#EX どうして選べなかったのか

 珍しいことじゃない。

 この世界は終わったものであふれている。

 それは死体であったり、廃墟であったり、かたちのないものであったり――見渡すかぎり終末が広がっている。

 だから、珍しいことじゃない。

「でも、これはレアかも」

 わたしは目の前に並んだ鉄の塊を見て独り言ちた。

 鉄の塊。かつてはクルマと呼ばれていた、人を載せて運ぶキカイだとか。まあ、もう動くことはないのだけれど。

「多いですね。数は、道を埋めつくすほど。ゼンブ壊れているようですが……ああ、内がどうなっているかは考えないように」

 と、胸元の小さな赤いキカイ――相棒イドの心配も仕方ない。

 以前、わたしは「終わった光景」を見てひどく動揺した。イドはそのことを思い出しているのだろう。

「だいじょうぶ、別のコト考えてるから」

「そうですか」

 そうなんです。わたしは目の前の光景に別のコトを考えていた。

 ――道いっぱい埋め尽くすクルマはどれもちぐはぐな向きで壊れていた。道はひとつなのに。向かう方向は同じはずだろうに。

「我を先に、というカンジですね」

「まあ、そうだね」

 世界に終末が訪れてからどれだけ時間が経ったのか分からない。けれどこれを見るに、「そのとき」というのは穏やかなものではなかったんだろうと思う。

「でも……」

 でも、ほんとうに道はこれだけだったのか?

 協力する道というのはなかったのか?

 譲り合って、扶け合って、皆で道を行く選択はできないものか?

 わたしは『でも』の後をことばにできなかった。

 それは、きっと目の前の終わったものに対して誠実ではない。

 結局のところ、

「もしもなんて、意味ないんだろうけれどね」


    ★


「アイビィ、撮っていきましょう」

「え?」

 トル? 物資を?

「写真ですよ、写真」

「わたし、写真撮るキカイ持ってないよ」

「いえ、ワタシが」

「イドが?」

「そのキカイです。正確には、写真撮影と保存の機能アリ」

「マジ?」

「大マジ」

「えっと、じゃあ――まあ、終わったものを忘れない為に」

 カシャリ、と電子音がひとつ、荒野に響いた。

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