第13話 居場所
「僕を、サブ研に入れてくれないか」
ある日、入部希望者がやってきた。
特上の嫌な顔をする俺。
普段お人よしの北村も珍しくスゲー嫌な顔をしている。
その理由は――
「学校一のイケメンにしてサッカー部のエースストライカーと名高い
決まっている。
エリザだろう。それ以外にない。
「それはこれを読んでほしい」
と、一ノ瀬がカバンから取り出したのは入部試験の推薦文。
「こ、これは……!!」
驚愕に目を見開く2人。
彼の手には、100枚はあろうかというブ厚い原稿用紙の束があった。
「……拝見しても?」
「どうぞ」
「私も読みたいデース!」
「あっ……女の子はちょっと……」
「えーっ!」
女の子には見せづらいタイトルか?
どれどれ……
タイトルを見た。
――"Dear My Heart"
「お……おぉぉ…………同士…………同士よ!!!!」
感激に涙を流す北村。
こりゃ最近のコイツの一押しのタイトルじゃねーか。
部長に媚びようと情報収集してきやがったか?
と、文章に目を通すと――
『ヒロインのさくらちゃんに心奪われました。さくらちゃんは純粋で一途で献身的で素晴らしい女性です。現実の女性とは大違いです。さくらちゃんのいいところは108個あります。まず1つめ。主人公の桐也くんを絶対に裏切らないところ。さくらちゃんの周りにはたくさんの誘惑してくる男がいますが、さくらちゃんは絶対に桐也くんを裏切りません。現実の女性とは大違いです。つぎに2つめ。主人公の桐也くんに絶対に嘘を吐かないところ。現実の女性とは大違いです。3つめ……』
「…………」
俺たちは憐みの目で一ノ瀬を見た。
「今夜……メシでも奢るぜ」
***
その晩。
「……七股ぁ!?」
ラーメン屋で、俺と北村は素っ頓狂な声を上げた。
うなだれる一ノ瀬。
「そう……信じられるかい? 彼女、僕とのデートをドタキャンして別の男と会ってたんだ」
「ひでぇな」
「僕が家を訪ねたあの日も、男がクローゼットの中に隠れてたんだ」
「ほ、ほぉ~……」
「電話で話してるときに様子が変だったのも……」
「現実にあるんだな、そんなこと」
「最後の言い訳は"ほかの男はあなたに貢ぐための金づる。本命はあなた"だってさ」
「ははは」
「その前の彼女もパパ活とかしてたし……なにが"パパ活"だ。オブラートに包むなオブラートに。やってることは売春だろーが!」
「うんうん、そのとぉーり」
「もう誰も信じられない……リアルの女なんてクソだ、クソクソ」
「wwww」
自分たちとは異次元の存在であるこんなイケメンが、まるで俺たちのような情けない言葉を吐くのは、悪いけどちょっと面白い。
「大将! 餃子追加で!」
「まぁ、食えよ」
………………
…………
……
その日から、一ノ瀬はサッカー部と兼部ながら、頻繁にサブ研にやってくるようになった。
特に北村とはギャルゲー趣味で甚く意気投合し、瞬く間に親友になってしまった。
エリザもメチャなついてるし……北村、地味にヤベェなアイツ。
今日も4人で一緒に帰宅予定。
北村の家に集合し、アイツのコレクションの中から気に入ったゲームやラノベを貸してもらえる約束だ。
「フンフンフッフーン♪ 楽しみデース!」
「ホント、楽しみだね」
北村を中心に、エリザは左手を、一ノ瀬は右手を繋いでランラン笑顔で歩いていく。
どういう集団だ、これ……? ていうか俺、あぶれてるんですけど……
少し寂しい気持ちもしつつ帰路を行く途中、チョイチョイと手招きするものに気づいた。
「ん……?」
他の者たちは気づいていない。
なんか声をかけづらいので、一人で手招きの主のもとへ行く。
突然、ガッと物陰に引き込まれた。
「わっ! な、なんだぁ……?」
顔を上げると、目の前には明るい茶髪に濃い睫毛、いかにもギャルギャルしいギャルメイクの女がいた。
「だ……誰?」
「あーしぃ、立心高校2年、
「はぁ……?」
頭悪そうな喋り方だな。若干イラッとする。
「征哉クンを引きはがしてくんないかなぁ~? あのおデブちゃんからぁ~」
「……なぜ?」
「征哉クンがオタクになっちゃうのが嫌だからに決まってんでしょ~。あーしい、サッカーの試合見に行ったトキ一目惚れしちゃったってゆーかぁ」
「あ、そう……」
「で、どう? やってくれる?」
「だが断る」
この女の頼みを聞いてやる筋合いなどない。
「……ホントにいーのぉ? 断っちゃって。アンタにも悪くない話だと思うケドぉ」
「なに?」
「このままだと居場所なくなるんじゃな~い? アンタぁ」
「……!」
God ♰ Game すきぴ夫 @BARCA_KAKUYO
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