方向音痴な伯爵令嬢が取り持つ縁

ルーナ

第1話

本日は王宮で夜会が開催されている。


 だがそんな状況にも関わらず王宮内で迷子になってしまった伯爵令嬢が一人。




 しかし彼女は今までこんな風に迷子になってきたことが沢山あった。


 例えば一月前、我が伯爵家の庭園で散歩していたところ何故か道を踏み外し迷子になったり、はてまた三ヶ月前なんかは同じように王宮内で迷ったり。昔から方向音痴なのは変わらない。


 けれども毎回すぐに婚約者であるユベールが見つけてくれる。


 


 だが彼女には不思議に思っていたことが1つあった。




『なぜユベール様はいくら探すのが難しい場所であってもすぐに見つけてくれるのでしょうか?』




 ちなみに現在彼女が居るのは恐らく王宮の庭園らしき場所だ。沢山の薔薇が植えられておりとても美しいことで有名だから多分そこだと見当はついた。




 散策していたらあちらの噴水に座っている人影が見えた、これはまたとないチャンスだ。あの方に会場までの道を聞くしかない。




 そして近づき質問をしようとした。




「あの、つかぬ事お聞きしたいのですが、」




 しかし道を聞こうとしたらいきなり泣き出したのだ。




「うぅ、どうして私はいつもこうなのかしら。本当は殿下のことが大好きなのに」




 そう言って泣き出したのは侯爵の茨姫という2つ名を持つヴィオレッタ・リンブル嬢だった。才媛として有名でとても美しいが自身にも他人にも厳しい少し近寄り難い雰囲気を持つ女性。そんな彼女に密かに憧れる令嬢は多く居り私自身もその1人だった。




 彼女はこの国の第三王子の婚約者だったはず。




 私は憧れのお方が王宮でのパーティをほっぽり出して涙を流しているとなると何か力になりたいと思った。例え断られても構わない、それよりこの状態の彼女の方が心配だ。


 勇気を振り絞りハンカチを差し出す。




「すみませんヴィオレッタ様ですよね。ハンカチをどうぞ。何か悩み事があれば相談に乗りますよ?」




 急に話しかけてきた私に驚いたのか目を見開いたが彼女はハンカチを受け取り口を開いた。




「私殿下のことがとても大好きなの、でもいつも素直になれなくてその度に可愛らしくない言葉を吐き出してしまうわ。褒められても好きって言われてもついつい刺々しい言葉を口に出してしまうのよ。きっと殿下もこんな可愛らしくない娘なんて婚約者にしたくないはずよ」




  しかしいつも凛としている彼女が人目につかないようなこの場所で泣いているのにはもっと理由があるに違いない。




「今日なんて酷かった。殿下と男爵令嬢が楽しそうにお話しているのを見て嫉妬をし殿下が隣にいるにも関わらず彼女に『そして私の殿下を盗まないでくださいこの女狐!』と叫んでしまったわ」




  もしかしてその男爵令嬢というのはアルメリア・ルビー嬢ではないのか。この令嬢私の大好きなユベール様にも以前ちょっかいを掛けてきた。イケメンとなればなりふり構わず声を掛ける。


