第8話 狼の襲撃

村は50軒も満たないほど小さな村だ、領地は帝国領、近くには森もありその森の先に王国ある王国にも近い、ただ要というわけでもないのだろう、村には囲いはあるが塀は無い、うかつに攻めることができないなにか理由があるのだろうか

街道は整備されており、脇には畑が点在している


「やっと2人きりになれたと思ったのになんでもお前までついてくるんだ?」

「リトリー様を守るためだニャ」

「俺がいれば大丈夫だろう」

「シロの変態的な嗜好性が一番危ないニャよ、リトリーさまと2人きりになったら茂みに連れ込んで、あんなことやこんなことをしようと考えてるかもしれニャいし」

「ア、アクア、変な事言わないでよ」

「リトリー様、油断してはいけないにゃよ、シロにはなんと・・・えにゃふにゃへにゃ」

シロは言葉を遮るようにアクアのホッペをつまんだ

「おにょれー、全世界のトップアイドルアクア様に向かって数々の狼藉、私のファンによって痛い目に合うが良い」

「お前の世界っていうのはどこの世界のことなんだよ」

「フー、シャー」

「お、やるか、お前のその尻尾の毛並みを一度ほおずりしてみたいと思っていたところだ」

「アクア様の尻尾の感触をそうやすやすと味わえると思うにゃよ」

お互いに構える2人


「ねぇ、2人共あれ見て!」

「うにゃ?」

「ん?」

「ひつじさんの子供、かわいいー」

ひつじの子供に駆け寄るリトリー

「一時休戦だな」

「ああ、そうだにゃ」


「この村は羊を飼っているのか?」

「あっちにもたくさん居るにゃよ」

「あ、ほんとだ」

「なるほど、羊の毛をやり取りしているから北方の話も出てきたのか」

どちらにせよこういった羊たちのおかげで街道脇の草も綺麗になっているのだろう


子羊の頭を撫でていたリトリーのウサギの耳が反応する

「シロ、なにか来る?」

「ん?どこだ?」

「あっちから」

リトリー森の茂みの方を指さす

ガサガサと茂みから静かにゆっくりと狩りの準備をするかのように1匹の狼が姿を現す


「オオカミ?」

「うん、それも1匹じゃないかなりの数がいる・・・、どうやら羊を囲むように広がっているみたいね」

「そりゃまずいな、狼といったら集団で連携してくるやつだよな、これはやっかいだな」

「アクアは犬系は苦手ニャよ」

シロはとりあえず武器になる物は無いか周辺を見渡すと壊れた農機具の残骸から木の棒を見つける


「とりあえず、これで牽制はしてみるがあまり自信はないな、お前たちは村の人たちを呼んできてくれないか?」


リトリーがシロの前に出る

「シロだけでは羊さん達を守ることは難しいでしょ、守りは任せて!」

リトリーの身に着け居ていた腕輪が盾や鎧に変化し服の上から装着される


「おお、リトリーたんかっこええ、装備は使えるんだな、それにしても素晴らしい眺めだ」

「そ、そんなにジロジロ見えないで、恥ずかしいから」

「ところどころにウサギのマークが入っているのが、なかなかのアクセントね、アイドルの素質としてはアクアにはまだ及ばないかにゃ」

「アクアはこういう時でも張り合おうとするのね」

「今からシールドを張るから、2人共その中に羊を集めてくれる?」

「まかせろ!」

「わかったニャ!」


「月の女神よ災いを排除する盾を持って守り賜え」

掛け声と共にリトリーの周りにシールドが張られる


2人はリトリーの張るシールドの中に羊を誘導していく

羊の傍にいるリトリー達に警戒しながら近寄ってくるオオカミたち

羊を誘導ているシロに襲いかかろうとするがシールドに跳ね返されるオオカミ

長時間広範囲にバリアを貼るのはリトリーにとって苦しそうだ


「一応羊たちは集めたが、リトリーの感じからして、いつまでもこの状態って訳にもいきそうにないな、なんとか村の連中と連絡が取れればいいのだが、アクア頼めるか」


「俺が囮になるからその隙に村へ行ってくれ」

「わ、わかったニャ」


「さぁさぁ、狼さん達、こっちにこいよ」

シールドから出たシロを2匹、3匹と近寄ってくる狼

「よーし、いいぞアクアゆっくりとシールドから出て村へ迎え」

1匹の狼がアクアに視線を向けた瞬間、シロは木の棒で狼の顎に向けて打ち込もうと動作を行う、しかし狼は後ろにジャンプした


「いまだアクア村へ走れ」


シロは木の棒を意味も無く振り回している、狼達の視線がこちらにくぎ付けさせるためだ、先の牽制もあり警戒した狼たちはアクアを追おうとはしなかった


一旦バリアの中に避難したシロではあったが・・・

リトリーの広範囲シールドが徐々に小さくなってきているのがわかった


「大丈夫かリトリー、いざとなったら俺がシールドから出て時間稼ぎをするから、あまり無理するんじゃないぞ」


「うん、大丈夫もう少し頑張ってみる・・・」


この世界に魔法が存在するなんて聞いたことが無い、リトリーは一体なにを消費してシールドを形成しているのかわからないが、相当な負担なのはたしかだ

シロはシールドの外に出て構える


「被害を最小限に止めるためにも、何匹か引き付けるから、リトリーはなるべく村に近い方へ移動してくれ」


「さぁ、精々足掻かせてもらおうかな」


戦う事に対して逃げてきたツケがこんな形で帰って来るとは、つくずく自分が嫌になる、こんなことならゲームのキャラばかり強くなるのではなく自分自身も鍛えておくべきだったな、今更後悔しても遅いか・・・

でも、俺1人なら諦めていたかもしれないが、後ろにいるリトリーの事を思うと諦めるわけにはいかない

シロは手や足に噛み傷を負い、痛みより血が流れだす失血の状態で意識が別の所へ持って行かれそうになりながらもなんとか狼の攻撃を凌いでいた


その時、少し上の方から声が聞こえてきた


「シロさまー、リトリーさまー」


「な、なんだ、なんだひまりの声か・・・?」


大きな影が羊やリトリーの頭上を通り越していきシロの目の前に着地をする

3m近くある大きな狼の様な獣、その獣の背中からひまりが顔をのぞかせる


「シロ様に酷いことをする者達ヨ、ゆるさない」


獣は狼を人睨みし唸ると、狼たちは怖気着いたのか尻尾と耳を下げながら森へと帰っていった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る