最終話

「信也!」

「優音だと・・・?」

清志と淳二は助けが来た喜びと一体、優音がどこに居るのだろうという疑問を同時に口にした。


「もうやめろ・・・お前は神じゃ無いんだ!」

「自らで人を裁くことも、命を奪うことも許されることじゃない」

信也の言葉に振り向いた沙希はナイフを持ったまま頭を抱えながら悲痛な叫び声を上げると

「ダメ!、今ここに優音を呼んだらショックを受けるわ」

「彼はとても繊細で弱くて優しい人なのよ」

「どうか彼を傷つけたりしないで!」

大粒の涙を溢れさせながら信也に懇願した。


信也は彼女の言葉に何度も頷きながら尚も近づくとナイフを手から取り上げ遠くに放り投げ

「清志、そして淳二、お前たちの友達として言わせてもらうがお前たち2人が優音への仕返しの為に放火したことは決して許されることではない!」

「優音やその両親を殺すつもりは無かったんだろ?」

「それでも罪は罪なのだからこのまま自首してちゃんと自分がやったことを説明して裁きを受けて償うんだ!」

信也の説得に素直に頷いた2人は肩を落としながらその場を立ち去って行った。


「一之瀬沙希か・・・優音、お前だよな?」

清志と淳二が目の前から消えたことで沙希という人格がもう必要なくなったのかはわからないが

「俺は終わりだ・・・もう正義のヒーローじゃない!」

その人格が優音に戻ると悲痛な声で呟くように言った。


「そうでもないと思うぞ」

「正義のヒーローは悪い心を何一つ持っていないわけじゃ無く、悪い心にも負けない強い心を持ってるから正義のヒーローであり続けられるんじゃないか!?」

「お前もこれでやっと人間らしく生きられるかもな?」

照れながら言った信也は優音の肩をポーンと叩いて笑った。


「信也はなぜ俺が沙希という女性の人格に替わり、女装までしていると気づいたんだ?」

優音が信也に訊くと

「実はお前が着てた血だらけのシャツは女物だったんだ」

「変だと思った俺はクローゼットの中にあったキャリーバッグを開けて見てみたら女性が身に着ける物、一式が入ってた」

「女性の人格に替わったら危険だと思った俺はそのバッグの鍵を探して鍵を掛けて置いたんだ」


「念の為に俺の物だから絶対に開けるなとお前に言ったが何かの拍子に気づいて開けちまってた・・・正直、慌てたよ」

「それにお前は精神安定剤みたいなのを服用してたんだが両親が火事で亡くなってしまってお前が飲んでたその薬は底をついて病状が悪化したんだろうな?」

「お前の両親はお前の精神が壊れ始めていることに気づいていたから治療を受けさせていたんだと思う・・・」


「段々と自己中心的な妄想の記憶を作るようになり正常な自分をみつけられなくなってる気がして心配だった」

「本当のことを言ってお前を傷つけたり、余計に病状が悪化したりしないかと思った俺は何も言えなかったんだ・・・」

「いつも注意して見てたんだが遅れてしまい済まなかった!」

優音は信也の説明を聞きながら泣いていた。


俺はただ単に自分の都合のいいように記憶を作り続けながら自分から逃げていただけなんだ!

そんな俺を信也はずっと見守りながら蔭で支えてくれていた。


「俺はこれから警察に自首するよ」

「両親を殺すつもりなど無かったけど灯油を撒き散らしたのは自分だから正直に全てを話して償いたい」

優音の言葉に大きく頷いた信也は

「その前に取り敢えずお前が沙希として借りていたアパートに戻ってこの着ている服を着替えようか?」

「佐々木優音として行かないと変な顔をされちまうぞ」

「親友としてそんな恥ずかしい思いはさせたくないからな!」

そう言って大笑いしながら捨てたナイフを拾い上げた信也は自分のリュックに入れると俺の肩を抱いて歩き出した。


土砂降りだった雨はすでに止んで夜空には薄い雲の隙間から点々と星が輝き、仲の良い2人を照らしていた。


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「神と隣り合わせの悪魔」 新豊鐵/貨物船 @shinhoutetu

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