第229話サブヒロインは、ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインのために頑張るのである。4
ゆるふわ宏美は、脱兎の如く1組教室から廊下に飛び出して郁人達から逃走をはかり、7組教室の方に向かって廊下を走る。もちろん、滅茶苦茶、廊下にいた生徒達からは奇異の視線を向けられるのであった。
「はぁ~、はぁ~、郁人様……追いかけてはこないみたいですね~……絶対にアイドルなんてやらないんですからね~!!」
一旦、立ち止まり郁人が追いかけてくるかもと、警戒して後ろを振り向くゆるふわ宏美は、誰も追いかけてきてないことを目視で確認出来て、胸を撫で下ろし、断固としてアイドルはやらないとめちゃデカ声量の独り言と同時に両手の拳を握り締め胸元まで持っていき宣言するのである。
廊下に居る生徒達の視線を独占するゆるふわ宏美は、ハッとなり顔を真っ赤にして、ワザとらしく、コホンと咳ばらいをして、冷静になる。
(さて~、覇道さんに話を聞きに行きますかね~……美月さんの様子も気になるますしね~)
いつも通り、自然体を装って、ソソソと7組教室の扉に近づき、コソコソと中の様子を覗き見るゆるふわ宏美なのである。
「覇道さん……どの面下げて夜桜さんの所に行こうとしてるのかしら? 賭けに負けたのだから、それは許されないっしょ!!」
「だが、あんな落ち込んでいる美月を放っておけない!!」
なにやら、7組教室では現在進行形でトラブル発生中のようで、郁人様ファンクラブ一桁台の白銀&その取り巻き達と自称美月の幼馴染の政宗が教壇にて、対峙し口論を繰り広げていた。
(修羅場じゃないですか~!! そういえば~、リレーの賭けの事すっかり忘れてました~!!)
口論の内容から、政宗が登校してきて、美月の様子がおかしいことに気がついて、急いで近づこうとしたら、郁人派の白銀達に止められたという事らしい。教室内を見渡すゆるふわ宏美は、明らかに寝たふりをしている浩二と、窓の外を眺めて我関せずの美月を見て、これはマズいと判断したものの一旦様子見をすることを決める。
「さて……覇道さん、もちろん……覚えてるっしょ? ご自身が、自信満々に持ち掛けた賭けだもの……まさかとは思うけど……反故にするなんてことは……言わないっしょ!!」
「そ、それは……もちろん、覚えている……だが、今は美月のことが心配だ……幼馴染として、落ち込んでいる美月の元に行ってやらなければならない!!」
「あら……郁人様やウチ等に対して、散々口だけなど、数々の暴言で罵っておいて……さすがに、それはないっしょ……覇道さん?」
「……くっ!! そ、それは……」
堂々と約束を無視しようとする政宗に対して、怒り心頭の白銀なのである。そんな彼女を無視して美月の元に向かおうとする政宗を遮り、通せんぼする白銀なのである。さすがの政宗も白銀の正論に、顔を歪め悔しさをにじませる。
「約束は覚えてる!! だが!! 今はそれどころじゃない!! あんな美月を幼馴染として放っておけない!! そこを退け!!」
「……覇道さん……もし、ウチ等が賭けに負けたとしたら……覇道さんはどういった態度を取ったのかしら? フフフフ、ウチ等の事絶対に許したりしなかったっしょ? つまり……そう言う事」
「訳わからん事言ってないで、そこを退け!!」
「退く訳ないっしょ!! というより、誰に向かってそんな口の利き方しているのかしら? そもそも、まず、リレーで7組が無様に負けたことを……クラスの皆様に謝罪してくださるかしら」
何とか美月の元に向かおうとする政宗を一蹴し、大袈裟な芝居がかったようにクラスのみんなに両手を広げ、謝罪をするようにと言い放つ白銀に、歯ぎしりする政宗は拳を握り締め、クラスメイト達に視線を向ける。
