とある高校生達の話

狐狸森 葉

Ep.1真面目な男子高校生と優しい女子高校生の話

月曜日、それは大半の学生と社会人がつかの間の休暇を経て、癒した心身をそれぞれの責務へ向かわせる1週間の始まりの日であり、絶望の日でもある。


ある学生は通勤時のサラリーマンやOLに紛れ、望まないおしくらまんじゅうをしながら満員電車に乗り登校する学生や気長に近所に住む友達と談笑しながら徒歩で登校する学生も居る。私、無類零むるいれいはどちらかと言うと後者になるのだが、生憎、友達と気長に談笑する暇も無く、近所の野良猫とたわむれる暇も無ければ積み技で攻撃力や防御力を上げる余裕もない。


零(ち、遅刻してしまいます!)


そう、あろう事か寝坊してしまったのだった。紅い苺と砂糖を煮詰めて作られたジャムが塗られたトーストをくわえ、指定の学生靴でアスファルトを何度も踏みつけながら、メロスの如く通学路を走り抜ける。


そしてくわえた朝食トースト咀嚼そしゃくし、飲み込んだ頃には校門を通り抜け、靴を履き替え、廊下を走り抜け、自分のクラスの教室へと到着する。ぱっと見渡すと何人かのグループに別れて談笑をするクラスメイト達の姿が見られる。どうやら朝のホームルームは始まっていないようだ。


零(な、何とか間に合いました!)


遅刻しなかった事に安堵し胸を撫で下ろしていると、誰かに肩を掴まれ、振り向くと案の定、白髪の男子が眉を寄せ、半目でジッとこちらを見つめていた。


零「お、おはようございます…シロ・・。今日も良い天気ですね?」


シロ「おはよう零。今は曇りだけど君にとっては良い天気なんだね?それはそうと君、さっき廊下を走ってたよね?」


零「アッハイ(あ、説教モードに入りましたね。)」


私がシロと呼んだこの男子の名は日陽白斗ひなたしろと。その名前と銀髪と色白の肌が由来でクラスの皆からはシロというあだ名で呼ばれている。そんな彼はクラス委員長でクラスのまとめ役なのだが……


シロ「遅刻しなかったのは偉いけど、廊下を走るのは校則違反だし、それ以前に他の人にぶつかったら危ないから走って登下校するのも駄目だよ。まったく…髪やネクタイが乱れてるし、口元にジャムやパンくずも着いてるじゃないか。寝坊したの?」


零「お恥ずかしながら……。実はいつも使ってる目覚まし時計の電池が寝てる間に切れてしまったみたいで。」


シロ「それは仕方ないな。でもスマホでもアラーム機能あるんだから、そっちも使うべきじゃなかった?保険にもなるだろうし。」


零「……おっしゃる通りで。」


シロは説教を終えたのか、軽く溜息ためいきをつき、ポケットからウェットティッシュを出すと、此方こちらに差し出してくれた。


シロ「もうすぐホームルーム始まるし、取り敢えずこれで口だけでも拭きなよ。」


零「ありがとう。出来ればくしも貸してくれたら嬉しのですが……」


左手で口を拭きながら右手で髪を整えようとするが、寝癖が思っている程酷いようで上手く髪型を整えられている気がしない。そもそも鏡もないので確認しようがない。


シロ「悪いけどくしもワックスも持ってないよ。誰かから借りられたら良いんだけど。」


??「くしなら持ってるよ。ついでにわたしが髪をかそっか?鏡無いと綺麗に出来ないでしょ?」


シロが誰かから借りられないかと辺りを見渡していると、高校生にしては小柄な茶髪の女子が親切にくしを持って来てくれた。


零「ありがとうございますセピア。ではお言葉に甘えますね。」


そう頼むと自分は彼女が髪をかし易いように自分の席に座り、乱れたネクタイを結び直す。因みに彼女の名前は星輝聖秘愛ほしてるせぴあ。私とシロのクラスメイトで明るくて優しい女の子だ。


シロ「じゃ僕は自分の席に戻るね。君も早めに席に戻りなよ。」


セピア「わたしの席ここから近いから大丈夫だよ。」


シロ「そう。それじゃ失礼。」


そう返事をしてシロは自分の席へと戻って行った。


零「本当に感謝しますセピア。シロもあなたぐらい優しかったら…。あんなに怒らなくても。厳し過ぎるというか真面目過ぎるというか。」


セピア「まぁ、確かにちょっと厳しいかもしれないけど、わたしから見たらシロは優しいと思うよ。何だかんだで助けてくれるし。さっきだって拭くものをくれたりしてたでしょ。」


自分の愚痴に対して、櫛で髪を梳かしながら彼女はいさめる。実際彼は人には厳しいが、困っている人には手を差し伸べる事も多いし、時には複数の不良に絡まれている人を助けようと立ち向かう事すらいとわない。真面目というよりは正義感が強いのかもしれない。


零「まぁ、そうですが……セピアは何か言われた事無いのですか?」


セピア「ん〜……わたしもたま〜に…かな?でもクロ程じゃないよ。それに怒っている訳じゃないの知ってるから。ただ、シロはもっと自分に優しくても良いのにって思う時はあるかなー…なんて、こんな感じで良いかな?あまり時間が無かったから完璧とまではいかないけど。」


