Ep2.彼女が欲しい男子高校生のハナシ

クロ「あー、俺にも可愛い彼女欲しーな、チクショー!」


私は無類零むるいれい唐突だが、放課後の教室で彼女欲しいと騒いでいる褐色肌の男子高校生は月陰黒夢つきかげくろむ。髪も肌も黒く、名前にも黒が入っている為、クロと呼ばれている。対してそんな彼を不愉快そうに見ている白髪のこの男子高校生は日陽白斗ひなたしろと。クロとは対象的に白髪で肌も色白な為、シロと呼ばれている。私はそんな彼に勉強を教えて貰っていた訳だが、隣の席に座ってたクロが話しを聞いて欲しそうに大きな独り言をぬかしているのだ。


零「いきなり何ですか?彼女欲しいなら勝手に作ればいいじゃないですか。」


クロ「それが出来れば苦労しねーよ!クソッ!森林もりばやしの野郎、ちょっとイケメンだからって彼女出来たアピールしやがって。」


シロ「それが彼女欲しい理由かよ。男の嫉妬なんて見苦しいだけだぞ。」


クロ「嫉妬なんてしてねーよ!こっちなんて彼女いない歴=年齢なのに向こうは何回も彼女出来てるのが羨ま…気に入らねぇだけだ!」


シロ「それを嫉妬と言うんだよ。羨ましいって思ってんじゃん。」


クロ「うるせー!俺だって可愛い彼女とデートしたいしイチャイチャしたいし、彼女と〇〇して〇〇を〇〇して〇〇共にマウント取りてぇんだよ。」


開き直り、駄々をこねるように欲望の声を吐き出すクロの言葉はあまりにも下品過ぎてシロと共に返す言葉が出でこず、ただただ彼を汚物を見る目で哀れむように眺めるしかなかった。そんな彼に眼鏡を掛けたチャラい雰囲気の男子と優男と言う言葉が似合いそうな男子の二人が寄って来た。


眼鏡の男子「ヘイッ!そのフィーリング分かるぜブラック!キュートなガールとラブしてぇボーイはユー以外にも居るぜ!オレとかな!」


優男「マウント取りたいとまでは思わないけど、1度は恋愛したいのはおれも同じかな。あっ、いきなり話しに入ってきてごめんね。」


クロ「ジャック!桜井さくらい!男なら彼女欲しいと思うよな!」


ジャックと呼ばれた眼鏡を掛けた男子の名は南嶋雀なしまじゃく。外国人の血も無ければ帰国子女でもないのに何故か英単語を混ぜた喋り方をする陽気な性格のクラスメイトである。因みにジャックと言うのは彼のあだ名である。そしてもう一人は桜井春樹さくらいはるき。比較的変わり者が多いこの学校では逆に珍しい普通と言う言葉が似合う穏やかで気さくなクラスメイトだ。


南嶋「ようホワイツ!ユーもメンズだろ!ユーのハーツにはラブに対するハングリーメンタルは無いのかよ!?」


シロ「あの、ホワイトって僕の事かな?ねぇ南嶋君、聞き難いから普通に話して貰えると嬉しいんだけど…。」


南嶋「ノンノンノン!オレの事はジャックってコールしてくれよホワイト!シリアス過ぎるのもナンセンスだぜ?テンションアップしてこーぜフゥー!」


シロ「はぁ…(南嶋君のノリと話し方正直苦手なんだよな。地味にウザいし…)それで恋愛に対する話題で良いのかな?僕の意見だけど好きな異性が出来てから考えるものじゃないの?」


桜井「確かにそれが1番の理想かもしれないけどさ、そこばかりにこだわっていたらいつまで経っても恋愛出来ないよ。待ってても出会いは来ないんだし……まぁ、シロにはもう関係無いか。」


シロ「ん?もう関係ないって?」


南嶋「まーアレだな。ユーには既にキュートなガールフレンドが居るからノープロブレムって話しだな。全くジェラシーだぜ。」


桜井「正直羨ましくなるくらい仲良しだよね。どういう経緯でセピアちゃんと付き合ったの?良かったら教えてよ」


シロ「……はぁ!?」


それを聞いたシロはキョトンとした表情かおで数秒固まった後、驚いた様子で素っ頓狂すっとんきょうな声をあげた。因みにセピアとはシロの幼馴染みである星輝聖秘愛ほしてるせぴあの事である。


