第4話 不器用で生真面目な女の子
あの日から数日が経った。
俺はまだ、北野にあの日のことを聞けないでいる。
本当は、聞かないであの会話自体無かったことにしようとしていた。
聞いて、余計自分も彼女も嫌いになるのが嫌だったから。
なぜ聞こうと思ったのかは、俺もよく覚えてない。
でも、どうしても聞きたいと、そう思った。 今日こそは聞こうと決心し、長い長い50分の授業を7回こなし、北野のいるクラスへ向かった。
着いたはいいものの、相も変わらず文系クラスは賑わっているため、とても入りづらい。
お前も文系だろと言われればそれはそうなんだが、俺は一応、文系の中でも上位にいるため、クラスが他とは違い、特進クラスのような扱いをされている。
だからといって頭がいいかと言われると、そういう訳でもなく、むしろ特進クラスの中では国語以外は下位に位置する。
そういうこともあって、俺はこの賑やかな雰囲気に慣れていない。
「でさ、六花今日どこ行く?」
「いや、今日は私用事があって、謝んなきゃいけない人がいるから。」
意を決して教室に入ると、金髪でピアスをつけ、マグネットがループしているような何かをつけた、いかにもな陽キャぱりぴさん達が彼女を遊びに誘っていたようだった。
ところが、彼女はそれをキッパリ断って、教室を出ようと扉に向かってきた。
俺はとっさに身を隠した。
当然、隠れるといっても教室の入り口にいたため、隠れるられるような場所もなく扉の裏に張り付いてやり過ごした。
幸い俺が隠れているのとは反対方向に行ったのでバレずに済んだ。
ところで、彼女は誰に謝るのだろうか。
そんな他愛も無いことが気になって、罪悪感を感じながらも、俺はひっそりと彼女の後を追った。
後を追い続けると、彼女、北野六花は俺のクラスの教室の前で立ち止まった。
モジモジしては、申し訳なさそうに教室を覗き見るその姿は、なんとも愛らしく、思わず声をかけたくなってしまう。
もじもじする姿まで絵になるとは末恐ろしい。
麗人とはこういう人を言うのだろう。
さっきまで会話を盗み聞きしていたのもあり、あまり顔を合わせたくないため、俺はそそくさとマイベストプレイスに向かう。
そこは、四面しっかりと壁やろ扉やらで遮られていて、小窓からは雨に濡れたコンクリートの匂いがする。
俺はこの匂いが、場所が、好きだ。
特別でもないが、雨が降らないと嗅ぐことは出来ないこの匂いが。
特別でもないが、この学校で唯一、一人になれるこの場所が。
それにしても、どうして彼女、北野六花は俺のクラスの中を見ていたのだろうか。
もしかして俺に…
なんて都合の良い考えばかりが頭の中で反芻される。
とは言っても、だいたいの検討はついている。
多方、友達と喧嘩したため謝りづらく、もじもじクラス内を見ていたのだろう。
俺は頭の中の整理がつくと、その場を後にし、誰もいない廊下を歩き下駄箱へと向かう。
自分が逃げているのは分かっていた。
なんだかんだと理由をつけて、また拒絶されるのを恐れていた。
いや、これすらも言い訳なのかもしれない。 色々と考えていると、既に下駄箱へと続く廊下を歩き始めていたことに気付く。
と、同時にずっと誰かから呼びかけられていたことに気付く。
ドンッ
瞬間、俺は壁に押さえつけられる。
「さっきからずっと呼んでるのになんで返事してくれないの?」
あまりの驚きに俺は声も出なかった。
藍色の愛に逢い ひきがえる @Hikigaeru0808
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