早速スマホの自撮り機能を使って自分の頭部を確認してみたが、先程まで乱れて髪は違和感が無いくらいには整えられていた。


零「充分です。ありがとうございました。」


セピア「どういたしまして。」


??「おーい、朝のホームルーム始めるぞー。」


セピアが自分の髪を整え終わるとチャイムが鳴り、同時に不細工な顔をした担任の米異野郞よねことの おとこ先生が教室に入って来たので、セピアは何も言わずに微笑ほほえみながら軽く手を振り、席に戻って行った。


その後、クラスの全員が席に着き、日直の号令で挨拶を済ませると、米異野よねことの先生が出席を取り始め、クラスメイトの名前をフルネームで読み上げていく。その途中で後ろの方から気配を感じて振り向くと、ホームルームが始まる前には閉まっていた引戸が音を立てないように静かに開いたと思えば、同じように静かに閉まり、誰かが気配を消すように席と席の間を屈んだ状態で進んでいる。だが、そんな努力も虚しく、米異野よねことの先生に存在がバレてしまい、怒鳴るように名前を呼んだ。


「…月陰黒夢つきかげくろむ!!」


「あいっ!?」


身を潜めていた黒髪で褐色肌の男子が名前を呼ばれると、塩を振りかけられたマテ貝の如く、飛び跳ねるように教室の真ん中で直立した。その様子を見ていたクラスメイト達は笑い、セピアは苦笑いを浮かべていた。シロに至っては片手で頭を抱え、呆れている。


生徒A「クロ〜また遅刻かよ!」


生徒B「これで何回目だよ〜!」


米異野「月陰つきかげ…お前って奴は……後で職員室まで来い!」


クロ「……ウ〜ッス。」


月陰黒夢つきかげくろむ…通常クロは米異野よねことの先生に対してやる気の無い返事をした後で自分の席に着くと、隣りの席に座ってたシロに頭を軽く手刀を入れられ、そんな彼はシロに睨み返していた。この光景は最早クラスにとって日常茶飯事になっていた。




・□・◆・□・◆・□・◆・




午前中の授業が終わり、昼休みになるとシロとクロ、そしてセピアと四人で席を囲み、昼食を食べていた。その最中で黒いパーカーに右手を突っ込み、椅子にだらしなくもたれながらハンバーガーを食べてるクロが朝の事でシロに文句を言っていた。


クロ「シロ、遅刻する度にオレの頭を叩くなって言ってんだろ!オレの貴重な脳細胞が減るだろうが!記憶喪失にでもなったらどうするんだよ!」


そんな彼に対して、背筋を伸ばし、両手でコンビニおにぎりを持って行儀良く食べてたシロがすました顔で反論した。


シロ「お前がそういうなら止めるよ。ただし、その連続遅刻記録更新が止んだらの話だけどな。」


クロ「今日のはホームルーム中だったから実質セーフだろ!」


シロ「アウトだよ!」


零((またやってますね……))


お互い正反対なシロとクロはよく口喧嘩をする事が多く、クラスでも見慣れている為あまり気に止める人は居ない。まぁ犬猿の仲と呼ぶ程仲がわるい訳でも無いのだろう。実際こうして一緒に食事している訳だし。


クロ「んだよ。なー、セピアちゃんもセーフで良いと思うよな?」


そんな風にクロから共感を求められると、リスのように頬袋を膨らませながら咀嚼そしゃくしつつ首を傾げながら考えた後、口の中の物を飲み込んでから返事をした。


セピア「んー……アウト寄りのセウトかな?先生に叱られちゃってるし。」


シロ「セピア、先生に叱られたら僕の中ではそれはもう完全にアウトなんだよ…。」


セピア「そんな事よりもシロ、おにぎり二個じゃ流石に足りないんじゃない?わたしの卵焼きあげるよ。」


シロ「いや、いいよ。僕少食だし。」


クロ「少食ってお前そんなんだからいつまで経ってもモヤシなんだよ。」


シロ「もやしを馬鹿にするな!もやしは低コストな上に栄養豊富で美肌効果や腸内環境改善、疲労回復等に優れていて、更に煮ても炒めても美味しい最高の食材なんだぞ!」


クロ「……いや、怒るところそこかよ。」


シロの力説にクロは若干引きながらツッコミをいれ、セピアは腕を組んでうんうんと頷いている。


セピア「まぁ、とにかくたくさん食べないと元気出ないよ?腹が減っては戦は出来ぬってね。はい。」


シロ「あ、どうも。」


セピアは半ば強引気味に手作りと思われる卵焼きをはしでシロの食べ掛けのおにぎりの上に乗せ、シロはそれをやれやれと思ってそうな顔で口にした。


セピア「……どう?」


シロ「ん!程良く甘くてふわふわしてて美味しい!」


セピア「でしょー?自分で言うのもアレだけど、美味しく出来てるでしょ?今日の卵焼きはわたしの自信作だしね!」


卵焼きに舌鼓を打つシロにセピアは誇らしげに自慢する。それをクロは羨ましそうに眺めた後、彼女に強請り始めた。


クロ「いいな。セピア、オレにも何か食わせてよ。出来たらその唐揚げが良いな。」


セピア「良いよ。でもハンバーガーに唐揚げって栄養のバランス悪いよ?」


シロ「いや、……セピア、その事なんだけどさ。僕が言えた事じゃないかもだけど、その重箱みたいなデカい弁当を前に言われても説得力が……。」


セピアがクロの栄養バランスへの指摘に対してシロが彼女の弁当を見ながらツッコミをいれる。セピアは独り身で娘を育てる為に働きに出る母に代わり家事をこなしているので料理が得意だが、他の同年代の女子に比べ、小柄でやや幼い容姿に反して健啖家で運動部男子の倍くらいは食べている。