シロ「待って二人共!誤解しているみたいだけど僕はセピアと交際なんてしてないよ!?ただの幼馴染だって!」


南嶋「HAHAHAHA。そんなに照れるなよシャイボーイ。結構噂になってるぜ?ヒューヒュー!」


桜井「そうそう、わざわざ隠す必要無いよ。おれもお似合いのカップルだと思ってるし恥ずかしがる必要無いって。二人もそう思うだろ?」


シロが顔を紅くしながら慌てて誤解を解こうとしているが。南嶋君と桜井君の二人は本気で捉えていないようだ。なので事実を教えてあげる事にした。


零「盛り上がっている所申し訳ないのですが、シロとセピアは本当に付き合っていませんよ?ですよねクロ?」


クロ「ああ付き合ってねぇな。」


南嶋「リアリィ!?マジか?」


桜井「セピアちゃんと付き合って無かったの!?あんなに仲良いのに?」


シロ「本当だよ。何で二人共付き合ってると思ったんだよ。」


南嶋「いや、だってよ。ユーこの前風邪でダウンしてエスケープしただろ?そのディにあーんして貰ってたじゃん?あっ、何故オレが知ってるかって?それはブラックにムービー観せて貰ったからな。」


恐らくこの前密かに観せた動画の事を言っているのだろう。それを聞いたシロは鋭い眼光を私とクロに向けて来たので、私達は恐怖心を胸に抱きながらゆっくり目を逸らした。


桜井「ま…まぁ、多分その動画おれ達にしか観せてないから…。それに動画抜きにしても普段から割と距離近いから割とそう思っている人それなりに居ると思うよ。」


シロ「うう…。普段から無自覚に距離近いからなぁあの娘。」


南嶋「それはそれで羨ましいけどな。でトークをリターンさせるが、オレ達がワンダフルなブルースプリングを送るにはやはりガールフレンズはマストだな。」


クロ「ああ、その為にはまず彼女を作る為の出会いが必要だ。その出会いを作るには三つの手段がある。」


シロの恋人疑惑の話しが終わり、彼女についての話題に戻る。クロは真剣な表情で三本の指を立てて話す。それを南嶋君と桜井君の二人は頷きながら、シロは呆れた様子で聞いている。


クロ「一つ目の手段は『合コン』だ。女子の友達に可愛い女の子を紹介して貰って合コンを開くんだ。ジャック、お前に女子を紹介してくれそうな友達居るか?」


南嶋「oh......残念だが俺のフレンド達はリア充ばかりでアテには出来そうにないな。」

 

桜井「紹介して貰う以前に彼氏募集中の女子の友達とか居ないの?」


南嶋「…あのな、クロ、桜井、そんな娘居たらオレが放って置くと思うか?そもそもさっきシロに可愛い幼馴染が居て羨ましいって言ったよな?気軽に女の子紹介出来るくらい余裕ある奴がわざわざ羨ましいって言うと思うか?」


クロ&桜井「「…ごめん。」」


先程まで陽気に英語混じりで話していた南嶋君の眼鏡が曇り、無表情かつ普通の口調で話しているのを見た二人は心の底から申し訳なさそうに謝った。


桜井「というかさっき話してたセピアちゃんはどうなの?あの娘なら頼めば紹介してくれそうじゃない?」


クロ「それもそうだな。で、セピアって普段どんな女子と話してるんだ?あまり女子の話しをしてないからあまり知らないな。シロ知ってるか?」


シロ「何故僕に振るんだよ。まぁ、僕が知ってる限りだとたくさん居そうだけど、その中でも特に仲良くしてるのは夏目なつめさんと冬谷ふゆたにさんかな?時々二人の事で話しして来るし、今日もその二人と寄り道していると思うよ。」


今話題に挙がった二人の内一人目は夏目蛍子なつめけいこ。快活でマイペースな性格でクラスの中では美少女として有名なギャルっぽい女子である。もう一人は冬谷雪乃ふゆたにゆきの。前者とは対照的に大和撫子と称されるようなお淑やかな性格でこちらもクラスの美少女を代表する女子である。セピアはシロやクロとも仲が良いが、基本的にはこの二人と行動してる事が多い。


