第5話
まあ新しい商品の導入は順調だし今月の売り上げは最高だよ、確かに。いろいろブツクサいう方が間違っているということかな。
一ヶ月後
美佳は無事帰って来た、平塚の新居で新婚生活を始めた。智子はたまにいっているようだ。美佳も特に用事がなければ連絡はよこさない。
品川での一人住まいにもようやく慣れてきた、毎朝パンとコーヒー沸かして決まったように出かけている。仕事場では何も変わっていない。男やもめになったなんて、きっと誰も気づいていないはずだ。まあそれくらいの演出はできるよこの年なら。駅前のスーパーの親父とはだいぶ仲良くなった、色々値引きしてくれる。ほとんど年も変わらないのではないかな。時々奥から美味しいお肉を出してくれる。
智子がいない分確かに時間は増えた、仕事帰りに今まであまり通えなかったスポーツクラブにも週二回は行っている。おかげで結構体調はいい。耐えて久しく無かった朝立ちを最近経験する。 やはり下の元気は気持ちも大きく前向きにしてくれる。食うと寝るとやる。これで大抵のことは通り過ぎるというのはやはり本当だ。こういう話を智子にしたらまた軽蔑されるだろうが。
智子は三日おきぐらいには電話くれるが、いつも最後は喧嘩になる。なぜか。やはり合わないのか。細かいことですぐ怒り口調になるのは基本気に入ってないからなのだと思うが、それをいうとすぐ僻みだという。この辺の機微は微妙で、本当にその日の状況による、わからない。
おっと電話だ。
「あなた 今どこ」
「仕事帰りでスーパー、肉屋のおじさんのところ」
「いいお肉があったの今日は」
「うん、霜降り、最近は赤身の方が好みかな。いつも奥から出してくれるのだよ」
「よかったわね」
「そっちはどうだい、一人で寂しくはないの」
「全然、全く気楽よ。好きな時間に寝て食べてだもの。誰も邪魔しないし、誰にも気を使わなくていいし」
「そんな、品川でもそんなに気を使っていたか」
「そうよ、朝いつもみんなが起きる音で起こされていたし、私はいつも最後の始末をして寝るから一番遅いのに早くから起こされて慢性寝不足だったわ。あなたにはわからないことだろうけれど。こっちではなんの音もしないから本当に静かよ、自分の瞬きの音が聞こえるのだから。ゆっくり思いっきり寝られる。そしてお魚が特に美味しい、プリプリですもの。特にこの時期はキンメの大きいのが取れるので、昨日も知り合いになった漁師さんから分けてもらったわ。身の厚いことったら見たことがないくらい。東京の魚なんて食べられないわもう」
「まあそれはたいそうよかったね、ご満悦ということだな」
「本当、もっと早くからやっていればと思うわ、今まで我慢していた分も取り戻さなければ」
「そう言えば昨日は美佳のところに行ったのか」
「ううん、来るなって」
「はあ、それはずいぶんご挨拶だね」
「まあ二人だけを邪魔されたくないのでしょ、全く気に入らないったらありはしない。でも代わりに鎌倉でランチしたわ」
「元気そうだったか」
「ええ、これ以上はないって言うくらい。とにかく旦那さんはすぐ帰って来るらしいし、今のところだけどね。あの人は確かに稀に見るいい人だわ、少なくても美佳にとっては。美佳も我が子とは思えないほど従順で優しさ満開っていう感じ。一昨日も緊急の呼び出しがあったらしいけれど、なんとか電話で指示して当直していた同僚に押し付けてしまったのだって、でそういう困難な状況になると帰って燃えて迫って来るのだって。まあそんな話、いくら母親だからってそこまで言わなくてもいいのにね」
「それは大変結構な事ですな。これは昔からの俺の言い草だけど、大抵の人間は食うと寝るとするのこの三つが満足すればそれで済むということだよ」
「だからあなたみたいなガサツな人は嫌いなのよ。ガサツで下品で。自分の娘のことよ、もう少し他に言いようはないわけ」
「はい、また怒られました」
「呆れるは、幾つなの一体。ところで加代子が来週ドイツから帰って来るのですって」
「えっ、何だって。加代子さん、君の妹の加代子さんかい」
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