クロ「セピア本当に食べるよな。なのに食べても太らないのすげーよ。まぁ、そのせいで身長は中々成長しないけどな。おっ、この唐揚げうm」


唐揚げを食べるクロの発言がセピアの地雷に触れたのか、彼女の着てる茶色のカーディガンの萌え袖から人差し指と中指が生えたと思ったら、その指でクロの両眼にダイレクトアタックをお見舞いした。無論クロは床に寝転がって激痛で断末魔だんまつまを上げながら悶絶もんぜつしている。その様子をシロは青ざめた表情で見ている。


セピア「零ちゃんも何か食べる?このポテサラとかどう?」


零「……イタダキマス。」


先程の事が無かったかのようにポテトサラダを勧められたので、敢えて??も何も無かったようにポテトサラダを分けてもらった。粗く潰された馬鈴薯ばれいしょはホクホクしていて、混ぜられた人参や胡瓜きゅうりの食感も楽しくて大変美味だった。


零「うん。美味しいです。流石セピアは料理が上手ですね。」


セピア「良かった。そう言って貰えると毎日ご飯作ってる甲斐があるよ。」


シロ「そういや弁当で思い出したけど、皆宿題やって来た?」


シロの発言に悶絶もんぜつしていたクロがピタリと動かなくなり、黙り込んだ。その様子を分かりきってたようにシロは半目で見下ろしている。


シロ「クロ、まさかと思うけど、やっていないという事は…無いよな?」


クロ「……そもそも宿題があったこと事態初耳。」


セピア「今日の五時間目の授業までに先生言ってたよ?クロ、もしかして聞いてなかったの?」


シロ「聞いてなかったと思うよ。どうせ授業中寝てたとかでしょ?」


クロ「仕方ないだろ!!その日は前の授業が体育で疲れてたし、ソシャゲの周回で夜更かしして寝不足だったんだよ!」


シロ「肉体的に疲れてるのは皆同じだし、後者は明らかに自業自得だろ!何逆ギレしてんだよ!」


クロ「てか五時間ってもうすぐじゃんよ!何でもっと早く教えてくれねーんだよ!これでまた怒られたらどーすんだよ!」


シロ「だーかーらー!寝てて聞いて無かったのそっちだろ!責任転嫁すんな!」


セピア「ご馳走様でした。……もう二人共、喧嘩する程仲が良いって言うけど、いくらなんでも共喧嘩し過ぎだよ。」


シロ&クロ「別に仲良くない!!あと食べ終わるの早過ぎぃ!!」


先程まで重箱のような弁当箱に詰められた大量の昼食を、いつの間にか完食し、喧嘩している男子二人に呆れながらも空になった弁当箱を片付けてるセピアに対してシロとクロが声を揃えて仲が良い事を否定し、彼女の食事の速さにツッコミを入れている。ここまで来ると漫才でも見ている気分になる。


クロ「あー!集中してやっても、もう間に合わねー!セピアちゃん、悪いけど宿題見せてくれ!オレからの一生のお願いだ、頼む!」


セピア「手伝ってあげたいのは山々なんだけどね…シロ?」


シロ「それじゃ宿題の意味が無くなるだろ。宿題は自分でやる事に意味があるんだ。全部は出来なくても出来るところまでやろう。解き方くらいは僕が教えるから。」


クロ「シロの意地悪ッ!堅物ッ!雷親父ッ!」


セピア「クロちゃんがんばれー。」


シロは真面目だからズルは許せないのだろう。そういう考えなのでクロを甘やかす事はしないが、かと言って突き放す訳でもなく、困っている人を見放す事もしないので、勉強を教えるという形で助けているのだろう。そんな風に思いながら??は焦りながら宿題をしているクロに説教しながら付き添うシロをセピアと一緒に眺めるのだった。


シロ「良い?ここは……ケホッ……こうして……」


セピア「シロ?今咳した?」


シロ「ん、大丈夫。それよりここは……」




・□・◆・□・◆・□・◆・




次の日の朝、今度は寝坊せずに登校し、教室に入るとシロがいつものように空き時間を使って予習をしているようだった。しかしその手はあまり動いておらず問題集をずっと見つめているだけだ。そんな様子を見ているとセピアが声を掛けて来た。


セピア「おはよう。どうしたの零ちゃん?」


零「あ、おはようございますセピア。いえ、シロの様子がちょっと気になったもので……」


セピア「……来た時にはあんな感じだったの。わたしが声掛けても上の空というか、あまり元気無いというか……一体どうしちゃったのかな?もしかして具合でも悪いのかな…?」