桜井「ああ、だから今日、放課後になってから見掛けないのか。そういえば蛍子けいこと一緒に居たのよく見た気がしたな。」


シロ「そういえば桜井君って夏目さんと同じ中学なんだっけ?」


桜井「中学と言うか幼少期からの付き合いだよ。お隣さん同士のよしみでよく一緒に遊んだりしたんだよ。最近はそういうの無くなったけどね。」


クロ「桜井…お前もシロと同じなんだな…この裏切り者!」


桜井「ええっ!?」


南嶋「全くだぜ。悪いがお前には今から彼女作り隊からデリートさせて貰うぜ。」


桜井「そんなぁ〜!!別に付き合ってる訳でもないのに〜!!」


シロ「いや、なんだよ、彼女作り隊って。」


クロ「よし、それじゃ今度セピアに頼んでみるか!」


南嶋「イエア!脱・年齢=彼女居ない歴、フゥー!」


そうして仲間外れにされて落ち込んでいる桜井君を他所よそにクロと南嶋君は彼女作りに情熱を燃やすのだった。




・□・◆・□・◆・□・◆・



セピア「ごめんね二人共、わたしには無理みたい。」


申し訳なさそうに謝るセピアを前にクロと南嶋君はショックを受けていた。その様子を私とシロと桜井君で眺めていると、先程まで彼女と一緒に会話していた金髪のポニーテールのギャル、夏目さんが口を開いた。


夏目「ピアたんから聞いたよ。彼女欲しいからピアたんに女子を紹介して貰って合コンするつもりだったんだってね?失礼だけどアンタ達エロバカアホコンビ相手だったらウチはパス!全然タイプじゃないし!」


セピア「けいちゃん本当に失礼だよ…。」


シロ(ピアたんってセピアの事かな?)


威嚇する様な態度で断る夏目さんに対してなだめるようにセピアがやんわり注意した後、今度は長い黒髪の女子、冬谷さんが発言する。


冬谷「私からも丁重にお断りさせて貰いました。申し訳無いけど、合コンという物に抵抗あるし、私には気になるお方が居るの。ごめんなさいね。」


クロ&南嶋「「何!?もしかして俺(オレ)の事?」」


夏目「んな訳ないでしょ!!何で今の話しでそうなる訳!?あと、ピアたんが優しいからってこんな事に巻き込まないでよね!春樹はるきも聞いてたらちゃんと止めてよ!」


桜井「ごめんなさい……。」


夏目さんが幼子を守るようにセピアを優しく抱き寄せ、彼女の頭を撫でながら三人に叱る中、セピアは自身が原因で叱られていると思っているのか、少しだけ気まずそうにしている。


セピア「ま、まぁまぁけいちゃん、そんなに怒らないであげて。ほら、誰でも素敵な出会いを求めているものだし、それに迷惑考えないで真っ先に二人に相談したわたしにも非があるから……ね?」


夏目「ピアたんが謝る必要ないよー!むしろちゃんと相談してくれて嬉しかったし!」


冬谷「それに私達に声を掛ける前に日陽ひなた君に詳しい事情を聞いた上で私達の気持ちを尊重してくれてたものね。日陽君も教えてくれてありがとう。」


冬谷さんがシロにお礼を言うのを見たクロは頭の上に疑問符を浮かべてそうに首を傾げてシロに質問した。


クロ「おいシロ、詳しい事情って何を話したんだよ?」


シロ「主にクロが彼女を欲してる理由とかかな。マウント取る為に欲しいとか、願わくば…えーと、みだらな事したいみたいな話しをしてたとか。あまりにも不純な理由だったからあらかじめセピアに話しておいたんだよ。」


クロ「何余計な事言ってんだお前ぇ!」


夏目「春樹、南嶋、まさかアンタ達も?」


夏目さんに疑いの目で...にらまれた二人は慌てて弁解をはじめた。


桜井「待ってくれ蛍子、確かにおれ達は彼女欲しいって話しをしてはいたけどさ、そこまで不純な動機は無いよ!なぁジャック?」


南嶋「あ、ああ、確かにブラックには同情したが、そこまでやましい事は考えて無いぜ。……多分。」


クロ「あっお前ら、裏切ったな!」


冬谷「うーん、桜井君はともかく、南嶋君はちょっと怪しいかしら……。」


夏目「まぁ、この件は他の女子にも伝えとくから。もう合コンに参加出来ないと思っておいてよね。」


クロ&南嶋「「オーマイガー!」」


クロと南嶋君の二人は床に膝を付き、頭を抱えながら悲痛な叫びを上げる。そんな二人を見てシロは呆れたように溜息ためいきをついた後で、提案を始めた。


シロ「そんなに急がなくても良いんじゃない?恋愛なんて人それぞれなんだしさ。合コンを否定するつもりじゃないけど、もっと別の方法があるんじゃない?部活に入ってみるとかさ。同じ趣味の女子とか居るかもよ?」


