四 幽歩導
四 幽歩導(1)
「――やっぱり、あなたが……あなたがマトンを殺したのね!?」
月明かりも届かない、漆黒の闇に包まれた真夜中の森の中、奇怪な獣や梟の声に混じって、松本あずさの震える声が木霊する。
「……違う……あなたは間違ってる……わたしは……わたし達は誰も悪くない! あれは……あれはほんとに不幸な事故だったのよ!」
周囲の闇とは反対に、蒼白く、すっかり血の気の失せた顔色の彼女は、レンズの奥の瞳を小刻みに震わせながら、目の前に立ち塞がる存在に対して必死に訴えている。
「……ねえ、お願い。もうこんなことはやめて! ……誰も…誰も悪くなんかないの! お願いだからわたし達を許して!」
恐怖に戦慄く足をなんとか強引に動かし、ゆっくりと後退るあずさはなおも懸命に訴えかける。
「……い、いやあっ!」
それでもじわじわと距離を狭める恐怖の存在に、ついにあずさが悲鳴を上げて走り出すと、眼前の闇から伸びた手が彼女を捕まえようとその背中に迫る。
「い、いやあっ! ……あっ! …んぐっ……」
だが、背後を気にしながら森を駆ける彼女は、大地を這う樹々の根に足をとられ、そのままの勢いで転倒すると倒木の切り株に頭を強打してしまう。
ひび割れたメガネのレンズを伝う、頭の傷から流れ出た真っ赤な血液……だが、ピクリとも動かない彼女の手が、それを拭うことは一度としてなかった――。
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