クロ「おーす。二人共どうした?」


シロを心配しているセピアと話していると、珍しく早く登校してきたクロが声を掛けて来た。そしてシロの方を見るなり溜息ためいきをつく。


クロ「アイツまだ引きずってんのか。いい加減切り替えろって言ってんのによ。」


セピア「クロ、何か知ってるの?」


クロ「ああ、オレとアイツが同じ所でバイトしているの知ってんだろ?シフトがたまたま同じでさ、一緒に働いてたんだけどよ、柄に無く大きなミスしちまってよ。その後もドツボにハマっちまってさ。それで落ち込んでるって訳だ。」


そこまで説明するとクロはそのままシロに近付き、目の前で手を鳴らし、彼を驚かせてから声を掛けた。


クロ「おい、シロ。手ぇ止まってんぞ。」


シロ「ああクロか。……昨日は」


クロ「何度も謝らせねーぞ。そこは「急に驚かせるな!」って怒る所だろ。ったく、クヨクヨしてるなんてらしくねーことしてんなよ。セピアちゃんにだって心配掛けてんぞ。」


シロ「そんな事言われても……ケホッケホッ!」


シロが何か言おうとしていたが、その途中で咳をし始め、その様子を見ていたセピアは何かを察し、彼に駆け寄った。自分も後を追う。


セピア「シロ、ちょっと失礼!」


クロ「え?何を?」


セピアが左手でシロの前髪を雑にかきあげたと思うと、同じように自身の前髪を右手でかきあげ、露わになった額を彼の額にくっ付け、熱を計り始めた。その行動にシロもクロも思わず目を丸くする。多分自分も同じ顔をしている。


シロ「えっちょっ!?セピアいきなりなにを!?」


セピア「やっぱり。顔が少し赤いと思ったらかなり熱あるよ。咳も出てるし風邪引いてるでしょ。」


風邪、そういえば昨日咳をしていた気がしたが、その時に風邪引いてたのだろうか。


クロ「そういえば昨日も咳してたよなお前、昨日のミスも体調不良が原因っぽいな。らしくねーと思ったんだよ。」


シロ「いや待って!それだけを理由にする訳には……」


クロ「とにかく今日はもう帰れよ。そして薬でも飲んで寝ろ。今日のシフト俺が変わってやっから。」


シロ「でも!」


クロ「あー!!ごちゃごちゃうるせえな!体調崩してまで何を頑張ろうってんだよ!ここで無理したところで途中で倒れたり風邪伝染されても迷惑なんだよ!そこん所考えてから言えや!」


クロが怒鳴るように言うとシロは黙ってうつむいてしまった。流石に強く言い過ぎだと思った私はクロに注意しようと口を開いたが、その瞬間にセピアが私の肩にそっと手を乗せ、「大丈夫」と言うように眉を下げつつも微笑んた顔を私に見せて制止した。そしてシロは申し訳なさそうに口を開く。


シロ「……ごめん皆。今日はもう帰るね。」


セピア「シロ、お大事に。先生にはちゃんと言っておくからね。」


セピアに対して軽く頷くと落ち込んた様子でシロは教室から出て行った。その後で彼女はクロの方を向いて話しかける。


セピア「クロ、ごめんね。嫌な役をやらせて。」


クロ「……気にすんなよ。元々アイツとは中学ん時から喧嘩してばっかだから今更だよ。二人こそ嫌なもん見せられて嫌だったろ?」


セピア「ううん、わたしはクロがシロの事を想って言ってるって分かってるから大丈夫だよ。」


クロ「想って……って、オレがシロがウダウダ言ってんのがウザくてキレてただけだよ。そこまで心配してねーつっの。」


セピアのクロへの信頼の仕方や照れ隠しで悪びれた態度を取る様子を見た限り、自分の心配は杞憂だったようだ。喧嘩ばかりしている印象だが、何だかんだで強い絆で結ばれているようだ。


クロ「まぁ、そんな訳でオレはシロ尻拭いの為にわざわざシフトを代わってくるから。二人は学校終わったら見舞いにでも行ってくれねーか?」


零「任せて下さい。クロもバイト頑張って下さいね。」


クロ「任せな。それとお使い頼まれてくんね?」


セピア「お使いって何?」


クロ「なに、簡単な事よ。もし見舞いに行った時にアイツが凹んでべそかいてたら、写真なり動画なり撮ってオレに見せてくれよ。そしたらアイツが戻って来た時に指差して笑ってやれるからよ。ケケケ……!」


そう言いながらクロは悪い表情で草でも生やしてそうな笑い方をしていた。本当にクロはシロに対して優しいのか意地悪なのか分からない辺り、良くも悪くも悪友って言葉が似合うとセピアと一緒に苦笑いしながら私は思った。


クロ「にしてもセピアって大胆だよな。」


セピア「へ?…何が?」


クロがニヤニヤしながらセピアに話しかけるが彼女は何の事か分からずにキョトンとした様子で首を傾げてる。


クロ「熱を計る為とはいえ、顔を近付けてデコを合わせるもんだからびっくりしたぜ。オレなら恥ずかしくて出来ねーわ。」


セピア「あれ?熱出た時とかやらない?わたしもお母さんによくして貰ってたけど

?」


クロ「えぇ…」


それを聞いたセピアはシロに対してした事を大した事と受け取っておらず、私はクロと同じように困惑していた


零(セピア、私はその距離感が色々と心配ですよ…。)