南嶋「フーム……同じ部活で同じホビーか、確かにホビーが同じガールならよりエンジョイ出来そうだな。でもオレのホビーはミュージックだが、困った軽音部無いんだよな…。」


セピア「いっそのこと、一から作ってみたら?最低でも部員が三人居たら新しく部活を作る出来るみたいだよ。」


南嶋「リアリィ!?そいつはグットニュースな初見だぜセピアちゃん!バンド結成でもすりゃモテるかもしれないし、メンバーにガールが入ればラブラブ出来るチャンスもある!何よりやりたかったバンドが出来る!ベストなアイディアだぜ!サンキューセピアちゃん、こうしちゃいられねぇ!早速メンバーをサーチするぜ!グッバイ!」


セピアの案を聞いた南嶋君は眼鏡の奥の目を丸く見開き、口角を上げながら嬉しそうな様子で横文字の感謝を伝えるや否や、善は急げといわんばかりに教室を飛び出して行った。それを見ていた一同は呆然と見送っている。


シロ「……なんか凄いテンションだったね南嶋君。」


桜井「アイツ女好きだけど、それ以上にああ見えて音楽に対する情熱は人一倍あるからね。」


冬谷「部活…ね。新しく作れるなら私も作ってみようかしら?」


南嶋君の行動を見て思う事があったのか、冬谷さんは独り言のようにぼそりと何か呟いていた。そんな彼女の声が皆に聞こえる前にシロがクロに対して声を掛けていた。


零「クロも南嶋君と一緒にバンドでもやってみたらどうですか?」


クロ「俺はパス、ジャックとはよく話す仲だが、何かにのめり込む程の情熱なんて俺にはねーよ。あの様子じゃ彼女欲しいとか二の次に考えてるみてーだし、二つ目の作戦に出るか。」


桜井「二つ目の作戦?……あの三つの手段があるとか言ってたやつ?」


シロ「ああ、そんな事言ってたね。完全に忘れてたけど。」


正直、合コンの話しやら部活の話しやらで自分も忘れてたいた。ただ、何となくクロからはまともな話しが出るとは思えない。そんな私の気も知らずかクロは自慢気に作戦内容を語り出したのだった。



・□・◆・□・◆・□・◆・



とある休日、私とシロ、そして桜井君の三人は街中でベンチに座りながら、ただ、独りで仁王立ちしているクロを眺めていた。そんなクロを通りすがりの通行人の何人かが、不審者をみるような視線を向けていた。


