六 憔愕絞(4)
またしてもあの少女ーーシラコを見たことも忘れ、幸信の両親からの電話で俺達が向かったのは奇しくも小学校だった……。
ちなみに「おもひで」から小学校まではけっこうな距離があったし、一秒でも早く着きたいと気持ちがとても急いていたので、俺達の異変に気づいたあのご夫婦の厚意にまたもや甘えて、今度も車で送ってもらってしまった。
ともかくも、美鈴がぼそぼそと要領を得ぬ口調で語った話によると、小学校の用具置き場で首を吊った幸信の遺体が発見されたらしい……。
第一発見者は教師の一人で、夏休み明けに使う用具の点検のため、体育館裏にある用具置き場へ行ってみたところ、偶然、幸信の遺体を見つけたのだという。
その話を聞いた瞬間、俺は幸信の死んだのはもちろんのこと、今朝見た夢の内容と奇妙に一致していることに対しての大きな驚きと衝撃を感じずにはおれなかった。
俺達が着いた時にはすでに遺体は縄から降ろされ、泣きすがる両親とともに毛布にくるまれて担架で運ばれるところであったが、その折に見た用具置き場の位置も、その古くなった扉のペンキの剥げ具合も、そして、この鼻腔を満たす埃っぽい乾いた臭いも、まさに夢で見たあの場所そのものだった。
……あれは、正夢だったのか? ただし、吊るされたのは俺ではなく、幸信だったのだけれども……。
もしかして、この悲劇を予告するために、シラコは俺の夢の中に出てきたのだろうか?
「――まあ、おそらくは自殺だね。用具置き場は鍵が壊れてて誰でも入れたし、検案でも他に外傷や争ったような跡はなかったしね。ま、今回は状況が状況だけに一応、司法解剖には回しといたけど」
横一列に並び、大人には小さすぎる机に座る俺達三人を前にして、黒板の前に立つ伊那谷巡査がなんとも簡単にそう断定する。
現場には昨日同様、伊那谷・佐久平の両巡査と、死体検案のために診療所の須坂先生も来ており、幸信の遺体があずさと同じく救急車で町の病院へ運ばれて行った後、俺達は学校の教室を借りて事情聴取を受けることになった。
こんな時になんだが、その間取りや室内に満ちる独特の臭いは、こどもの頃に使っていた当時そのままの、なんとも懐かしさを感じさせられるものだ。
そして、ここへ来る時に通った細い廊下も、今朝、夢に見たそれと長さこそ違えどまったく同じものだった……。
「そんな……ユキが自殺するなんてありえません!」
解剖も待たぬまま、
「でもねえ、君らの話からすると、彼は昨日亡くなった松本あずささんの事故を一人で調べてたっていうし、彼女に少なからず好意を持っていたんじゃないの? それに親友の飯田真人君も亡くした直後だったし、立て続けに大切な人を失って、そのショックでってことは充分ありうると思うよ? 二人との思い出深い小学校をその場所に選んだってのも、そう考えれば納得できるし」
「それは……そうかもしれないですけど……」
だが、俺達から聞いた情報をもとにしてそんなストーリーを組み立てる伊那谷巡査に、美鈴の声もすぐにトーンダウンしてしまう。
二人の死にショックを受けていたのは俺達全員、疑う余地もない事実であったし、無論、知らずに言っているのだろうけれども、幸信があずさを好きだったことは、彼に好意を抱いていた美鈴にとってはあまり触れられたくないアキレス腱である。
「それとも、あの状況で他殺の疑いでもあるっていうのかい? ま、誰か彼に恨みを持ってる人間がいたんだとか、彼が何かトラブルに巻き込まれていたとか、そういう話でもあれば別だけどね」
「………………」
さらに今度は伊那谷巡査の後に立つ、もう一人の佐久平巡査にそう問いかけられ、俺達は全員、一言も反論できずに押し黙ってしまった。
どのように説明されても、幸信が自殺したなどとは到底思えない……だが、さりとて〝シラコ〟などという幽霊に殺された可能性があるなんてことは、ここまで出かかったものの、さすがに口に出すことはできなかった。
幽霊に殺された……しかも、絞首刑のように首を吊られて命を奪われたなんて、常識的に考えればありえない話なのだ……。
「まあ、立て続けに友達三人が亡くなって、信じられない気持ちもわからなくはないがね。彼も同じような思いから、ショックでこうした行動に出てしまったんだと思うよ。ま、亡くなった彼らのためにも、君達は心を強くもたなきゃいけないよ」
九分九厘、自殺と信じて疑わない巡査達は最後にそんな説教じみた言葉で締めくくり、今回もあずさの時同様、思いのほか簡単に事情聴取はお開きとなった。
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