・□・◆・□・◆・□・◆・



セピア「零ちゃんお待たせ!ごめんね待たせて!」


そう謝るなりセピアはスーパーから食材やら飲み物等を大量に詰めたビニール袋を持って出てきた。


零「……セピア、シロに栄養を付けさせたい気持ちは分かりますが、今は体調不良で食欲が…いえ、健康体でもその量は食べれないかと。」


セピア「もう零ちゃんてば!わたしを何だと思ってんの!これは作り置きの分もあるの!今シロは一人暮らししているから風邪ひいていると料理大変でしょ。かと言ってレトルトやコンビニ弁当ばかりじゃ栄養偏るからある程度ちゃんとしたおかずも置いておきたいの。あと掃除……は大丈夫かな、わたし以上に綺麗好きだし。」


セピアは私のリアクションに対して恥ずかしがりながらも、スーパーに寄った理由を教えてくれた。彼女の家庭事情もあってなのか、高校生にしてはしっかりしている。


零「まるで一人暮らししている子供が風邪ひいてる時に様子を見に行くお母さんみたいですね。」


セピア「あはは……確かに友達によくお母さんみたいって言われてるかも。言う程お母さんっぽい言動してるかなわたし?」


零「家庭的で世話焼きな所がそう思いますね。この前私の髪をかしてくれたりとか弁当のおかずを分けてくれたりとか、周りに気を配っていて優しいから皆そう言っていると思いますよ。」


セピア「そうかなぁ……えへへ、そう言われると照れるかも。」


セピアは満更でも無さそうに照れている。そんな彼女を見ながら私はふと気になった事を質問してみた。


零「そういえばセピアのお母さんってどんな人ですか?」


セピア「んー……。わたしにとって命の恩人かな。お母さんがわたしを引き取って育ててくれてなかったら今こうして平和に日常を過ごせて無かったかも。」


零「……え?引き取ってって……。」


セピア「うん。私の今のお母さん、血縁的には叔母なんだよね。私を産んでくれたママは物心が付いた時には既に亡くなっていて父親も亡くなる前に別れたみたいで身寄りが無かったんだ。そんな私を引き取ってくれたのが今のお母さんだったの。」


零「……すみません、無神経な事を訊いてしまって……。」


セピア「大丈夫だよ。確かに小学生の頃にその事を知った時はショックで辛かったけど、今となっては私は果報者だと思ってるよ。だって自分には生命いのちと名前をくれたママとここまで育ててくれたお母さん。素敵な母親が二人も居るんだもの。」


彼女にとって今の質問は過去のトラウマを思い出させるような内容で、安易に地雷を踏むような事を訊いた私は心の中で酷く後悔した。しかしセピアはそんな事をお構い無しと言わんばかりと二人の母の事を幼児が新しいおもちゃを買って貰って他の子に自慢するように無邪気に、そして幸せそうな満面の笑顔で語っていた。


その笑顔の裏でどれだけ涙を流し、その小さな背中でどれだけの重荷を背負っていたのだろうか、普通の生き方をしてきた自分には同情するには重すぎる過去だ。それでも今を笑って過ごしている星輝聖秘密ほしてるせぴあという少女は……


零「……強くて優しいんですね。」


セピア「そうかな?もし本当にそうならシロのお陰かも。」


零「シロが?」


セピア「うん。…………。」


セピアは周りを見渡し、誰も居ない事を確認すると、内緒話しをするように小さな声でシロについて話し始めた。


セピア「ここだけの話しだけどね、シロ、ああ見えて実は小学生の頃いじめられっ子だったんだよ?」


零「シロが?」


セピア「うん。シロは元々真面目で勉強もちゃんとしているような子だったんだけど、特別勉強が出来る訳でもなくて他に要領が良くて勉強が出来た子達に馬鹿にされてたの。運動も苦手で喧嘩が強い子達からもいじめられててね……。それでも困っている人が居たら手を差し伸べたり、他にいじめられてた子が居たら庇ってあげたりして優しかったの。」


零「正直、虐められてたの意外でしたが、誰かを助けたりしてるのは昔からだったんですね。」


セピア「うん。かくいうわたしも捨てられっ子って理由で虐められててシロが居た小学校に転校したばかりの頃は馴染めなくてひとりぼっちで友達も居なかったの。でもそんなわたしにもシロは寄り添ってくれて。時には泣きながらでもわたしを守ってくれた。例えどれだけ自分が苦しくても誰かの為に動けるシロにわたしは勇気付けられたの。わたしもシロみたいになりたいって。」


幼い頃、苦しんでいたセピアにとってはシロは頼りなくても自分を救ってくれたヒーローだったのだろう。現在の自分にも周りにも厳しいシロの過去には驚いたが、誰かを助けようとする姿は容易に想像できた。セピアはそんな彼を憧れているのだろう。心做しか、シロの事を話す彼女の顔はやや紅く見えた。


零(何と言いますか、セピアのシロに対する…… )


