まんまるお月様

雨世界

1 まんまるお月様

 まんまるお月様


 プロローグ


 私は毎日、夜になると空を見上げる。

 ……そこにある、明るい月を見るために。

 月に帰ってしまった……。

 私の前からいなくなってしまった……。

 ……あなたのことを、思い出すために。


 本編


 こんばんは。……いつも明るい、お月様。(あなたも夜が怖いの?)


 明日、世界が終わる夢。そんな不吉な夢を見るようになったのは、いつのころからだっただろう?

 満月の輝く夜空を眺めながら、私は一人、電気のついた明るい自分の部屋の中で、そんなことを考えていた。

 私の見つめる夜空には、たくさんの綺麗な星々と、それからまんまるの満月のお月様が一つ、夜空の中に浮かんでいた。

 その『月は、完全な球体』をしていた。

 そんな『完全な球体をした満月』を見ながら、私は最近、自分がよく見るようになった不思議な夢のことを考えていた。

 それは、明日、世界が終わる夢だった。(恐ろしい夢だ)

 ……どうしてそんな不吉な夢を見るようになったのだろう? (私は基本的に眠りの中で、明るい楽しい夢ばかりを見ていた)それがすごく不思議だった。

 これはなにか、私の暮らしている現実の世界で本当に悪いことが起こることの前兆なんだろうか? それとも私の気分がただ沈んでいるから、そんな夢を見るのだろうか? (思い当たる節はあった。確かに私は最近、すごく気分が凹んでいた)

 ……本当の理由は、わからない。

 でも、ここ最近、明日、世界が終わる夢を見ることだけは確かだった。

 だから私は、あまり眠りにつきたくなかった。(もともと、眠るのは大好きだったけど。今はできるだけ眠りたくなかった。だって、起きたときに世界が本当に、あの夢のようになくなってしまったら、いやだから。本当にすごく怖いから)

 眠ってしまうと、きっとまた、私は、あの明日、世界が終わる夢を見てしまうから……。それがすごく、すごく嫌だった。

 でも、明日も高校に行かなくてはいけない。(私は高校生だった。十七歳の高校二年生だ)だから、そろそろ眠らないと明日の学校生活に支障が出てしまう。(明日は数学の時間もある。寝不足なら絶対に授業中に眠ってしまうだろう)


「はぁー。眠りたくないなー」

 そう言いながらも、私は夜空に輝く月を見ることをやめて、真っ白なカーテンをきちんと閉めて、そのまま自分の布団の中に潜り込んだ。

 電気の紐を引っ張って、電気を消して部屋の中を真っ暗にした。 

 すると、……しん、と静まり返った深い闇がそこにはあった。

 満月の輝く明るい夜とは違う、本当に暗い闇があった。

 私はあまり眠くなかった。(昼間に居眠りをしたからだ)だから、部屋を真っ暗にしても、まだ私はすぐに眠ることができないだろうと考えていた。

 ……でも、そんな私の考えに反して、眠りはすぐに訪れた。

 疲れていたのか、私は真っ暗な闇の中でぐっすりと眠りについた。

 そして、その深い眠りの中で、やっぱり私は、予想通りに、『明日、世界が終わる夢』を見た。

 世界が全部、消えてしまう夢。

 なにもかもが消えていって、綺麗さっぱりとなくなって、(まるでホワイトボードの文字を消すように)真っ白になって、そして最後に、そんな光景をただ呆然としながら眺めていた私自身も、消えて無くなってしまうと言う、怖い夢。すごく悲しい夢だ。

 そんな夢を見ているときに、私は自分が消えるその瞬間に、一瞬だけ、真っ白な世界の中から突然あらわれた『誰かの伸ばした手』を見た気がした。

 きっと、それは私をこの世界の終わりから救うために伸ばされた手なのだと思った。

 私はその手を掴もうとした。

 ……でも、その誰かの手をつかむ前に、……私の不吉な夢は終わった。(私の手は、その誰かの伸ばしてくれた手に届かなかった)


 朝、眼が覚めると、世界は終わってはいなかった。そこにはちゃんと世界はあった。

 目覚めた私はその自分の手を夢の中と同じように、空中に向けて差し出していた。そこにさっきまで確かにあった誰かの手をつかみ取るために……。

 ……あの手は、誰の手だったんだろう? (すごく綺麗な、真っ白な手だったな)

 そんなことを私は考える。

 どこかで見たことがあるような気がした。あの手は、……そんな、不思議な感じのする、……とても、とても懐かしい手だった。(でも、どうしても誰の手なのか、思い出すことができなかった)

 私はゆっくりと布団から出ると、まだ眠たい目をこすりながら、そのまま高校に登校するための朝の準備を始めた。

 そして、「じゃあ、いってきます」と言って、高校の制服に着替えをした私はいつものように家を出た。


 いつもはあなたと一緒に歩いた道を、一人で歩いて、高校まで登校した。


 あなたのいないひとりぼっちの通学路は、まるで月までの道のりのように、遠く、そして、孤独に感じた。

 私の見上げる早朝の青色の空の中には、小さな白い月があった。手を伸ばしてみたけど、やっぱり(いつものように)私の小さな手のひらは、あの月にまでは、……届かなかった。


 まんまるお月様 終わり

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