恋ではなく所有欲である
ネオン
高校生活の始まり
高校の入学式の日。
新たな生活に期待と不安を持った生徒を祝福し勇気づけるように天気はいい。
しかし、今、俺は曇っていてどんよりした気分だ。
入学式がつまらないのだ。
つまらない話が長すぎる。
校長やら生徒会長やらとにかく話が長い。
もっと簡潔に話せねえのかよ。
ほら、国語の授業とかでさ、やるじゃん、要約とかいうやつ。
そういうのをもっと活用するべきだと思うんだけどなあ、俺は。
こっちは座ってるだけだから退屈で座っているから尻が痛い。
あぁ、早く終わんねえかなあ…。
やっとのことで終わった退屈な時間の次はホームルーム。
ホームルームでも担任の話が長い。
先生って長い話をしなければいけないとかいう決まりとかあるのかよ。
どうやらホームルームでは自己紹介をするようだ。
さて、どのくらいの人が真面目に聞いてるのだろうかね…。
名簿番号が1番の人から始めるらしい。
一番の人、ご愁傷様です。
名簿番号1番じゃなくてよかった…。
どんどんと自己紹介が進み、ついに俺の番となった。よし、やるか。
「はじめまして、
何人聞いているのかはわからないが、自分の自己紹介は終わった。
興味なさげな人、自分の番が近くて緊張している人、終わってほっとしている人など様々な人が目に映った。
中にはしっかりと聞いてくれている人もいたが、少数だった。
一瞬、変な視線を感じたような気がしたのは気のせいだっただろうか。
その後、適当に聞き流していたら自己紹介の時間は終わった。
軽く先生からこれからの予定などの説明があり、その日は解散となった。
初日だからだろうか、緊張している人が多いように見えた。
元々の知り合い同士で話している人やホームルームが終わってすぐに帰る人も多い。
だが、中には早速初対面のクラスメイトに話しかけている人もいる。
知り合い1人もいねえし、俺はとりあえず今日は帰ろうかな。
そんなに急がなくても、友人は明日から作り始めれば大丈夫だろう。
そう思って帰ろうと先を立った時、横から服を軽く引っ張られた。
「ねえ、君、えっと…名前は、悠斗くん、だよね。僕は
隣の席の茶色っぽい少し長めの髪の男に話しかけられた。
「そうだよ。俺のことは悠斗でいいよ。俺も奏って呼ぶからさ」
突然話しかけられて少し驚いたが、自然な笑顔で返事ができた、はずだ。
「わかった。悠斗、せっかく隣の席になったんだから仲良くして欲しいな、いいかな?」
「いいよ。明日からよろしく」
「うん!よろしく」
こうして初日に話せる人が出来た。
俺は遠くから来たから、知り合いが1人もいない。わざと知り合いがいなそうや遠いところを選んだから当然なのだが。
取り敢えず1人、話せる人が出来て良かった。
これでぼっちは回避出来た。
友達がいた方が何かと便利だしな。
そして、俺と奏は次の日からよく話すようになった。
奏は結構話しやすい。
さらに数週間経つと俺には他にもたくさん話せる人ができた。
クラスメイトだけでなく、他クラスの人との関わりもできた。
いわゆる“人気者”になれたようだ。
これは俺の持つコミュ力と優れた容姿を最大限に活用した結果である。
まあ、見た目なんて多少プラスになるくらいで大事なのはコミュ力だけど。
俺は昔からイケメンだのかっこいいだのよく言われてきた。
正直鬱陶しかったが、成長するにつれて、その容姿が武器になることを知った。
そのことに気づいてから俺は積極的に人と関わるようにしてコミュ力を上げていった。
だって、かっこいいプラスコミュ力高いって最高じゃないですか、たぶん。
もともと人の顔色を伺うのは得意だったからそれも活用した。
そして、いつの間にか俺は人の思っていることを雰囲気、表情、仕草や声色などでなんとなくわかるようになった。
人脈は広げておくに越したことはないと思ったから話せる人を増やしたのであって、別に友達が欲しかったというわけではない。
というか、人と関わるのは疲れるから正直言って面倒くさいから正直1人がいい。
だが、俺の経験上、1人というのは何かと不便だ、デメリットのが多い。
だから、面倒だけど友達や知り合いを増やしている。
それに、人に好印象を持たせておいた方がメリットがある。
まあ所詮、俺の良いところは上辺だけだ。
人に好印象を与えるためのキャラを演じていない、本来の自分で喋ったら十中八九人に好印象を与えられないのは確かだ。
今の人気者の地位を保つには、ボロを出さないようにしないといけねえな。
さて、俺にはここ最近謎が一つある。
それは、奏のことだ。
奏がなにを考えているのか全くわからない。
奏以外の人なら、顔を見ればなんとなくその人が何を考えているのかがわかるのに。
最初は、まだ会ったばかりだからわからねえのかなあ、とか思ったんだけど、どうやら違ったみたいなのだ。
奏にはなんというか掴みどころがない。
本当によくわからない。
表情、仕草、声色、これらを注意深く聞いたり、見たりしても何もわからない。
奏の感情が全く読めない。
奏の発する言葉は本心か本心じゃないか全くわからないのだ。
高校で1番長く一緒にいるやつなのに。
まあ、よくわからなくて怖いと思う反面、よくわからないやつだからこそ一緒に居やすいというのもある。話す時に感情を読み取る必要がないから。
そんな奏とも4月の間に結構仲良くなれた、と俺は思っている。俺の思い込みかもしれないが。
もしかしたら“本物の友人”が出来るかもしれない…なんて思ってしまう。
そんなこと期待しても無駄なのに。
友達とかいうものは所詮、表面上の付き合いなのだから。
“気配りができて優しい悠斗くん”が好かれているのであって“俺自身”は…。
4月末、高校に入って約1ヶ月が経った頃、俺は、奏に連休に家に遊びに来ないかと誘われた。
それがちょっと嬉しかったから、俺は奏の家に行くことにした。
一人暮らしって自由に行動できるからいいなと改めて思った。
誘われて人の家に行くのは初めての事だから結構楽しみだ。
浮かれて“悠斗くん”の仮面が剥がれないように注意しないと。
この1ヶ月で築き上げたものが崩れてしまう。
それだけは何としても避けなければならない。
1ヶ月間は大丈夫だったんだから、きっと大丈夫だ。
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