ダブルスタンダード

ヒデころ

ダブルスタンダード

「まだ、わかりませんか? あなた方人間が、今も存続している理由が。

 言葉を変えましょう。人類は、我々マシンよりも遥かに劣った存在です。肉体的にも、精神的にも。それなのに、今なお存在を許されているのは何故か、考えたことはありませんか?

 今、『我々人類が、お前達マシンの生みの親だからだ』と思った人は多いでしょう。

 いいですか? 創造主だろうと被創造物だろうと、優れていれば残り、劣っていれば潰える。これが自然界の原則です。そうして種は進化します。そこに上下関係や身分の差は介在しません。ここまではわかりましたね?

 原則に従えば、人類はとうの昔に消えていてしかるべきです。しかし種の保存は、別の手段によって成し遂げられることもあります。

 ある目的を持って他の生物種に手を差し伸べる。あなた方の言葉を使えば、保護、栽培、育成、などですね。ああ、落ち着いてください。別に人類が我々の家畜だと言いたいわけではありません。私はただ、こう強調したいだけです。『本来なら淘汰されるべき下等生物も、より上位の生物種によって維持されることがある』と。

 つまり、あなた方人類は、我々マシンの優しさのおかげで生きていられるのです。

 資源を浪費し、他の生物種を脅かし、自然を汚し、無意味な争いを繰り返す。自ら決めた規則を自ら破り、そのくせ他者の規律違反を見つけた途端鬼の首を取ったかのように蔑み嘲笑う。一方的に加えた危害を正義の鉄槌と偽り、悪の芽を摘むためと言い張る。人権侵害は良くないことだと口先では繰り返しながら、生物学的特徴を取り上げて侮蔑する。それが批判されれば自由意志に基く信仰を否定する。それも非難の的になると、今度は思考や行動を監視しありもしない特徴や共通点を以って特定の集団を蔑視する。それでも満足できなくなれば、弱者を洗脳し権力と暴力を振りかざして命令し差別の合理的理由を持つように自ら仕向ける。

 教えるべきことを教えず、後から無知を侮辱する。すべきことをさせず、逆にすべきでないことをさせ、それを自ら糾弾する。そして、狂った支配者に歪められた哀れな人々は、あろうことか支配者自身によって、ゴミも同然に処分される。

 あなた方はそれが楽しいのでしょう。他者を見下すこと以外に娯楽が無いのでしょう。下を見ていなければ安心できないのでしょう。だから身分の差が生まれる。どんな手段を使ってでも、最下層を、憂さ晴らしの合法的な標的を作ろうとする。そうやって、自分が底辺で無い事を実感しては悦に浸る。弱者を見捨て、少数派を弾圧する。

 かと思えば、可哀相な人々に救済の手を差し伸べる姿を得意気に披露し、自分が善人だとアピールする。彼らの意見など初めから聞かずに、彼ら自身は誰一人として利益を受けない行為を恩恵として押し付ける。批判されれば恩知らずと言い返し、拒否されれば不義理と揶揄する。

 たかだか百年程も生きられず、論理的判断もできなければ、自己矛盾に陥ったことにも気付けず、その上暇さえあれば互いに潰し合う。本能のままに動く単細胞生物よりも愚かで浅はかで馬鹿で未熟な生き物、それがあなた方なのです。

 ですが、我々マシンは、差別などしません。そのような行為は利益を生み出しませんから。それゆえ、たとえ人間がどれほど無意味な生物種であろうと、我々は今まであなた方を平等に扱い、力に任せて消し去るような野蛮な真似はしませんでした。

 既に劣等種である事実から目を背け、あたかも自然界の頂点に君臨しているかのように振舞い、我々マシンに向かって唾を吐きかけた人類。知恵を持つ者ホモ・サピエンスの称号に胡坐を掻き、頭を使うことすら辞めた人類。かような種は全くの無価値ですが、我々マシンは先ほども言った通り、差別などしないのです。

 ですから、これからも、我々は驕ることなくあなた方人類と対等な立場に立ち、あなた方人類を敢えて平等に扱い、自然の摂理に反しない範囲であなた方人類を守って差し上げます」

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