大きな雲の上

雨世界

1 君は私の憧れだった。

 大きな雲の上


 プロローグ


 ……涙は、やがて雨になった。


 本編


 君は私の憧れだった。


 気がつくと、私は大きな雲の上にいた。

 世界は真っ青で、地面は真っ白で、そんな空想的な、おとぎ話の中のような風景を見て、私はすぐにこれが私の見ている夢の世界の風景なのだと気がついた。


 自分の服装を見ると、私は、学校の制服を着ていた。(それが不思議だった。私は学校が好きじゃないのに。……どうしてだろう?)

 着慣れた紺色のブレザーの制服だ。

 カバンは持っていなかった。背中にリュックも背負っていない。

 荷物はなにもなかった。


 私はそれからきょろきょろと周囲の風景を見渡すようにして、この不思議な大きな雲の上のどこかにいるはずの君の姿を探してみた。

 でも、どこにも君の姿はなかった。

 君は相変わらず、私からずっと遠い場所にいるようだった。


「はぁー。まあ、しょうがないか。うんうん。君はそういうやつだよね」(いつも私から、君はとても遠い場所にいるんだから)

 私はそう言って一人納得すると、それから大きな雲の上を元気よく歩き出した。

 もちろん、この大きな雲の上のどこかにいるはずの、ひとりぼっちの君を探し出すために、だ。


 ……君に会ったらなんて言おう?


 いきなり、好きだよ、って言っちゃうかな? ふふっと笑いながら、私はそんなことを考えていた。

 すると、なんだかすごく気持ちが明るくなって、楽しくなって、元気がいっぱいでてきた。(それがすごく、本当にすごく不思議だった)


 私は君を探す旅に出かけた。

 誰もいない、なにもない、大きな雲の上を歩いて、君を探す旅を続けた。


 すると、少しして遠い場所に誰かの小さな人影を私は見つけた。


 その人影を見て、私はすぐにそれが君だとわかった。


 私は君を見つけて、それから(焦らずに)ゆっくりと君に向かって歩いて行った。本当は走り出したかったのだけど、我慢した。(君を驚かせたいからだ)


 でも結局私は我慢できずに途中から走り出してしまった。


 すると君は自分に近づいてくる私の気配に気がついてゆっくりとこちらを向いた。


 君は私の姿を見て、とても驚いた顔をしていた。

 君は私がこんな場所にいるなんて、想像もしていなかったようだった。


「なんでこんなところに来たの!?」と君に向かって一直線に走っている私に、君は驚いた顔のままで、大きな声でそう言った。


「君のことが大好きだからだよ!!」と大きな声で私は言った。


 すると君は、なんだかすごく呆れたと言ったような顔をした。


 私は構わずに、そんな君の胸の中に思いっきり、走ってきた勢いのままに、ダイブをした。


 君は私を拒否しなかった。

 君は私を受け入れてくれた。私のすべてを受け止めてくれた。

 それがすごく、本当にすごく嬉しかった。


「大好き。愛している」君の胸の中で、君にぎゅっと抱きつきながら私は言った。

「バカ。あなたは本当にバカだね」と君は優しい声で、私のことをぎゅっと抱きしめながら、……そう言った。


 次の瞬間、私の体は君の胸の中で白いたくさんの羽になって消えた。 

 私が消えてしまって、君は一人で、大きな雲の上で、膝を崩すようにして、両手で顔を覆うようにして、泣いていた。


 ……お願い。泣かないで。と私は君にそう言った。


 でも君は、泣きやんだりはしなかった。

 ずっと、ずっと泣いていた。


 君の流したたくさんの涙は、……やがて雨になった。


 雨は地上に降り注いた。


 ……たくさんの、本当にたくさんの雨になって、地上に落っこちていった。

 

 それは、とても悲しい風景だった。

 いつの間にか、私も(すごく悲しくて)泣いていた。


 君にもう一度会いたい。そう思った。

 ……君に会って、その涙を止めてあげたいと、……そう強く、(……本当に強く)……思った。


(私の思考は、そこで途切れた)


 私たちの合言葉は、I LOVE YOU(アイラブユー)だね。


 大きな雲の上 終わり

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