零「あの、本当にナンパする気ですか?」


クロ「当たり前だろ!学校で変な噂立てられた後じゃ合コンし難いだろ!だったら校外で作るまでよ!」


そう、第二の作戦はナンパだった。そしてそのナンパに半ば強引に桜井さくらい君も付き合わされ、シロはクロが誰かに迷惑を掛けないか監視する為に来ていた。


桜井「というか、何でおれも付き合わされてんの?この前蛍子けいこの話しをしたら除け者にしたばかりじゃん。」


この前の事を根に持っているらしく、不満そうな態度を取る桜井さくらい君をクロは軽い態度でなだめる。


クロ「まぁまぁ、そんなにカリカリすんなよ。このオレ様が特別にナンパの極意を教えてやるからよ。」


桜井「教えてやるって、クロ、ナンパした事あんの?」


クロ「いや、今回が初。」


桜井「無いのかよ。よく上から目線で教えてやるって言えたね?」


シロ「クロは無駄に根拠の無い謎の自信に溢れてるからね。一体どこから湧いてくるのやら…。」


シロが呆れた様子で溜息をついた後、クロは咳払いをした後で無駄に真剣な表情かおでナンパの極意とやらを語り始めた。


クロ「良いか、先ずはナンパする女を決める所からだ。当たり前だが、ナンパする相手は誰でも良いって訳じゃない。桜井、仮にだがお前なら誰をナンパするか選んで見ろ。」


桜井「えぇ…急に言われてもなぁ。……じゃあ、そこの帽子を被った女の子とか?」


クロに言われて渋々と、そして照れくさそうに桜井君が選んだ相手は帽子を被ったミディアムヘアーのゆるふわ系と言う言葉が似合う印象の歩いている女性だった。


クロ「何でだ?」


桜井「何でって、可愛いからだよ。ちょっと好みだし……」


クロ「……はぁ、これだから素人は。」


シロ「いや、クロも素人だよね?何玄人面してんの?」


クロが偉そうに呆れたように溜息をつくなりダメ出しをする。その後でシロが私が思ってた事を代弁するようにツッコミを入れた。


クロ「お前今可愛いとか美人とかを基準に選んだだろ?」


桜井「それの何が駄目なんだよ。どうせなら好みの娘と付き合いだろ?」


クロ「よく見ろ。あの娘、歩くのが他の奴等に比べたら早いだろ?それにチラチラ腕時計を見ている。多分急ぎの用事があるんだろ?ああいう女は構っている余裕無いから断られる確率が高い。それに綺麗なハイヒールを履いてるな。ああいう靴とか綺麗にしているのも駄目だ。身なりをしっかりしている女も警戒心が強い可能性がある。女としては良いがな。」


シロ「うわぁ…。一瞬の間なのに気持ち悪いくらい見てるなぁ。前から目敏い所あるよねクロって。人の短所とか見付けるの上手いし。」


クロの観察眼に対し、シロは引きながら褒めてるんだが貶してるんだが分からない感想を述べている。恐らく後者だろうが、実際、一緒で相手を見て分析する能力は高いと思われる。まぁ、出来ればその特技をもっと真っ当な使い方をして欲しいが……。


クロ「好みの女と付き合いたい気持ちも分かるが、それよりもナンパに取り合ってくれそうな相手を優先して選べ。」


桜井「そんな事言われてもなぁ。じゃあクロだったら誰を選ぶんだよ?」


クロ「そうだな。さっきとは逆にゆっくり歩いてる娘とかぼんやりしている娘だな。暇を持て余しているから比較的ナンパしやすい。それから派手な服を来ている女より地味目な服を着ている女もおすすめだ。そういう娘は自信ないか貞操概念が緩い可能性がある。」


桜井「そうなんだ……やけに詳しいな。」


クロ「昨日スマホで調べたからな。」


シロ「ネットかよ。しかも昨日ってよく玄人面出来たな。」


クロ「おっ、あの娘とか良さそうだな。それじゃ行くぞ桜井。」


お目当ての女性を見つけたらしく、桜井君の腕を掴んで引っ張るクロに対して桜井君は驚いている。


桜井「行くぞって、待ってくれよクロ。おれはナンパするなんて一言も……」


クロ「そう言わずに来てくれよ。俺みたいなチャラいヤンキーぽい奴が独りで話し掛けるよりお前みたいな地味ゲフンゲフン、素朴な優男が近くにいた方が女の子も話し易いだろ?」


桜井「あぁ、要するに引き立て役で連れて来られたのねおれ。」


シロ「てか自分がチャラいって自覚あるのかよ。言っておくけど、もし何か問題起こして人に迷惑掛けるような事が起きたら僕が止めるからね?」


クロ「それじゃ行くぞ。」


シロはクロに釘を刺すように言うか、クロは聞く耳を持たないまま桜井君を連れて人混みの中に入って行った。その様子を見届けた後で私はシロに声を掛けた。


零「あの、シロ、本当に行かせて良かったんですか?シロなら全力で止めると思ったんですが…」


シロ「まぁ、本音を言えば殴ってでも止めたいけど、クロが昨日…」


クロ『流石に脅したり無理矢理口説く真似はしねーって。俺だって心から愛されてーし。そこまで疑うなら監視なり好きにしろよ。それで俺が問題起こすようならお前が止れば良いだろ?』


シロ「って感じで言われてさ。」


シロが眉間にしわを寄せながらも説明してくれた。クロがわざわざそういう事を言うのも驚きだが、シロもその言葉を信じる事にも私は驚いている。


シロ「まぁ、アイツなりに超えては行けない境界線ラインを理解しているつもりなんだと思う。一応あんなんでも中学の時に比べたら大分丸くなっているし、義理堅い所もあるから渋々承諾したんだ。」


