね~……はぁ~、郁人様も説得しないといけないんですよ~……どれだけ大変なのか理解できますか~?」


 ゆるふわ宏美の差し出した小指をジッと見つめ、最後の確認と郁人が裏で手を引いてないか確認する。政宗のその疑問に、これから郁人様やファンクラブの人達を説得しないとと思い出し、憂鬱になるゆるふわ宏美なのであった。


「……ふぅ~……たしかに貴様の言う通り……今は貴様の言う通りにした方がいいかもしれないか……だが、もしも、美月に危険があったなら、俺は、何が何でも美月を守りに行くぞ?」

「……本当に美月さんが危険な時なら~……問題ないですけど~……些細なことで~、美月さんの危険だ~? とか言って~近づいたら~……本当に美月さんに二度と近づけさせませし~、白銀さん達に対しても~なにもフォローしませんからね~!! いいですか~? 約束出来ますか~?」

「……不本意だが……約束しよう」


 ゆるふわ宏美の行動に、裏はないと納得する政宗は、指切りと差し出していたゆるふわ宏美の小指を無視して、言葉で約束を交わす。


「はぁ~……とりあえず~、白銀さん達にはわたしぃから~お話をしておきます~……あと、きちんと謝罪はするんですよ~? 覇道さんだって~? いい人とか悪い人とか置いておいて~、美月さんの悪口言われたら~……気分悪いでしょ~? 白銀さん達だって~、同じなんですよ~」


 差し出していた、小指を引っ込め、呆れながら、スマホを取り出すゆるふわ宏美なのである。


「……それは……わかるが……朝宮のヤツは……いや、この話はやめよう……確かに、貴様の言う通りかもしれない……俺も悪かったのは、悪かった……それは認めるさ」

「やっと話がまとまりました~……あ、あとですね~……永田さんとはきちんと仲直りするんですよ~? せっかくできたお友達なんですからね~」

「……」


 政宗の会話を聞きながら、歩きスマホで、自分のデスク向かい椅子にゆるふわっと座り、正面にクルっと椅子を回して、やっと、ひと段落したと安心するゆるふわ宏美は、思い出したように浩二と仲直りするように提案する。


ゆるふわ宏美の突然の提案に黙り込む政宗なのである。


「ま~、あそこまで~、悪態ついたなら~……謝りにくいとは思いますけどね~……でも~、許してくれるか~、許してくれないかは関係ないですよ~……きちんと謝罪はした方が良いですよ~……人として~」

「……頭の……片隅ぐらいには……貴様の忠告を覚えておいてやる」

「そうですか~……もちろん……美月さんにもですよ~……悪いことをしたら~、謝るのは~、人として当然のことですからね~」

「……そう……かもしれん」


 頬杖を突きながら、黙り俯いている政宗にそう言い放つゆるふわ宏美は、とりあえず、後は、通話ボタンを押せば白銀と通話がつながる状態のスマホを政宗に見せながらフリフリする。


「とりあえず~、白銀さんに通話しますね~……なんとか教室に居させてもらえるようにお願いしてみますね~、あ……始業時間までは~、ここでおとなしくしていてくださいね~」

「……す、すまない……か、か……感謝してやろう」

「……滅茶苦茶上からですが~……それでも~、きちんとお礼が言えたんですね~……偉いでちゅね~!! 覇道さん」

「な!! き、貴様!! 子供扱いするんじゃない!!」


 通話ボタンを押して、耳元にスマホを持っていて、白銀が通話に出るのを待ちながら、政宗にゆるふわ笑顔で、会話が終わるまではここに居てとお願いするゆるふわ宏美に、両腕を組み、そっぽを向きながら、顔を真っ赤にしてお礼を言う政宗なのである。


 そんな、彼の態度に驚きの表情を浮かべるゆるふわ宏美は、優しく微笑み、そんな彼を揶揄うのであった。もちろん、揶揄われた政宗は、烈火の如く怒りを露にするのであった。

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