6-3
「桜木先輩」
卒業生の多くが学校を去り、グラウンドの人はまばらになってきた。その隅っこに、伸びをしながらぼんやりと日の光を浴びている調理部部長を見つけた。その襟元には男子生徒にも拘わらず大きなリボンが揺れているから、遠目でも見つけるのに苦労しない。
「葉山か。栞里先輩とは話せたか?」
「はい。桜木先輩も会えたみたいですね」
それだけ言葉を交わして、しばし沈黙が横たわる。わたしたちが会いたかったのは榊先輩くらいのもので、彼女が去ってからもグラウンドに残っている意味はない。それゆえ、用事もなくうろついているわたしたちが出会っても、咄嗟に言葉が出ないのだ。
卒業式後の学校を去るのが惜しくなるほど、わたしたちにとって榊栞里という三年生の存在は大きかったのかもしれない。
「そうだ、桜木先輩。これを」
やることがなかったとはいえ、彼に話すべきことがなかったわけではない。
ポケットに畳んで仕舞っていたB5の用紙を差し出す。
「わたしと担任のサインは済ませたので、あとは部長から鮎川先生に提出をお願いします」
「……入部届?」
見慣れない、というふうに目を丸くしている。
「仲間を集めないと、存亡の危機じゃないですか。同好会では実質やっていけないわけですし。わたしは欠かすことのできない頭数でしょう?」
「そうだな。まずは五人集めないと」
彼は入部届を再び畳んで、大切そうに自らのポケットに収めた。
それから、ふん、と嘲ったように鼻で笑った。
「結局、僕は葉山に頼りきりだな」
「そうでしょうか?」
榊先輩まで巻き込んで江森さんの顛末をひた隠しにしていた人間の評価とは思えない。やたらと秘密にしていたのは、真相に至るまでわたしを遠回りさせて、拙速に事を理解してしまわないようにするためだったはずだ。つまり、わたしのことなどひとつも信用していなかったではないか。
あえて棚に上げているのか、それとも気が付いていないのか、先輩は自らを称えているかのように自慢げだ。
「そうだよ。三学期に入ってからは、ほとんど葉山の計画で事が進んだじゃないか。校則を変えたのは、葉山だと言ってもいいくらいだ」
このごろ褒められることが増えたけれど、わたしの根っこはサブカルチャーの沼にハマった補習常習犯である。いくら褒められても慣れることはない。
「ううん……でも、わたしも先輩なしでは校則を変えようなんて気は起こさなかったと思いますよ。一年前に駅で江森さんとすれ違い、その半年後に先輩と会っていなければ、わたしは制服のために熱心にはなりませんでした」
「頓着していなかったからこそ、僕や江森の奇妙な恰好が強く記憶に刻まれていたわけだね。皮肉なものだな」
「まあ、そんなものですよ」
悪いことではない。桜木先輩にも、江森由菜を知らない時期があったのだから。
「葉山は、これからもネクタイを付けるのか?」
「そのつもりです。前々から、リボンは似合わないような気がしていたんですよね。カワイすぎるというか。タイでもいいかもしれませんが、新しいものは見慣れないので。ネクタイにしておくのがちょうどいいかな、と」
「いいんじゃないか。着たいものを着て、似合っているなら最高だ」
「桜木先輩は? リボン、やめますか?」
「まさか、これからもリボンを付けて過ごすよ。僕によく似合っていると思うし、それに何より――」
彼は自身のリボンに手を伸ばし、ぴん、と両手で引っ張って誇張する。
「これは
調理部部長のリボン 大和麻也 @maya-yamato
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