第5節「jusut be my life」



 何の気なしに開けた車の窓から吹き抜けた風に目を細める。ポケットを探り、煙草を取り出して一本を咥え、火を点ける。薄い煙を吐き出して、ふと窓の外に目をやった。

 何のことは無い、いつもの風景が、そこには広がっていて。得体のしれない寂しさが胸に突き刺さる。形容しがたい、なにか、得体のしれない何かが胸を刺して、どうしようもなく自分自身を消し去りたいと、そう、思ってしまうのだ。


 子供の頃に自分はきっと何かを成す人間だと、自分は特別だと、どこかで思っていた。否、今でもきっとそれを抱えてしまっているのだと思う。

 世の中には、自分より優れている人が溢れていて、自分では思いもよらないような輝きを放つ人がいる。それに気が付いた時、折れてしまった自分と、折れなかった自分とが、乖離したまま、俺という人間を形作ってしまった。

 別に何がしたいわけでもなく、目標すら何処にも無い。

「お前には何もないよ」

 と、そんな言葉が頭をよぎる。

「お前は何がしたいんだ」

 何度も繰り返した言葉に耳を塞ぎたくなる。


 どこかに置き去りにした、見ないようにして、いつしか本当にわからなくなってしまった、折れなかった自分。


 灯った赤を灰皿に落とし、また新たな火を点けて、もう一度、深く吐き出した。


 窓から吹き込む風が一層強くなって、窓を閉めた。

 真っ白い靄が優しくて、強く、黒く、俺を大人にしていった。

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「アイ」をなぞる 希望ヶ丘 希鳳 @kihou777

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