セピア「あっ、ごめんね、さっきから自分の事ばかり話して。」


零「それは良いんですが、前から薄々思ってたのですが、セピアって……いえ、やっぱり何でもありません。」


セピア「えっ何?何が気になってるの?ねぇ、教えてよ〜!」


セピアやシロの過去を聞きながら私達はシロの家へ向かうのだった。




・□・◆・□・◆・□・◆・



なんやかんやあって私達はシロの住んでるアパートに着き、部屋の中へ入れて貰った。


シロ「ケホッ、二人共わざわざごめんね、お見舞いに来て貰って。こんな格好で申し訳ない。」


セピア「気にしないで。わたし達も何も言わずに押しかけてるようなもんだし。」


寝巻き姿なのを気にしながらもシロは私達を招き入れた。彼の住んでいる六畳の部屋の中は掃除がきちんとされているのか、ほこり一つ見当たらないくらい綺麗で、部屋の物も整理整頓が行き届いている。…いや、正確にはミニマリストなのか、必要最低限の家具しか置かれていない状態で、散らかりようが無かった。そんな殺風景な部屋の隅に置かれたベッドにシロは座ると、ふとセピアの持ってるビニール袋に目を向け、怪訝けげんな表情を浮かべた。


シロ「あのセピア、気持ちは有難ありがたいけど、僕は君程大量に食べれないよ……。」


セピア「もー!!だからそれくらい分かってるってば!零ちゃんと同じ事言って!」


零「……ッ!!それ……作り置き用……みたい……ですよ。」


セピアのリアクションに思わず笑ってしまいそうになりつつも、私はシロに大量に買い込んだ食材について一言添えた。その様子をセピアは恥ずかしそうに睨んでいた。


シロ「作り置きか、……気持ちは嬉しいけど、元々は僕がちゃんと体調管理出来てないせいだし、そこまでされるとかえって悪いよ。風邪だって伝染したくないし。」


セピア「わたしがしたくてしてる事だから気にしないで。それより病院にはちゃんと行ったの?」


シロ「うん、一応。風邪って診察されたよ。数日は安静にって医者に言われたから帰宅後には学校の先生にも伝えといたよ。後でバイト先にも数日休むって連絡するつもり。埋め合わせとか考えておかないと……。」


セピア「あ……うん、そうだね。……それよりも気持ちの方は大丈夫?」


シロ「気持ち?…… ああ、今朝の事は気にしなくて良いよ。多分色々上手くいかなくて内心焦ってたのかも。ごめんね心配掛けて。……僕はまだ未熟だなぁ。はは……」


セピア「シロ…………ねぇ、白斗しろと、私はあなたを責める為にここへ来たんじゃないよ。」


シロ「……セピア?」


自傷的に話すシロに対して思う事があったのか、セピアはなぐさめるように優しい声で、けれど静かな怒りをぶつけるような表情でそう言うと。シロは驚いた様子を見せていた。


セピア「白斗が白斗なりに責任を感じているのは分かっているつもりだよ。でも、それを全部独りだけで背負おうとするのは納得出来ないよ。」


シロ「全部独りで背負うって、それは僕の責任」


零「シロ、まずはセピアの話しを全部聞きましょう。自分の意見を言うのはそれからで。」


シロ「……。」


シロがセピアに何か言いかけたが、私はそれを制止し、彼は口を閉じた。その後、セピアは一瞬だけありがとうと言うように私に微笑ほほえむと再びシロに向き合った。


セピア「……私はね、小学生の頃から白斗しろとに憧れてたの。例え自分が辛くても誰かの為に頑張れるあなたに。誰かを救う為に賢く、誰かを護る為に強くなる努力するあなたに私は憧れた。でも同じくらいに自己犠牲的なあなたが怖かった。他の人の分まで苦しみを背負って、その負担に押し潰されそうで。だから私はなりたかったの、白斗みたいに優しくで強い人間に。そうなれば誰かが独りだけで背負う必要がなくなると思って……」


シロ「セピア……」


セピア「ねぇ、白斗しろとは私や黒夢くろむが困ってたらいつも叱りながらも助けてくれるよね?それなのに逆に私達が白斗しろとを助けるのは駄目なの?私達じゃ足でまといなの?」


シロ「…僕はそんなつもりじゃ……。ただ、僕個人の事で君や周りに迷惑掛けたく無かったんだよ。」


セピア「そんな迷惑くらい掛けてよ!わたし達は友達でしょ!お互いに助け合って楽しいも苦しいも分け合うのが友達じゃないの!?……もし、友達と思ってくれてるんだったら……お節介の一つや二つさせてよ。……例え……自分の我儘わがままでも、わたしは……シロが独りで抱え込んでるの見たくない……。」


セピアは自分達に頼ろうとせず、自責じせきの言葉を並べるシロに対して怒っているが、同時に心配もしているのだろう。彼女にとって大切な存在を失いたくないという気持ちが涙となって眼から溢れている。


対してシロは少し戸惑った様子で近くに置いていたティッシュボックスを泣いているセピア渡すと、気持ちを整理し、言葉を選ぶように数秒無言で考えた後で口を開いた。


シロ「……君を泣かせといて言うのもだけど、僕の話しをして良いかなセピア?」


セピアは涙を拭き、黙ったまま頷いて承諾する。


シロ「……昨日から体調を崩し始めていたのには気付いてはいたんだ。でもバイト先に迷惑を掛けたくなくて多少は無理しようと思った。でも、結果的に集中を欠いてミスをした。挽回しようとしたけど、焦って冷静さを失ってまたミスを繰り返して黒夢やバイト先に迷惑を掛けた。」