「……くっ!! す、すまない」
「え? 今ので謝ってるつもりかしら? 覇道さん……謝罪はきちんとしないとっしょ!!」
悔しさから、かすれた声で謝罪の言葉を発し、クラスメイト達から視線を逸らす政宗に、呆れ果てたポーズをした後に、地面に向かって人差し指を指す白銀は、土下座しろと暗に示すのである。
「き、貴様!! この俺に土下座をしろというのか!!」
「あら、ウチは土下座をしろなんて、一言も言ってないっしょ……ただ、謝罪はしっかりしないとダメっしょ? ねぇ、皆さん……そう思うっしょ!!」
血管がブチギレそうなほど奥歯を噛み締め、拳を握り締め怒りを堪えながら怒鳴る政宗に、演技かかったように両手を広げ、自身の取り巻きやクラスメイト達にそう問う白銀に、同調し謝罪しろと声をあげる取り巻き達なのである。
「……フンッ!! 貴様等の道楽には付き合ってられん!!」
ついに政宗はブチギレ、白銀を押しのけて、美月の元に向かうのである。そんな政宗を鬼の形相で睨む白銀と取り巻き女子達なのである。
「美月!! どうした? また、朝宮の奴が何かしたのか!?」
美月の机に両手を置いて、窓の外を眺めて我関せずな彼女にそう問い詰める政宗の方を見向きもしない美月なのである。
「おい!! 美月!! 大丈夫なのかい!? 朝宮の奴何をしたんだ!!」
「……」
「美月!!」
「……はぁ~……本当にうるさい人だよ……私……二度と話しかけないでって言ったよね?」
「美月!? お、俺は君の幼馴染として、今の君を放っておけない」
「いいから私の事は放っておいて!! もう二度と近づかないで!! 約束でしょ!! あなたが言ったことだよ……それとも約束すら守れないクズなの? あなたって?」
しつこい、政宗を、無視をしていた美月だが、我慢できずにゆっくり政宗の方に顔を向け、前髪越しにハイライトオフの絶対零度の瞳で睨みつけ、冷たくそう怒鳴りつけるのである。
「そ、そ……そんなことは……し、しかし、今の君を放ってはおけないんだ!! 美月わかってくれ!!」
「……」
流石の政宗も、美月の絶対零度の対応に、戸惑いを隠せないのである。なんとか、美月にわかってもらいたいと、必死の様子な政宗に対して、もう言いたいことは言ったと言わんばかりに窓の外に顔を向けて無視する美月なのである。
そんな二人のやり取りを、嘲笑しながら見守っていた白銀が政宗に近づき、彼の肩に手を添える。
「ほら~、夜桜さんもこう言ってるし~……きちんと約束は守らないとダメっしょ……さぁ、夜桜さんと覇道さんは、今日から半径50m以内に近づいちゃダメっしょ!!」
「な、なんだ!? それは!! そんな無茶苦茶な要求認めるか!!」
いきなり、無茶苦茶なことを言い出す白銀に、流石の政宗も驚きの表情になり、怒りの声をあげる。
「そうそう!! どっちかは教室から出てて行かないとだね~!!」
「ここは、言い出しっぺの覇道だよね~!!」
「そうそう……じゃあ、覇道は教室から出てけ!!」
「「「でてけ、でてけ、でてけ、でてけ!!」」」
白銀の発言に、同意して悪乗りする取り巻き達に、政宗は怒りで震えだし、肩に置かれていた白銀の手を払いのける。
「貴様等!! ふざけるのも大概にしろ!!」
「ふざけてるのはあんたっしょ!! ふぅ~、覇道さん……あれだけ大口叩いて負けて、賭けも反故にして……どの面下げて未だにそんな尊大な態度なのかしら……あれだけ、言われてウチ等がそんな簡単に許すと思っていたのかしら? でしたら、残念!! 覇道さん……あなたのことは絶対に許さないっしょ!!」
声を荒げて怒りを示す政宗に、白銀も怒りで返した後に、冷たく言い放つのである。
