第17話

 あの時勝てたのはメルゼのお陰が9.5割程。

 だが今度は俺が俺のやり方で負かしてやる。


「リベンジマッチだぁあ!! 死霊術師ぃ!!」


 猛々しく大声で叫ぶ魔砲使い。

 より魔砲攻撃は密度と速度を増していた。

 迫り来る魔砲攻撃をデスアクセルで振り切り掻い潜り、間合いを一気に詰める。


 ――ほぼ一瞬の出来事だった。


 上空を我が物顔で翔ぶ魔砲使いは、死霊術師の接近に気付くと、攻撃を辞め更に空高く上昇する。


 だが、そこも全て俺の攻撃範囲だ――


「キャノンレイン!!」


 そして、無作為に上空から降り注ぐ魔砲攻撃の豪雨。

 大鎌に紫の禍々しいオーラが纏われる。そして――


「ネザーワープッ!!」


 死霊術師は一瞬で宙を翔ぶ魔砲使いの背後……より上に現れた。

 魔砲使いは高く飛び上がり過ぎた為、気付く事が出来ず――


 ――斜め下へ紫の弧を描いた大鎌により両断される。


「うぐっ!? また……また負けただとッ!?」


 魔砲使いに死亡エフェクトが出ると、そのまま消えて行った。


 ネザーワープのクールタイムは十秒。

 効果はグレイヴヤード内の範囲であれば上空だろうが地底だろうが何処にでも瞬間移動が出来るという優れ物。また、瞬間移動するその瞬間とした後の瞬間には無敵状態がつくという隠し効果もある。


 ――十秒。

 地面に着地するまでには回復しないようなあまりにも長いクールタイム。


 どうする……俺。倒したのはいいがこれじゃあ共倒れだ。

 空を仰いで――いや馬鹿か!? シャドウコフィンなら――落下ダメージは専門外だろう!

 ダメだ……こりゃ死ぬわ。


「主ィ!!」


 メルゼが物凄いスピードで迫って来ていた。

 咄嗟に大鎌を骨に引っ掛け、なんとかよじ登る。


「良かったぁああ! 助かった……!」


 思わぬ出来事に愁眉しゅうびを開く。


「すまない、我が主……」


 そして、合流して早々にメルゼは謝罪を伝えてくる。


「ど、どうしたんだ?」


 震える声で聞き質す。


「――ミントが……交戦し、やられた」


 衝撃的な事実がメルゼの口から言い放たれる。正直に言うと有り得なかった。


「奴は、他のプレイヤーを凌駕する程、圧倒的に強い」

「職業は……?」

「剣を持っていた。恐らく剣士か……その上位職と思われるが……」


 グレイヴヤードによるバフが無いとはいえ、使役死霊一の戦闘力を誇るミントが負けるとは。にわかには信じ難いが、そのプレイヤーは確実に最後まで生き残るタイプだろう。交戦は避けられなさそうだ。


「生き残った人数は……もう既に100人まで行ったのか」


 残り100。情報通りだともう一度、今度は全体的なフィールドが狭い場所に転送されると言う。

 より強者に遭遇する可能性が高まった。


「会って間も無いが……頑張れよ?」

「うむ。ミントの分まで――」


 そして、フィールドが切り替わり、そこはNPCが居ない洋風の街並み。すぐ視界の先には杖を携えた魔導職のプレイヤーが居た。

 素早く物陰に隠れ、グレイヴヤードを可能範囲まで展開した。

 自分の位置を知らせる行為になりかねないが、仲間に位置を知らせ生存率を上げることが出来る。

 中級と上級アンデットを魔導職のプレイヤーの周りに配置し襲わせる。

 魔導職は近接戦闘に弱いので意表を突けば何時でも倒せる。


「何このモヤ……ちょっと待って――うわああああ!!」


 悲鳴が聞こえ、アイコンがスペクターマップ上から消える。

 とりあえず安全確保をしなければ。ここまで派手なことをしていれば何時魔法攻撃が来てもおかしくない。

 急に現れた黒い霧を警戒しそそくさと逃げていくアイコンが多数。召喚したとしても切り抜けられていた。


 この辺り一帯にプレイヤー反応が無くなった頃合に使役死霊のアイコンが出て、こちらに近付いてくる。


「白魔黒さぁ〜ん!! ルリィです〜!! どこにいますです〜?」


 街の外でルリィが叫んでいた。


「無事でよかったよ……」

 

 とにかく話し相手も無かったので丁度良かった。

 掲示板すら開けないのが辛い。


 ルリィがこちらを視認すると、篭城している建物まで歩いてくる。


「フィールドが変わる前までステラちゃんと一緒にいたんですけどね!! ステラちゃん凄いですよ!! 大勢を相手にして一掃!!」


 自分の自慢のように語る。


「でも……一本の剣を持ったプレイヤーに押されてました。フィールドが変わったのでなんとか助かったとは思いますが……」


 まさかその剣持ちのプレイヤーってまさかミントを倒したプレイヤーか?

 いや……それしかありえないだろう。にしてもだ、ボス級のステラを一人で押すほどのプレイヤーとなると――


 ふと現在のキル数順位を確認する。

 ステラが一位、俺が二位、後は他のプレイヤーが並んでいる。とにかく一位ステラが獲得していた。七位にルリィが居る。メルゼは強化時間といい、生き残れる時間もそう長くは無いだろう。


「残り……28人か」

「30位以内から何か良いアイテムが貰えるんです?」

「そうだな。ポーションとかそういう類だが……別に俺らアンデットは使えないしルリィがいるから特に必要じゃないんだよな」

「えへへです〜」


 ルリィの治癒撃師アビリティによるHP回復効果は種族に関係無く施されるため、アンデットとのシナジーが取れている事も特徴の一つだ。有用性が高い。


「そう言えば投擲用ぼた餅も参加しているんだな……」


 順位を見て居ることを把握する。

 一番初めに俺に話しかけてきたプレイヤーだ。28位と現状最もキルを取っていないがこれから先どうなるか侮れない。

 第一、ここまで残ったのなら相当な実力者であると考えられる。


 スペクターマップを確認すると、アンデットらがある一つの敵アイコンに向かっていた。


「おいおいマジか突撃して来るのかよ……」


 じわじわと順位が勝手に上がっていくのを待とうと思ったが……そうさせてはくれなそうだ。

 上級アンデットを複数体召喚して応戦させる。

 ――が、ことごとくアンデットのアイコンが消えていた。


 ――只者では無いらしい。

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