#8 イベルタ大橋Ⅰ

 行くか行かざるか。ふたつにひとつだ。

 そのコロニーへ行くには唯一の陸路である長大な海上橋を渡る必要があった。

 橋は――というより、橋の先のコロニーがある空間全体は白霧で覆われている。それは例えるならば半球形の屋根ドームのようで、自然現象とは思われない。

「ねえ、イド? これ、絶対に危ないヤツだと思うんだよね」

 わたしは胸元に取付けたキカイ――旅の同行者であるイドに話しかけた。イドなら目の前の異常について何らかの分析をしてくれるかも。

「ムムム――霧自体はただの霧ですけれども。しかしドーム状なのにはいったいどういう理屈が? 明らかに、橋の先の空間を覆っています――空間の範囲は海上の一部分――内部は島や類似する何かだと思いますが」

 不思議な光景は旅で何度か見たことがあるけれど、目の前のそれはスケールが大きすぎてすこし怖い。とはいえ害はないようだ。

「これって何かを隠すためのものかな」

「かもしれません。ねえ、アイビィ。あえて冒険する必要はないのですよ」

「うぅーん……そうだけどね」

 なんて、唸ってはみたものの。

 霧に害がないと分かった時から、わたしは進む気になっていた。

 なんといっても食糧と水がない(海水はしょっぱくてダメ)。疲れてもいる。水浴びだってしたい(海水以外で)。ちなみにまだギリギリ臭くはない、きっと。

 それに波の音のことだってある。イドの失った記憶を探す鍵だという『波』。イドは波の音を聞いた。それは海ではなく、霧の先から聞こえてきたという。

 行かない理由はやま程あり、行く理由はざっと二つあった。

 二つもあるなら、行くのを選ぶのが旅というものだろう。それに、

「こんなの、避けて通るにはもったいないよね?」

 イドの溜め息――とでも言えそうな呆れた声が答える。

「アイビィ、貴女の行き当たりばったり、ワタシはとても心配です」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終末世界と少女の旅路と愚かな選択 都下月香 @moonscent

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