シロは順を追うように昨日の出来事や心情を話す間うつむき、どこか悔しそうに布団の端を握り締めていた。


シロ「正直、自分が情けなかったし、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。でも、落ち込んでいられなかった。……いや、意地を張ってた。こんな所で休んでも責任から逃げていると自分で勝手に思ってた。早退した後も自分の小さなプライドでまた迷惑掛けたとも思ってた。でも……セピアに言われて気付いたよ。僕には頼って良い友達が居るって事を。泣くまで心配掛けてごめんね。そしてありがとう、ちゃんと叱ってくれて。」


シロにはまだ、申し訳ない気持ちもあるのだろう。それでもセピアの気持ちはちゃんと届いたのだろう、彼はぎこちないながらも笑顔でお礼を言った。


セピア「……もう、心配させるような無茶はもうしないって約束して……って言いたい所だと、言っても多分約束してくれないでしょ?誰かを助ける為に激流の川に飛び込んだり火事で燃えてる建物に入っていくような男だもんねシロは?」


シロ「う……」


泣いて腫れぼったくなった目で睨みながら咎めるセピアにシロは何も言い返せないようだ。自分には危険を顧みず人助けするなんてアニメのヒーローみたいな真似、普通の人間に簡単に出来る事ではないが、セピアの言い方的に実際にやったのだろう。


零(信用されてないんだかされてるんだか……)


セピア「……もう、ならせめて全部独りだけで解決しようとしないって約束して?」


シロ「……うん、約束する。黒夢くろむや皆にも頼るようにするよ。…その時はよろしくね。」


セピア「…うん!」


気持ちを切り替える為なのか、自分の両頬をパンパンと2回叩いた後、いつもの優しい微笑でセピアは元気よく返事した。


その後、セピアは台所を借りて何か料理をしている間、私は学校で貰ったプリント類や、今日の授業内容を記載したノートをコピーした物を渡した。


零「内容としてはこんな感じですね、とは言っても黒板に書かれたものを移しただけなんですが…」


シロ「ありがとう、問題無いよ。ここは予習してた所だから数学以外はなんとなく分かるよ。」


零「すみません、数学は授業に付いていくのがギリギリで…」


シロ「ああ、それは零じゃなくて米異野よねことの先生の教え方が悪いと思う。あの先生教え方が雑なうえに黒板消すのも早いからね。あと僕が間違いを指摘したら逆ギレしてくるし…」


零「真面目なシロでも先生への不満を言う事あるんですね。」


シロ「クロ程じゃないけど、僕もあの先生好きじゃないんだよね、やる気ない癖に生徒に対してやたら高圧的な態度取るし、あの先生の愚痴ぐちを言い合ってる時だけはクロと気が合うんだよな。まぁ、アイツの場合は半分自業自得だけど…」


零「あはは…」


シロ「…話し変わるんだけどさ、さっきはありがとう。」


零「さっきとは?」


何の事か分からず首をかしげげるとシロは申し訳なさそうに説明する。


シロ「セピアの話しを遮って僕が口出しをしようとしたのを止めてくれた事だよ。多分零が居なかったらセピアと口論になってたと思う。」


零「ああ、あの時ですか、気にしないで下さい。後の方私は殆ど黙ってましたし、仮に口論になったとしても最終的に分かり合えたと思いますよ。」


シロ「そうかな?」


零「はい、セピアから昔の二人の話しを聞きました。」


シロ「え!?聞いたの過去の話しを!?」


素っ頓狂な声を上げた彼の表情かおは驚いているというよりは隠し事がバレた時のような慌てた様子だ。シロ的にはあまり知られたくは無かったようだ。なのでいじめられてた事も聞くのは伏せつつ要約して話すことにした。


零「ええ、セピアは昔から困っている人が居たら助けるような優しい人だと言っていました。それに彼女はシロの事を信頼しているようでしたよ。」


それを聞いたシロは少し気恥しそうに頬を少し赤らめながらしかめっ面をした後で呟いた。


シロ「セピアが変に僕を買い被り過ぎてるだけだよ。」


零「私はそう思いませんけどね。」


シロ「……セピアの過去も聞いたんだよね?」


零「…はい。」


シロは暫く沈黙した後、過去の話しを始めた。


シロ「……聞いたと思うけど、僕は落ちこぼれで周りから虐められていたんだ。そんな頃にセピアが転校して来たんけど、今の彼女からじゃ考え考えられないくらいに生気が無い目をして、僕は幼い頃から自分以上に苦しんで生きてきた彼女が気になって救いたかった。」


零「…それでどうしたんですか?」


シロ「勇気出して救おうとした。でも僕じゃ何も出来なかった。だから僕は出来る努力はしたいと思った。強くなれば誰かを守れると思って身体を鍛えたり合気道の稽古を受けたりした。知識があれば誰かを救えると思って勉強した。…それでも正直、僕の心の中でまだ自信が持てて無いんだ。…零、僕はちゃんとなりたい自分になれてると思う?」


真剣かつ、どこか不安げな表情でシロは私を真っ直ぐ見ながら問いかける。私達との会話に口を挟みはしないものの聞き耳を立ててたのか、台所の方からセピアの視線も時々感じる。その中で私は少しだけ考えた後で答えた。