  そりゃうちの婚約者は確かにイケメンだ。長い銀髪に琥珀色の瞳、優しくてどこから儚そうなとても素敵な容姿をしている。




  ユベール様の時は彼が私にベタ惚れだったから彼女に見向きもしなかったが実際に彼女の手に堕とされた子息の話は聞く。


  ふわふわしてて庇護欲をそそるような可愛らしい見た目をした女性。そんな人に甘えられたら男はイチコロかもしれない。




 しかしヴィオレッタ様はそこまで気負う必要がないと思う。だって、




「ヴィオレッタ様、お口を挟んでもよろしいでしょうか?ヴィオレッタ様がそこまで気負う必要はございません。だって殿下は明らかにヴィオレッタ様が大好きですもん」




「え?どういうことかしら」




「ヴィオレッタ様は感じたことございませんか?あの殿下がヴィオレッタ様を見つめるときの瞳。あれはいかにも愛らしい人を見つめるときの瞳ですよ」




「そんなことないわ。だって」




 と、彼女が反論しようとすると足音が聞こえる。




「ヴィオレッタ!」


 あら、ヴィオレッタ様に迎えが来たようだ。このお声は第三王子、イグナーツ殿下だろう。




 やっぱり愛されてるなぁ。ヴィオレッタ様を見つめるときの彼の瞳に籠る熱を見ると相変わらずだ。




「ヴィオレッタ、先程は済まなかった。あの令嬢とは何も関係がない。社交辞令として話していただけだ。俺が愛してるのはただ1人ヴィオレッタだけだ」


 そういい殿下は彼女を抱きしめた。




 そしてまたこちらに足音が聞こえた




「殿下ぁ、どこ行っちゃったんですかぁ。私ぃ、寂しいですのぉ」


 この声はアルメリア嬢だな。甘ったれた声で殿下の元へ近寄ってくる。




「アルメリア・ルビー嬢、申し訳ないが俺が愛してるのはヴィオレッタだ。もうこれ以上ヴィオレッタに悲しい思いはさせたくないから俺に擦り寄ってくるのは辞めてくれ」




 ショックだったのか彼女はとても怒りながら


「酷いわ!どうして私ではなくヴィオレッタ様がいいのよぉ!!」




 アルメリア嬢は遂に本性出した。




 そんな彼女に対し


「昔からどんなに学業や武芸など先生から叱られて辛くて挫けそうになってま傍で支えてくれた。いつも隣で向き合ってくれた彼女が大好きなのだ」




 平然と惚気ける殿下、そして殿下の腕の中で抱きしめられながらお顔を真っ赤にしているヴィオレッタ様。もう幸せになってください!






 そこまで聞いたら恥ずかしくなったのかアルメリア嬢は悔しそうに逃げていった。これで男漁りも減るといいのだけど。






 とても幸せそうなヴィオレッタ様を見ると安心する。




「ありがとう、ハルモニア伯爵令嬢。今度何かお礼させてほしいわ。今度私が主催するお茶会があるのだけど是非来てくださるらしら?」


 そう言って微笑むヴィオレッタ様は女神のように優しい表情をしていた。




 そんなの了解以外の答えなんてない。だから私も満面の笑みで


「はい!ぜひその時はよろしくお願い致します」


 と答えた。




 約束を取り付けヴィオレッタ様と殿下は去っていき元々近かった距離が更に縮まったような気がする。




 それはいいものの...殿下達が去って気づく。私、迷子のままなのだけどどすればいいのか。


 そう思っていた矢先




「アリス」




 後ろから聞こえるこのお優しい声はユベール様だ。良かった、迎えに来てくれた。


 今日エスコートされた際1回会ったけどやはり上品で美しい着こなし。大好きな彼を見るだけで安心する。




「また迷子になったみたいだね。今日は王宮の庭園かぁ、相変わらずだね」




「はい、お恥ずかしながら迷子になってしまって。ですがユベール様が見つけていただいたので安心です」




「良かったよ、今日も見つけられて。じゃあ会場に戻ろうか」




 そしてユベール様の手が差し出された。その手に私の手を乗せて戻るとしよう。




 さて、さっきまで疑問に思っていたユベール様がなぜ私をすぐに見つけるのかなんてことはすっかり忘れていた。






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 実はユベール様、アリスちゃんにGPSらしきものを付けてたりする(世界観は突っ込まないでください)




 登場人物紹介


 アリス・ハルモニア→この作品の一人称で方向音痴な伯爵令嬢。自分の見た目を普通と思っているが割と美人。方向音痴なこと以外あんまり欠点がない。若干ユベールのGPSにも気づかないような鈍感な一面もある




 ユベール・アルカディア→アリスの婚約者で次期侯爵当主。アリスのことを溺愛しておりよく迷子になるから内緒でGPSを付けてたりする。儚い見た目のイケメン




 ヴィオレッタ・リンブル→侯爵令嬢で第三王子の婚約者。侯爵家の茨姫という2つ名がある。才媛で美少女。素直になれないけど彼のことが大好き。




 イグナーツ・ルミナリエ→この国の第三王子。素直に愛を伝える人。優秀で兄である王太子を支えたいと思ってる。




 アルメリア・ルビー→男爵令嬢。ぶりっ子で面食い。本性は言わずもがな

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