零「……シロなりに彼を信じては居るんですね?」


シロ「本当に信用してるならわざわざ監視なんてしてないよ。ただ否定し過ぎるのもどうかと思っただけ。」


それからシロとクロの監視して一時間程経過したが、クロと桜井君は何の成果も得られないまま、疲れきった自分達の元へ戻ってきた。


零「おかえりなさい。」


クロ「クソッ!全然駄目だった!ナンパを成功させるどころが話しすら聞いて貰えねぇ!」


桜井「そりゃそうだ。今のご時世、いきなり顔も名も知らない人間に声を掛けられても警戒されるのは至極当たり前だもんな。本当に相手にして貰えるのは超が付くようなイケメンだけだよな。わざわざナンパに付き合ってまで何してんだろおれは?」


シロ「何かクロがごめんね桜井君。何か飲み物でも買って来るからそこのベンチに座って休んでなよ。」


桜井「ああ、気を使わせて悪いねシロ。後でお金払うから冷たい緑茶お願い出来るかな?」


クロ「俺コーラ。お前の奢りな。」


シロ「お前には言ってないんだけど?…まぁこの前の借りもあるから奢るけどさ。」


クロ「おっマジで!?言ってみるもんだな、サンキュー。」


女性A「ねぇ、そこの白い髪の君。ちょっと良い?」


シロが飲み物を買いに私達から少しだけ離れると、何処からか、大学生と思われる二人組の綺麗な女性が彼に声を掛けて来た。


シロ「……えと、僕に何か用ですか?」


女性B「ちょっと尋ねたいんだけど、この近くにカフェとか無いかな?ちょっと休憩したくて。」


シロ「(道を訊いてるだけか。てっきりクロの事で何か言われるかと思った。)ああ、それならそこの信号を右に回って……」


女性A「えー、口で説明されても私達分からないからキミがカフェまで連れて案内して欲しいな。」


シロ「え?」


女性B「そうそう。ボク高校生くらいかな?もし案内してくれたら何かお礼してあげるからさ、お姉さん達と一緒にお茶しよ。ね?」


女性二人がシロを誘惑するように徐々に詰め寄り、対するシロは頬を赤らめながら困惑した様子でさりげなく退いでいる。その後継はさながら肉食動物に狙われている草食動物のようである。


零「……あの、もしかしてアレ。」


桜井「多分だけど、逆ナンされてるね?」


クロ「ぎ…逆ナンだと!?」


シロ「ま、待って下さい!そういうの困ります!今連れがいますし……」


女性A「あらあら照れちゃって。女の子に慣れてないのかな?こんなに可愛い顔してるのにね?」


桜井「えっと、あれ止め」


クロ「ちょっと待ったシロ!抜け駆けは許さねーぞ!」


女性B「えっ!?誰あなた!?」


桜井君が止めようかと提案するより先にクロが動いていた。彼の場合嫉妬心による行動ではあるが、結果的に困っているシロから注意を逸らす事が出来たようだった。


シロ「ぼ…僕は失礼します!クロ、後は任せた!」


女性A「ちょっとキミ……って早っ!」


早口気味にそう言うとシロは脱兎だっとの如く、運動部……いや陸上部も顔負けの猛スピードで逃げるようにその場から離れて行った。以前身体を鍛えているとは聞いてはいたし、実際新体力テストでも全て10点を取っている程身体能力が高いが、改めて目の当たりにすると女性二人は勿論、私も桜井君もポカンと口を空けて固まってしまう。ただ、クロ一人を除いて。


クロ「ウチの連れがすみませんねお二人方。代わりと言っては僕と一緒にお茶でもいかがでしょうか?」


普段絶対しないであろう丁寧な口調で女性二人に語りかけるクロの声でその場に居た全員が我に返る。


女性A「あ、別にあなたには興味無いので別に良いですさようなら。」


女性B「あーあ、久しぶりに可愛い感じの子見つけたから遊ぼうと思ってたのに……」


冷めた様子でクロをあしらうなり女性二人はブツブツ話しながら去って行った。クロはそんな二人を眺めながらショックで立ち尽くしている。そんなクロを見て堪えられなかったのか、桜井君はそっとクロの肩を叩いた。


桜井「クロ、そう気を落とすなよ。さっきはたまたまシロが好みだっただけでクロが好みって言う人も多分居ると思うからさ。今日はもう帰」


クロ「いや、まだだ!ここまで来て引き下がれっかよ!こうなったら最後の手段で出会い系アプリ使ってやる!」


クロはなにをムキになっているのか、桜井君の慰めの声を遮り、スマホを取り出し、スマホを素早く捜査し、アプリを起動させようとする。私は流石にこれはいけないと思い、スマホを持っている手を掴み、クロを止めようとした。