零「貴方は自分にも厳しい性格だから納得していないのでしょう。だからここで私が肯定したとこであなたが納得しなければこの問いに意味はありません。」


シロ「う…」


零「ですが敢えて返答するなら、あなた自身が変わっていないと思っていようと、あなたに会えた事で変われた人なら居ますよ。ですよね、セピア?」


先程まで作っていた卵粥たまごがゆを器に盛るセピアに声を掛けると、彼女は「うん」と返事をした後、料理と湯冷ましを乗せたトレーを運び、会話に混ざるようにシロの隣に腰を下ろした。


セピア「シロはさっき何も出来なかったって言ってたけど、わたしはシロにだいぶ救われたんだよ。シロに出会って無かったら今みたいに笑って過ごせてないと思う。だから安心して、もしシロが自分に自信持てなかったらわたしが代わりにめ殺してあげるからね!」


シロ「…なんだよそれ。セピアは本当に甘やかすの好きだよね。」


意気込むセピアの言葉に思わずシロが苦笑する。確かにセピアは人を甘やかすのが好きなのだろうが、自分に厳し過ぎるシロにはいやしになるのかもしれない。


セピア「あっでも、今回の件は正直わたしは怒っていたからね?シロは自分を責めすぎる所もあるけど、時々人の気持ちに鈍感過ぎて誰かを怒らせたり傷付ける事あるからね?もし、そういう事したら容赦しないからね?」


シロ「…はい、善処ぜんしょします。」


…訂正、シロはセピアに甘やかされてるだけではなく、それ以上に尻に敷かれているようだ。彼女に説教され、小さくなるシロを見ながら私はそう思った。


セピア「さてと、せっかく卵粥たまごがゆを作った訳だし、温かい内に食べて貰わないとね。」


そう言いながらさじ卵粥たまごがゆすくい、小さな口で息を吹きかけ、冷ますセピアを見ながらシロはキョトンとしている。


シロ「あのー…セピアさん?一体何しようとしているんですかね?」


セピア「シロ、はいあーん。」


シロ「!?ちょ…待ってセピア!僕はちゃんと自分で食べれるし、それは普通恋…浸しい人同士でやる事じゃ…」


冷ました卵粥たまごかゆをシロに向けながら自身の手で食べさせようとするセピアに彼は普段見せないような赤面で慌てた様子で必死に拒んでいる。その際に私はクロに頼まれていた事を思い出し、笑いを堪えながらスマホを取り出した。


セピア「もう、そんなに恥ずかしがらなくて言いから!ほら、あーん!」


シロ「いや、恥ずかしいよ!?零も何か言って…何でこっちにスマホを向けてんの!?」


零「あ、私にはお構いなく。是非続けて下さい。」


シロ「お構いなくじゃないんだよ!何ってるんだよ!」


セピア「もう騒がないで!近所迷惑でしょ!」


結局その後、シロが折れる形で恥ずかしがりながらもセピアに食べさせて貰う事になり、私はその様子をったのだった。



・□・◆・□・◆・□・◆・



零「二人ともおはようございます。シロ体調は如何いかがですか?」


セピア「零ちゃんおはよー。」


シロ「おはよう零。この間はありがとう。」


今日、登校する最中にシロに出くわした。挨拶を交わす際に顔色をうかがうが、もう体調は良くなったようだ。しばらく三人で歩くとクロにも出くわした。


クロ「おーす…ってシロ、やっと風邪治ったのか?」


シロ「クロ…僕が居ない間、ありがとう。この埋め合わせは必ずするよ。」


クロ「おいおい、他に俺に言う事あるんじゃねーか?例えば『クロ様この感謝は一緒忘れません』とか『お礼に貴方あなたの分の宿題や掃除当番変わりましょうか』とかよー。」


シロ「…お前なぁ。付け上がってる所悪いけど、宿題は自分でやらないと意味ないだろ。それに掃除当番だってこの間サボったばかりだろ。」


クロ「んだよ!必ず埋め合わせするって言ったじゃねーかよ!」


シロ「それはバイトの話し!それとこれとは話しが別!」


零「…はぁ、またやってますね…。」


喧嘩する二人を呆れながら眺めていると、セピアが私にこっそり耳打ちをして来た。


セピア「大丈夫だよ。ああ見えてシロに気負わせないようにクロなりに気を遣ってるんだよ。まぁ、単に喧嘩する相手が居なくて退屈してただけかもだけど。」


零「本当にそうなんですかね…。」


クロ「おっと、そうだ。そういやお前風邪引いてる間セピアちゃんに甘えまくってたみたいだなぁ?」


思い出したように悪い笑みを浮かべながらスマホでシロに動画を見せた。私もその動画を覗くように見ると、その内容はこの前、シロの看病に行った際にセピアがシロに卵粥を食べさせている様子を私が盗撮したものだった。動画を観終わると彼がゆっくりと此方を向き、殺気と怒気を含んだ視線を向けている。


シロ「零…これは一体どういう事だ?」


零「あー…そういえば早く登校して用事を済まさないと行けないんですよね…。と言う事でお先に失礼します!」


クロ「じゃ俺はこの事をクラス中に言いふらすとするかな。あばよ!」


シロ「待て二人共!今すぐ動画を消せ!」


セピア「あはは…朝から元気だなぁ。…みんな待ってー!」


こうして怒り狂うシロからクロと一緒に逃げ、今日も騒がしい日常が始まるのだった。

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とある高校生達の話 狐狸森 葉 @tibesuna

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