第18話
「どうするです?」
「そうだな……何者か分からない以上下手な手出しは出来ないが……相手がその気ならこちらもやるまでってところだ」
するとルリィが何か操作を始める。
どうやらスキルセットをしているらしい。
数は少ないもののプリーストスキルと治癒撃師スキルの両方を扱う事が出来る。その為スキル枠が10個では足りないのだという。
「それと……私にトランスを付与してくださいです」
「いいのか? あれを使うとかなり消耗が……勝ったとしても戦える状態じゃ無くなるぞ?」
「私は最強無敵の治癒撃師ですよ? 消耗した体力もパパーっと回復して貢献しちゃいますです!」
アホ毛がやる気全開だと言わんばかりに回転する。
現状、掲示板内での治癒撃師の評価は『ソロでもパーティでも活きる最強職業』だと言われている。攻撃性能も然る事ながら、回避や攻撃のついでに味方を回復させられるというのはこのVRMMOでは満場一致で最強に近いという。但しルリィの使用武器が打撃系なのがあまりいい評価を貰っていない。
他の物理属性は斬撃と刺突があるが、二つともにそれぞれ効果があるのに対して、打撃にはこれと言って無いのがそう言われる所以である。
だが俺は知っている。打撃属性が弱い訳では無いことを――
「じゃあ……頼んだぞ、ルリィ」
肩を拳で軽く叩き、鼓舞する。
「はい! おまかせあれです!」
ニッコリと笑うと、扉から勢い良く外に出た。
「此処を通りたくばこの治癒撃師、ルリィちゃんを倒してからにするです!!」
そう高らかに、プレイヤーの前に出て宣言した。
――発動! トランス!
ルリィの周りをより黒い霧が覆い、瞳の位置には赤い光が宿る。
「噂に聞くトランスですか……」
女性の声だ。それもかなり落ち着いた声をしている。まるでこちらの戦術の全てを知って、対策をとっているかのような冷静さと自信の有り様だった。
「主な効果はステータス上昇……でしたっけ。であればそこまで気張るものでも無いですね」
窓から相手を見ると、やはりと言うべきか、ミントを倒しステラと互角以上の勝負を展開したと思われる、剣を携えたプレイヤー。
「ですが今回はグレイヴヤード範囲内にいますので……やや不利と言ったところでしょうか」
ルリィが一直線に突っ込み、棍棒に近い杖による打撃を繰り出す。
対して相手は剣で防ぐ――
「私の打撃を甘く見ないで下さいですぅうう!!」
メキメキと音が入り――
――剣が砕ける。
これが剣による斬撃や、槍による刺突には再現がむずかしい――
武器破壊!!
ルリィが圧倒的優位を取り、相手を上から叩き潰さんと精密な杖捌きを繰り出した。
そこに加勢するように上級アンデットを囲むように、逃げ場がないように召喚する。
「……ほほう。打撃に拘る理由はそこでしたか。それに見事な連携です」
物怖じせず盾と槍を何処からか取り出し、杖の打撃を見事に防ぎアンデットを槍で突き刺す。
が、不思議な事にアンデットの消え方が普通の力尽きたようなエフェクトでは無く、回復魔法を受けて浄化されたようなエフェクトを出していた。
これならアンデットがすぐ倒れていくのも頷ける。なら――
「下がれ!!」
それを聞いたルリィは攻撃を即座に辞め、バックステップで場を後にする。
「発動――アンデットボムッ!!」
実は効果だけ見て一度も使用していないスキル――それ故にこれは読めない筈だ!!
指定したアンデットを爆発させ、超火力を実現する攻撃手段。爆発の威力はアンデットの強さに比例する。
仲間であろうと爆発に飲み込まれればダメージを受ける代物だ。
――次々と止まない爆音が鳴り響く。
――そして、暫くしてから場は静けさを取り戻す。
「やったか……?」
そんな希望も儚く散ることとなる。
舞う砂埃の中に人がたっているシルエットが映ったのだ。
そしてギシギシという軋む音と共に、何かを構えている――
対するルリィはトランスの効果切れで膝を付いたまま立ち上がれずにいた。
絶望的この状況で俺が出来ることはただ一つ。
――間に合えッ! リアニメイト!
咄嗟に発動したアンデットが、砂埃の中を突き抜けて現れた二本の矢を一身に受ける。
「なんていう耐久力だ……完全に舐めていた」
まさか尽く隠し球が通用しないとは。であれば必然的に意表を突いて攻撃するデスサイズも有効的では無いことが分かる。
「凄い威力の爆発……
騎士……と言えば剣士やプリースト、魔導師やアーチャーと言った初期職業の中の一つの筈。
しかも先程現れた矢、まさかとは思うがコイツ……職業を切り替えて戦っている……?
「私の目標はただ一つ。死霊術師とその仲間を一人で倒し、変幻自在の勇者として名を残す事!! ただこれ一つのみ!!」
気合いを入れ直したのか、冷静だった彼女は興奮交じりに言い放ち、動けなくなったルリィにかなりのスピードで近付く。
剣の代わりに、斧を携えていた。
「――ここでやられるほど私は……もう弱い子じゃありませんッ!!」
斧の重い一撃を、ただの木片同様の杖で防ぐ。
メキメキと刃が木にくい込み、武器破壊されてもおかしくないところまで来ていた。
「仲間を守れる――強い子にやっとなれたんですッ!!」
重くて立ち上がらないはずの身体を起こし、斧の振りかぶりを避ける。その代わりに杖が破壊されてしまっていた。
武器はあれ一本。変えの物は無く、素手しかない状況。
やはり不意を突いてデスサイズで助けるしかないか――
「白魔黒さんは手出ししないでくださいですッ! 私とこの人との勝負ですから!」
「フッ……いいのか? 武器の一つも持たなくて」
「……良いんです。拳の使い手は師匠から教わっていますです……。器用なのは貴女だけじゃ無いんですよ!!」
「リーチの差で押し通す!!」
戦闘職をするに当たってミントが色々教えていたっけか。
――分かったよ。見守ってやる。
ルリィの第二ラウンドが幕を開けた。
VRMMOで職業が死霊術師しか選べませんでした マグロの叩き @Siryo-maguro
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