第300話 目覚め
*
「コウガはその呪いを引き受けたってことか。」
スルトの話を聞く限りはそうなのだろう。
世界を滅ぼすであろう呪いをたった一人の人間がその身に受けきることなど果たして可能なのか。
少なくともリュースティには無理だ。
人間の域を超えている。
「ああ、あいつはこの世の厄災をすべて引き受け死ぬことを選んだ。クエレブレは呪いが発動する前に力尽きたよ。だが腐っても奴は魔王だ。そのうち復活するかもしれないがな。」
竜種でしかも魔王、そんな奴が力尽きるくらいの呪いだ。
どれほど協力なものなのかは聞かなくても分かる。
それほどの呪いを身に受けたとなればどんな形であれこうしてコウガの形が残っていること自体が考えられない。
おそらくはスルトが関係しているのだろうがそれでもやはりすごい。
「死ぬはずだったコウガがこうして生きながらえているのはなんでなんだ?そんで俺に何をさせようって言うんだよ。」
今までさんざんコウガが偉業を成し遂げた話を聞いてきた。
俺とは比べ物にならないくらいすごいやつだ。
力は言わずもがな。
経験した苦労も絶望もリュースティアとは比べ物にならない。
そんな俺が何を言える?
何ができるというのだろうか。
少なくとも俺には思いつかない。
「コウガが死ぬ寸前に俺の生命力を流し込んだ。つまり俺とコウガは文字通り繋がっているって訳だ。俺の生命力をコウガに流し込んでも命をつなぎ止めるのが精いっぱい。俺もコウガもこの様だ。外部から魔力を共有することで何とかこの形を保っている。」
そういってスルトはコウガの体に重なるようにして消えた。
やはりリュースティアの想像していたようにスルトは思念体のような存在だったのだ。
身体と意識を共有しているからスルトはコウガの記憶を読み解くことができたのだろう。
だがコウガ自身の意識はないため、記憶や意識を読み解くには何かしらの制限があったのだろう。
それにしても自分の命を犠牲にしてまで世界を救おうとするコウガやそのコウガを命がけで救おうとするスルトはすごいと思う。
リュースティア自身には絶対にできない行動だ。
断言してもいい。
「事情はわかったよ。それで俺にどうしろって言うんだよ?」
いまだにリュースティア自身が何をどうしたらいいのかわからず再び尋ねる。
魔力を供給してほしいとかの頼みだったらなんてことはない。
すぐにでもできるだろう。
だが、そんな簡単な頼みをスルトがスルトは思えない。
命をくれとかの頼みならお断りだが、、、、。
「そんなに難しいことじゃない。コウガはいつかお前のような人間が来ることがわかっていたんだよ。アルってやつが待ちわびていた存在の来訪をな。それでそいつに望みを託した。コウガを生き返らせてくれ。」
「はい?」
いやいやいや!
バカなの?
ねぇ、バカだよね?
難しくないとか言っておきながら人を一人生き返せらせろって?
バカだろ。
難しくないって言うならお前がやってみろよ!
「なにか勘違いしているようだけど俺にそんな力はない!俺は神様じゃないんだ。」
なるべく。
そう、なるべーく声が固くならないように。
怒りが表面に出ないようにそれだけ言った。
俺は神じゃない。
生命の創造は倫理に反する。
そんなような話をしたばかりだ。
「ああ、そこまでは求めていないから安心してくれ。コウガの体を作ってほしいんだよ。材質も形もなんでもいい。魔力が循環できて意思疎通ができれば問題ない」
何事もなくしれっと言ってのけるスルト。
そこには頼み事をしているような雰囲気は見られない。
そんな様子にイラっとするリュースティア。
「つまりなんだ。俺にゴーレムでも作れと?」
にやり。
リュースティの非難に満ちた言葉とは裏腹に悪い笑みを浮かべるスルト。
その後に何があったかはいうまでもない。
異世界でパティシエやったら地球より断然いい暮らしができることにもっと早く気がつきたかった。 銀髪ウルフ @loupdargent
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