第3話
寂しい肩を撫で下ろし、ようやく家に着いた。
あれからどれほどの時間が経ったのだろう。
家の前の道には明かりがつき、空は黒ずんでいる。
すっかり重くなった足を引き摺り、俺は一段、また一段と、部屋へ続く階段を上る。
あれ?俺、KISSとコラボしてたっけ?それはヘヴィじゃなくてベビーなメタルだったか?
と、軽く思うほどには、心も体も重かった。
たった一回、約束を破られたぐらいでこんな風に思ってしまう自分が、心底嫌になる。自分が勝手に期待していただけなのに。
向こうに急な用事が出来たのかもしれないのに。
それどころか約束ですらなかったかもしれないのに。
今思えば、彼女はまた放課後ね~とは行ったものの、約束という約束はしていない。
それなのに約束を破られた、だなんて気持ち悪いことこの上ない。
「こんなことでいちいち落ち込んでるから駄目なんだろうな…」
口にした言葉はやけに鋭利で、とても正鵠を射ている気がした。
部屋に入ると、自分の部屋が、如何に何も無いかがわかる。
別に、ミニマリストという訳でもないが、特に物欲も無いため、あまり物を置いていない。
部屋には、何度も読み返し、すっかり色褪せた文庫本と、弾こう弾こうと思って未だに弾けていないギターとが置いてあるだけ。
あとは、なんの装飾もない質素な勉強机とベッドだけ。
意外とこれが高校生男子の実情だったりする。
特に欲しいものがなければ、物が増えることもないし、誰かが遊びに来ることもないから特に綺麗にしておく必要も無い。
今どき本棚の後ろの方や、ベッドの下に成人紙を置くことはないし、大抵はスマホでちゃちゃっと済ませているだろう。
かく言う俺も、そんなリスキーなことはせず、安全安心に事を運んでいる。
い、いや探してもないから!
お願いだから男子高校生の部屋に勝手に入るのだけはやめてね…
そんなことを考えていると、さっきまでの悲しみはとうに消え、決して多くもない友達とLINEで何回かやり取りをして部屋を出た。
リビングに行くと、妹の詩乃が夕飯の支度を終えて、テレビを見ながらくつろいでいた。
「お兄ちゃん、さっきすごい顔してたけど、どうしたの?なにかあったの?」
「うぅ、まぁな。お兄ちゃんにも色々あるんだよ」
そうそう、ほんとに色々あるんであんまり深く聞かないでくださいお願いします。
「うっわぁ~、普段人付き合いしないからそうなるんだよ。ほんとにお兄ちゃんは女心を分かってないな~」
「え?なんでそうなるの?お兄ちゃんまだ何も言ってないよ?」
怖い怖い、妹が急に超能力に目覚めてて怖い。なに?今からグレートスピリット手に入れちゃうの?鬼とか出しちゃう?
急な妹の超能力発覚で、お兄ちゃん驚いちゃう。
「いっや~、お兄ちゃん自分で気づいてないの?顔でバレバレだよ?いつもより気持ち悪かった。うん、気持ち悪かった。」
二回言わなくても良くない?ねぇ二回言わなくても良くない?
まぁ詩乃はこれでも俺を励まそうとしてくれてるから許してやろう。
励ましてくれてありがとな、と一言そう言うと、俺は食卓に座り、用意された晩御飯を美味しくいただき、寝る用意を済ませて、自分の部屋に戻った。
今日は疲れた、これだけ考えるのは性にあわない。
何もかも無くなってしまえば楽なのに。
無くなってしまえば、何も考えなくて済むのに。
そんな他愛もないことを考えていると、気づけば俺はベッドに沈んでいた。
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