奏と悠斗の始まり
ゴールデンウィークの初日。
俺は奏の家に来た。
奏の家は大きめの一軒家だ。
とりあえずインターフォンを鳴らした。
そういえば、奏は俺以外に人がいると口数が少ない。俺と2人で居るときは普通にしゃべるのに。
人が多いのが苦手なのだろうか。
そんな事を考えていると、奏が出てきた。
「いらっしゃい、悠斗。」
奏は笑顔で出迎えてくれた。
「おじゃまします。……奏の家は大きいな。」
「親が無駄に大きい家建てたんだよ。僕の部屋はこっちだよ。」
そう言って連れて行かれたのは2階だった。2階全体が奏の部屋のようだ。広い。1人部屋とは思えない。
「なんか、すごいな。」
どう考えても子供の1人部屋とは思えない広さ。たくさんの本やパソコン、小さめの台所、ベッド、洗面所、トイレ、などがある。防音設備もあるらしい。もうこの一部屋だけで住めるじゃん。
「取り敢えず座って。なんか持ってくるから。」
「わかった。ありがとう」
いや、自分の部屋に冷蔵庫があるとか…すごいな…。
感心している場合ではない、人といる時はあまり会話を途切れさせてはいけないんだった。
「そういえば、女子が奏に用があるから話したいって言ってたよ。まあ、告白だろうけど。どうする?」
女子曰く、奏は話しかけづらいらしいようで、比較的話しかけやすい俺に伝言を頼んでくる。
よくそれで告白しようと思うよな、自分で話しかけられないくせに。
「えぇ…まだ1ヶ月くらいしか経ってないのに告白?面倒だからうまく断っておいて。」
「りょーかい。まあ、そういうと思ってたけどさ。これからもちょくちょくこういうのあると思うよ。」
「えー、全部断っといてね。はい、お茶どうぞ。」
そう言ってお茶を出し、正面に座った。
「ありがと。わかったよ、断っとく。なんか、女子たちの中で俺と奏が人気だって言ってたよ。俺は見た目的にクールそうに見えて優しいところ、奏はミステリアスな感じが好きらしいよ。」
「えぇ、僕のどこがミステリアスなの?」
「口数が少ないところとかかな。俺にもよくわかんないけど。」
そういえば奏って何考えてるかわかんないよなぁ。
そういうところがミステリアス?
よくわかんねえわ。
「ねぇ悠斗」
いつも通りに話していると、突然名前を呼ばれた。
「ん?なに。」
「なんでいつも無理してんの?」
いつも通り、感情の読めない笑顔でそう言った。
「え?…別に無理はしてないよ、急にどうした?」
は?俺なんか失敗した?
「嘘つき。誤魔化しても無駄。自分を作ってるでしょ」
奏は俺の目をじっと見ている。
どれだけ頑張って感情を読み取ろうとしても奏が何考えてるかわからない。怖い。
どうして、なんでバレた。今まで頑張って取り繕ってきた“悠斗”が壊されてしまいそうな恐怖を感じた。
「…そんなわけないじゃん。変なこと言うなよ」
笑ってごまかそうとした。
「だから、誤魔化しても無駄だって。」
無駄だった。
どう誤魔化すか。
「ん?だから、なんのこと?」
「往生際悪いよ、諦めなよ。それ、結構大変でしょ?」
もう一度笑顔で誤魔化して話を逸らそうとしたが、失敗した。
…バレたんなら無駄に笑顔でいる必要ねえな。無意味だし。そう思い今まで浮かべていた笑みを消した。
「なんでわかった?俺そんなに無理してるように見えたか?」
「やっと、素の悠斗が見れた。んーっとね、なんとなくだよ。まあ強いて言うなら人の事をよくみてたからかな?あと、なんとなく笑顔が作り物のような感じがした。でも大丈夫、僕以外誰もそんなこと思ってないと思うから。というか普通の人は気付かないよ。」
そんなこと気付いてたのかよ。
「それだけで、分かったのか?」
奏は少し考えてから口を開いた。
「1番はやっぱり勘かな。僕のことを見ても何考えてるか全くわかんなかったよね」
「…ああ、全くわからなかった」
「やっぱり。僕、昔からそうなんだよね。まったく顔にでないみたいなんだよ、感情とかが。よく何考えてるかわかんないって言われたし。…まあ、たまにわかりやすいときもあるらしいんだけどね。自分じゃよくわからないけどね」
奏でもわかりやすいときがあるのか…。
「で、それを俺に言ってどうするんだよ。」
なぜ俺の仮面を剥いだのか、それが1番の疑問だ。そんな事をしたところで、奏に何かメリットがあるわけじゃあるまいし。
「別に悠斗をどうこうしようとか思ってないよ。他の人にバラさないから安心して。ただ君に興味を持っただけだから。最初自己紹介を見た時、なんか周りの人たちとちょっと違うなって思って。何というか、何かが変だったみたいな。自分でもわからないけど。だから最初に話しかけてみたんだ。それで、話してるうちに分かったんだ、僕がなんか変だな、って感じた理由が。それはね、“自分自身”を隠してるからだってわかったんだ。しかも、完璧にね。完全に本心を隠して“悠斗”を演じててさ、凄いな〜って思ったんだよね。で、ちょっとその仮面を剥がしてみたいな〜って思ったんだよね。僕は好奇心旺盛だからね!化けの皮剥がしてやるっみたいな感じ。本当は、仮面を剥がすだけでよかったんだけど、悠斗に凄く興味が湧いちゃった。悠斗が欲しくなっちゃったんだ。あっ、別に恋愛感情を悠斗に持ったからとかそういう意味じゃないよ?恋人になって欲しいわけではなくて、ただ純粋に欲しいだけ。えっとね、恋じゃなくて物欲ってかんじかな。まあ、つまり、僕の所有物になって欲しいな〜ってこと。ってよくわからないかな?まあいいや。取り敢えず、僕のものになってよ」
奏のテンションが高いし、本心から言葉を発しているってよくわかる。
奏の言っている意味がわからない。“欲しい”って意味わかんねえ。いや、言葉の意味はわかるし、しかも、奏が本心から本気で俺のことが欲しいって言っているのもわかってしまった。
今は奏の感情を読み取ることができてもなんの役にも立たない。
「ねぇ、悠斗を僕にちょーだい?」
返事をできないでいると、まるで子供がおもちゃをねだっているかのように俺の目を見てそう言った。
こいつ笑顔で何言ってるんだ。
俺を、俺なんかを欲しいなんて意味がわからない。
何度も奏の笑った顔を見たことがあるが、こんな楽しそうな笑顔ははじめてだ。
「ねえ、どうしたの。早く答えてよ。ちなみに僕は欲しいものは必ず手に入れるから。今までだってほしいものは全部手に入れてきたんだから。まあ、人間、というか、生き物に興味を持ったのは初めてだけど。人間だろうがなんだろうが僕は必ず手に入れるよ」
笑顔で怖いことを言われた。
言外に逃げても意味がないと言われたような気がした。
逃げたところで無駄だろう、というか逃げる場所なんてない。
どうやら俺はやばいやつに目をつけられてしまったようだ…。
恋ではなく所有欲である ネオン @neon_
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