二回戦 天に届く樹
第12話 親戚のおっさん、変態指数天元突破す
ここ何日か、紬希の姿を見ていない気がする。
ちょっと聞きたいことがあったんだけどな。
――べ、別に寂しいとかじゃないんだからねっ!
「……殿。有坂殿!」
「……んぁ?」
「どうしたでござる? ボーッとして」
「あぁ悪い。聞いてなかった。で、何だって?」
「もう! しっかりしてよねでござる!」
プリプリと怒る北村。
「入部希望者でござるよ。どうしようでござる?」
「あぁ……またか」
ここ数日、サブカルチャー研究部には毎日何十人もの入部希望者が押し寄せていた。今日も物理室の外には人だかりができている。目当てはもちろん――
「なにしてんの、エリザちゃん」
「ラノベの挿絵を描いてるデース!」
「へぇ……そうなんだ」
すごいヘタだ。
「その場面を想像して、こんなんだろうなーって考えながら読むのが好きなんデス!」
屈託のない笑み。足をパタパタさせながらお絵かきに没頭する姿は天使としかいいようがない。
「むぅ……キャラかぶってんね」
「被ってねーし出てくんな」
「どうしたでござる?」
「なんでもねー。入部希望者だったな。そんなんアレだ。入部試験を課せばいいだけだろ」
「入部試験でござるか」
「マンガでもアニメでもなんでもいいけど、好きな作品について推薦文を書いて提出させろ」
「なるほど、それはいいでござるな。さっそく告知するでござる!」
北村は書くものを調達にドタドタと走っていった。
――しかし、妙だな。
どうして急に、こんな大騒ぎになってるんだ?
そりゃもちろんエリザが絶世の美少女だから――だろうが。
しかしそれなら入学式の日にでも1年生の間で騒ぎになるだろうし、すぐに上級生にも広まるはず。今まで表に出てこなかったのはいったい――
「その疑問にはワタシがお答えしまショウ」
「!! 誰だッ!?」
周囲を見渡す。
が、窓の外から物理室を覗き込む野次馬連中の他にはお絵かきに没頭するエリザの姿しかない。
「ここネ、ここ」
「!?」
声が近くなり、振り返ると――
エリザの座っている椅子と同じ椅子に、ハゲた小太りのオッサンが座っていた。
「……なんだオッサン、あんた?」
「ドモドモ。ワタシ、エリザの守護天使ネ」
「し、守護天使……? なぁエリザちゃん。隣に変なオッサンいるけど大丈夫?」
「え?」
もしや、気づいてない……?
「あぁ、天使サマデスネ! 大丈夫デス! 無害デース!」
「なーんだ……お前も同類かよ」
「同類??」
「いや死んでんだろ、お前も」
「エリザは死んでないネ。そうならないようにワタシが護ってるネ」
死なないように守ってる? そんな関係があるのか?
「アリエル。こいつの言ってることは本当か?」
問うと、床下からニュッと出てきた。
「ボクもなんでも知ってるわけじゃないけどね。一応お伺いしましょうか。あなた、天使名は?」
「ダニエルいうネ」
「親戚のおっさんじゃねーか」
「ダニエルさん、エリザちゃんを守ってると仰いましたがどういう意味です?」
「イエース。エリザは小さいころから病弱な娘デシタ。ワタシ、エリザが病魔に負けないようにいつもそばで見守ってきまシタ」
「やっぱ親戚のおっさんぽいよなぁ」
「家でも学校でも、リビングでも自室でも、トイレでもお風呂でもどこでも見守ってきまシタ」
「うーんいきなり変態指数を天元突破させてきた」
「それで、その子が急に目立ち始めた理由は?」
「話の通りネー」
「んにゃ?」
「察しろバカ」
おおかた、入院してたとかだろう。
「もー! ダニエル、ペラペラしゃべりすぎデース! 乙女のプライバシーをなんだと思ってるデスか!」
プクーと頬を膨らます。
「ゴメンゴメン。悪かたネ、反省するネー」
「でもそういうことなら、こんなふうにワラワラ人が集まってくるのは体にも良くなさそうだな」
「そういうことネ。Mr.カナデ。アナタにもご協力いただきたいネ」
ニヤリと笑う。
「タダというわけにはいかねーなぁ」
「!? ま、まさかエリザを狙って……!? いけないネ! ワタシになら何をしてもいいから、エリザだけは、エリザだけは!!」
「ほう、何でも?」
両手で胸を隠しながら、顔を赤らめてコクリと頷くダニエル。
「じゃあ俺の戦いに協力しろ」
「アナタの戦いに……?」
「あぁ。おいアリエル。複数体の天使と契約ってできるのか?」
「ム・リ☆」
「じゃあ契約はしてないけど手伝ってもらうってのは?」
「それはご自由にって感じだね。まぁ、天使にとってメリットがないから普通はやらないけど」
「手伝ってもらうとしたらどんなことが考えられる?
①戦闘に加わる
②敵にくっついてスパイ
③遠隔から情報統制
とか」
「戦闘に加わるのはムリだね。契約することで契約者のエーテル体を通して天使の力を現世に放てるようになるわけだけど、それができないから」
「なるほど、②は?」
「可能だヨ。バレたら死ぬケド☆」
「ダニエル死ぬデスか? ダニエル死ぬのはイヤデース……」
エリザがウルウルとこちらを見ている。
「……じゃ、③は?」
「それも可能☆」
「よし、じゃあその役割で手伝ってもらうぜ、オッサァン……」
我ながら邪悪な笑みを浮かべた。
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