「あれは!! 朝宮の卑劣な罠のせいで!! 貴様も貴様達も朝宮に騙されているんだ!! 正気になれ!!」
「ほんと、覇道キモイ!! 出てけ!!」
「それ!! まだ郁人様の悪口言って、本当にダサいしキモイ早く出てけ!!」
政宗は、郁人のせいだと豪語するも、白銀の取り巻き達の怒りを買うだけなのである。
「覇道さん……そんな態度でしたら……夜桜さんにもそれ相応の代償を払ってもらわないといけなくなるかしら」
呆れた白銀は、我関せずな美月を見て、政宗に脅しをかけるのである。
「な!? み、美月は関係ないだろ!!」
「覇道さんが夜桜さんから離れないとなると、夜桜さんに離れてもらしかないっしょ?」
「くっ……!! そ、そんな横暴が通ると思うな!! 俺は貴様等には屈しない!!」
どんどん立場が悪くなっていく政宗は、プライドを優先し、頭を下げることをしない。そんな政宗の態度が気に入らない白銀の要求もどんどん過激になっていき、まさに悪循環といえる。
(さ、流石に仲裁に入った方がいいか? しかし、今行っても美月ちゃんファンクラブの話をされて、さらにヤバい気がするぜ……でも、行くしかないか)
もはや、二人の口論はヒートアップする一方で、流石に寝たふりをしているわけにはいかないと浩二が、仲裁に入ろうかと顔を上げると、教室の中をコソコソ覗いて、様子見をしているゆるふわ宏美とバッチリと目が合うのである。
(細田!! 良い所に来てくれたぜ!! 助けてくれ!!)
(無理ですよ~!! 自分達で何とかしてくださいよ~!!)
(そこをなんとか!! 頼むぜ!! 細田ぁ!!)
アイコンタクトで会話する二人なのである。右手をブンブン左右に振って拒否するも、頼むと両手を合わせて頼みこむ浩二に、仕方ないとゆるふわ宏美が折れるのである。7組教室にゆるふわ笑顔とウォークで入っていき、二人のもとに向かうゆるふわ宏美なのである。
「……あの~、白銀さん……すみませんが覇道さん……お借りしてもいいですかね~?」
「あら、会長……そうですわね……丁度、今から教室から出て行ってもらうつもりでしたのでどうぞ……あ!! どうぞご自由にっしょ!!」
突然の郁人様ファンクラブ会長の登場に白銀のギャル語がぶれる。生粋のお嬢様白銀はギャルに憧れ変なギャル語を話しているが、怒りのあまりいつも通りの口調に戻っていたことに気がつき、慌ててギャル語で了承する白銀なのであった。
(……さ、さすがにそれはどうなんですかね~……一生徒にそんな権限はないと思いますよ~……)
さすがに、教室から追い出すのはどうなのかと困惑のゆるふわ笑みを浮かべながら、近づき自分を連れて行こうとするゆるふわ宏美を睨みつける政宗なのである。
「なぜ、俺が貴様と話さないといけないのだ? 悪いが今は、この女と……」
「いいから~、いきますよ~!! 覇道さんはわたしぃ達に負けたんですからね~!! 大人しく言うことを聞きましょうね~!!」
まだ、勝ち目があると思っているのか、政宗は白銀と口論を続ける気なのであった。正直、このまま口論を続けると、美月や浩二にまで、責任が向けられると、有無を言わさず、政宗を引きづって連れて行くゆるふわ宏美なのであった。
「おい、貴様!! ふざけるな!! 引っ張らなくてもついて行く!! やめろ!!」
「はいはい~、いいからいきまちゅよ~、いいこでしゅからね~、おとなしく~ついて来てくだしゃいね~」
「なんだ、その口調は!! 気持ち悪い!! 俺は赤ちゃんではないぞ!!」
暴れる政宗を、あやしながらゆるふわ宏美は、7組教室から出ると、ぺこりと呆気に取られている白銀達にお辞儀をして、そのまま郁人様ファンクラブの部室まで無理やり連れて行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます