第33話 アルデンテ
文章はそこで終わっていた。
マグに入れたコーヒーはすっかり冷めていた。僕は、そっと息を吐きだした。目をあげると、午後の遅い日差しが窓から差し込み、部屋のすみずみを黄金色に染め上げていた。
あれから僕は、あのレストランにたびたび立ち寄るようになった。でもあの老婆には二度と出会えなかった。
レストランの中程のテーブルでひとりの男が、缶詰からそのまま出されたようなトマトソースと、アルデンテをすでにとおり過ぎたパスタをうんざりしたようにフォークの先でつっつき、時折、中空を眺めているのを見たなら、どうかそっとしてやってほしい。僕からのささやかなお願いだ。
― 了 ―
サブテラニアン ー 地底を巡る少女の記憶 ー 戸来十音(とらいとおん) @skylark_npc
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