零「待って下さいクロ!出会い系アプリはいけません!色々リスクありますし、そもそも未成年の私達が使って良いものではありませんよ!」


クロ「止めるな零!鬼の居ぬ間の今がチャンスなんだよ!それにこのアプリは高校生でも使えるから問題ねぇ!」


零「使えるって言ってもそういうのは18歳以上の人対象なんですよ!」


クロ「うるせぇ!俺はもうなりふり構わねぇ!どんな手段使ってでも彼女作ってシロの野郎を見返してやらぁ!」


桜井「もう目的変わってんじゃん。始めは森林君に対して嫉妬してたくせに。おれはもう付き合ってられないから帰るよ。零も帰ろう?」


零「はぁ、そうですね。クロ、私は止めましたからね?どうなっても知りませんよ?」


スマホに全集中しているクロに一応警告をした後、私は呆れた様子の桜井君と一緒にクロを置いて帰宅したのだった。



・□・◆・□・◆・□・◆・



後日、私はシロとセピアと登校しながらシロが居なくなった後の事を話した。


シロ「全く、何考えているんだよクロは…。犯罪目的地で出会い系使うって話しだってあるのに。」


零「私は一応止めましたよ。あの後の事は私も桜井君も聞いていないのでどうなったかは知りませんが……。」


セピア「何か色々と大変だったんだね。二人ともお疲れ様。というか、シロは最後まで一緒じゃなかったの?クロが変な事しないように見張るってあれほど言ってたのに。」


零「それがシロ、途中で歳上のお姉さん達にナンパされて逃げるように帰ってしまったんですよ。」


シロ「ちょっと零!」


セピア「……へぇー?良かったじゃん、お姉さん達に声掛けられたみたいで。少しくらい付き合ってあげれば良かったのに。」


シロがナンパされたと聞いたセピアはいつもぱっちり開いている大きな目を細め、冷やかすようにニヤニヤしながらシロの脇腹を小さい肘でつついている。それに対してシロはタジタジだ。


シロ「そんなにからかわないでよセピア。……ってあれはクロ……だよな??」


セピア「こーら、さりげなく話しを逸ら………ってクロ!?」


シロが自信なさげに指差した方を見ると、その先にクロ(と思われる男子)がふらふらと歩いているその姿は何処かやつれていて生気を感じられず、それでいて何かに怯えているようにも見えた。そんな彼にセピアも驚いて慌てて駆け寄る。


セピア「どうしたのクロ!?なんかなんと言うかカサカサしてると言うか、なんか路頭に迷ったカマキリみたいな顔になってるけど……」


シロ「セピアの表現が独特過ぎる……。いや本当に何があったんだよクロ。」


クロ「ア……ミナサンオハヨウゴザイマス。今日モ良イ天気デスネ。実ハ昨日出会イ系アプリ使ッテミタンデスヨ。」


シロ「あ、駄目だコイツ壊れてる。」


クロ「ソシタラ可愛イ顔ノ女ノ子トスグ会エル事二ナッテ会イ二行ッタンデスヨ。ソシタラ……ソシタラ……ア……アア……あああア亜Aッ!嫌だ嫌だ嫌だ!男の娘怖いムキムキマッチョ怖い〇〇怖いああああああっ!!」


片言で話したと思えばいきなり発狂し始めるクロに自分達はもちろん、通りすがりの通行人達も青ざめた表情で静観していた。正直クロの身に何があったか分からないが、少なくとも私達が触れてはいけない内容だとなんとなく直感で察した。それはシロも同じようだ。


シロ「えっと、二人共、急がないと遅刻するよ?」


零「……そうですね。セピア行きましょうか。」


セピア「ちょっと待って二人共!?クロ放っておいて大丈夫なの!?わたしは何も理解出来てないけど?」


シロ「セピア、この世にはね、触れてはいけない事があるんだよ。君は今の純粋な君のままでいて。」


そして私達は発狂しているクロを置いて、困惑しているセピアを連れて学校に向かったのだった。


零「と言う訳で皆さんも出会い系には気を付けて下さいね。」


シロ「それ誰に言ってるの?」

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とある高校生達の話 狐狸森 葉 @tibesuna

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