色めく刀

 後日。天野は警察に逮捕され、今まで盗まれた刀も回収された。これから持ち主の元へ返されていくことになるだろう。

 当然だが、九条先輩は病院に運ばれ、木枯丸はその場で天野から先輩の手へと戻った。その際、木枯丸は「感無量」なんて言って僕に感謝しているようだった。

 で。肝心のカフカについてだけど、前の――というより本来の持ち主、すなわちカフカがマスターと呼ぶ人は、まだ退院までしばらくかかるらしく、それまで帯刀権を僕に譲ってくれた。あくまで(仮)だけど。

 マスターさんが退院した後のカフカの所有については、またそのときに考えることになった。

 そうして今、僕はヒーローモードとしてではなく、普通に帯刀する日常を過ごしている。

 刀狩り事件を解決して以来、僕にとってカフカは……その、なんていうか、無視できない大切な『人』になっていた。

 なんだろうね、この気持ちは。カフカは僕を愛して、護って、そして一緒に戦ってくれた。

 そんな彼女に僕が感じているものは、戦友とか相棒に対するそれとは違う、もっと特別な絆だ。

 なんてことを考えながら、いつも通りに桜並木の通学路を歩いていた。

 舞い落ちた花びらの絨毯を踏みしめながら校門のところまでたどり着くと、そこには一人の立ち姿が。


「あれ? ススムさん。あの人、九条さんじゃないですか?」


 ほんとだ。もう傷は治ったのかな、と思っていると、向こうから声をかけてきた。


「芥川、大事な話がある」


「なんですか、先輩」


 すると先輩はがばっと頭を下げてきた。


「すまなかった! 私の早とちりでお前を勝手に犯人と決めつけてしまった! 許してくれ!」


「いや、もういいですよ、そんなこと! それより頭を上げてください」


「……そうか、ありがとう」


 そう言って上げられた先輩の顔は、気のせいか頬がほんのり薄桃色に染まっていた。


「ところでな、芥川。私は強い男が好きなんだ」


「はあ」


 そこで九条先輩は、常にはっきりしている態度の彼女らしくなく、もじもじしながらとんでもないことを言ってのけた。


「そ、それでだな、芥川。……私の婿にならないか?」


「祝賀」


「はい!?」


 いきなり何言うの、この人!? 木枯丸まで!


「私や天野を相手に戦うお前の姿は、男らしく素敵なものだった。眼帯もさまになっていたしな。だから私は、お前に惚れた」


 うっとりしながら語る先輩の表情は、いつもの男勝りなものではなく、恋する乙女の顔だった。思わず、そのギャップの可愛らしさに時間を止められてしまったけれど。


「つまりだ芥川! 私と添い遂げろ!」


 先輩はすぐさま毅然としたたたずまいに戻って言い切った。

 男らしい! やっぱり九条先輩は九条先輩だった。その思い切りの良さがどうにもうらやましい。

 自分の男としての自信が揺らぐのを感じたのもつかの間。


「とうとうツンデレの本性を現しましたね! でもダメです! ススムさんにはワタシという恋人がいるんですから! ススムさんも、デレデレしないでください!」


 割って入ったカフカの声で、我に返った。その後も、カフカと九条先輩による女の口論は続く。


「私の恋路を邪魔するな! この泥棒刀どろぼうがたな!」


「恋は早い者勝ちです! ススムさんは先着一名限りなんですから!」


 僕は景品か! というツッコミを入れる暇もなく、大声で騒がしく言い争う二人に、周りの注目も集まり始める。

 僕はいたたまれなくなって、先輩に背を向け通学路を全力逆走した。

 後ろの方から「逃げるな、芥川!」と声がするが、聞こえないふりをする。


「カフカ!」


 僕は、自分の腰に下げられた乙女の名前を呼び、なかばやけになって力の限り叫んだ。


「~~~~っ、愛してる!」


「ハイ、ワタシもです!」


 この関係がいつまで続くのか保障はないけど、なぜか、きっと大丈夫だという確信はあった。

 刀だろうが人間だろうが、恋する気持ちは変わらない。そう信じて、僕は彼女とともに桜吹雪の中を駆け抜けた。

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恋×刀〈コイガタナ〉 二石臼杵 @Zeck

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