48th Chart:幸運



 怪訝そうな顔を浮かべる永雫を一瞥したヴェディゲンは、気ヲ付ケの姿勢をとり腰を折り曲げ、何のためらいもなく頭を下げた。

 自分の親ほども年の離れた異国の男に突然頭を下げられた永雫は、訳が分からず目を白黒させ、間抜けな表情を作ってしまう。対して、目の前の少女を混乱へと突き落とした男は、そんなことも露知らずある種の厳かさをもって口を開いた。


「この海に、『U-109』と言う素晴らしい艦を生み出してくれた事に礼を言う。貴女が海に流した【落とし子】のおかげで《帝国ライヒ》の潜水艦技術は百年進んだ。この艦を雛型とした艦が次々就役すれば、悪戯に命を散らす若者も減ることだろう」

「ッ⁉」

「全ての《帝国》の潜水艦乗りの代表として、礼を言う。あいにくアイアンクロスは送れないが、偉大なる沈黙の母に我らは称賛を惜しまない」


 一息に言い切り顔を上げたヴェディゲンの目は真剣そのものであり、これが唯の揶揄いやおべっかの類でない事を直観で理解する。彼は、否、彼らは本気で。この艦と、この艦を造り上げた人物を称えているのだ。

 予期していなかった評価に、ごまかすべき言葉を吐かなければならない喉は凍り付き、意味のない言葉を形成することができず。どもったような音の欠片が漏れてくるだけ。

 これでは、自白しているのと何ら変わらないではないかと、何とか正常に稼働している理性の一部が脳を叱咤し、ようやく落ち着きを取り戻す。

 しかし時すでに遅く、反対側の波除にもたれ掛かっている壮年の男の顔には、既に見慣れたものになりつつある不敵な笑みが浮かんでいた。


「もし、貴様が当事者に会うことがあれば、そう伝えてほしい。少なくとも【海狼】は沈黙の母に協力を惜しむことは無いだろう」

「………会ったらな。もし、何かの間違いで会うことができれば、伝えておいてやる」


最早悪あがきのような自分の台詞に乗せられたかのように、「よろしく頼む」とは言うものの、わざとらしいシタリ顔を浮かべている以上茶番以外の何物でもない。まさか、本当に単に礼を言うためだけに人払いをしたのだろうか?


「さて、話は変わるが。一造船技師として、貴様に質問したい。この『U-109』、貴様ならどう発展させる?」


 ああ、なるほど。と内心で溜息を吐き出す。

 いい気にさせて置いて、有力な情報を引き出しやすくする。古典的な交渉の手法だ。質が悪いのは、こちらを持ちあげる件は嘘ではなく、完全に本心だと言う事。これでは、にべもなく突っぱねることに抵抗を感じてしまう。

 尤も、こう聞かれて『見当もつきません』などと答えるのは自分のプライドが許さないが。

 まあいい、どうせ海神や海神帝との戦いに高性能な潜水艦は役に立つ。適当な餌をバラまいて、技術大国たる《帝国》の伸びしろに期待させてもらおう。


「そうだな。まず初歩的な点だと、この艦はそもそも沿岸域での戦闘を目的とした潜水艦の様に見える。小型軽量と言うのは量産に向くが、だからこそ戦闘以外の設備にしわ寄せが行く。遠洋での作戦能力の欠如がその最たるものだろう」

「確かに、いい艦ではあるが長期航海はまだまだ不安と隣り合わせだな」

「それに、この艦は単殻式の船体の両側にバラストタンクを取り付けた構造をしている。構造は複雑にはなるが、爆雷防御と水中抵抗の観点から、艦体をもう1つの外殻で完全に覆って複殻式にするべきだ。内殻と外殻の間にバラストタンクと調整用タンクの他に燃料を搭載すれば航続距離も伸びる」


 ヴェディゲンは腕組みをしつつ、スラスラと目の前の少女から出てくる改良案に耳を傾ける。先ほど語ったように元々確信はあったが、やはりこの眼鏡の少女が『U-109』という100年先の技術で構築されたかのような潜水艦や、《帝国》に流れ着き上層部で議論されている”いくつか”の艦の生みの親とみて間違いないだろう。

 もし《皇国》と戦争中であるのならば。このまま拉致するか、それとも殺してしまうべき重要人物であることは間違いなかった。


「魚雷については何かあるか?」

「空気式は航跡が目立ち、電池式は鈍足だ。いずれは、非大気依存推進に変えていくべきだろうが、当分は目標に対して使い分けていくほかあるまい。それよりも音響誘導装置でも取り付けて、誘導魚雷に発展させるのがいい。それが難しいのであれば、機械仕掛けの自動変針装置でも取り付けるのも良いだろう。海神に出来て《帝国》に出来ぬ道理はあるまい?」

「やはり、昼間の眷雷はそれか。海神ヤツラも厄介な物を作り出す」


 2人の脳裏に浮かぶのは、昼間に遭遇した海神達が放った槍の軌跡だ。

 あの時、敵海神から離脱する『綾風』に対し側面と後方から同時に襲い掛かった8本の眷雷。側面の眷雷は前方の海神が投射したものだと容易に判別がつくが、『綾風』の後方へと襲い掛かった眷雷は一体どこから来たものなのか。


 その答えが、永雫が口にした自動変針機能だ。


 あの時、後続していた海神が放った眷雷は一定距離を直進したのち、事前に設定された距離で発射母艦と同行する針路へと変身していた。また、この眷雷は速力を強化されていたものらしく、錨を投下して無理やり変針し速度が落ちていた『綾風』の後背へと食らいつくことができたのだった。

 数回の変針を可能とする水雷兵器への初歩的なプログラム誘導技術。海神は既にそれを会得していると考えるべきだった。


「海神は基本的に群れを作って行動するから、それを利用してやるんだ。一定距離を進んだら180度変針するような機構を魚雷の制御装置へと組み込んでおく。うまく使えば、発射された魚雷は燃料が尽きる瞬間まで敵艦隊の中を往復するだろう。つまり、初撃を外しても魚雷は勝手に第2撃へと移り命中の確率は上がる」


「まあ、貴様には必要なさそうだが」と挑発的な笑みを向ければ、「これでも新しい物好きのつもりだ」と紫煙が舞った。


「後は…そうだな。可潜艦から潜水艦になるために、”高い鼻”でもつけるのが良いだろう」

「鼻か。そこはもったいぶるんだな」

「無料で話してやれるのはこんなところだ。後は、《帝国》《貴様ら》の工夫次第と言う事さ」

「フン、まあそう言うのであれば深追いはせん。実に興味深い意見だった、大尉。なんなら《帝国》へ鞍替えする気はないか?それなりにツテはあると自負はしているが」


 露骨な引き抜きの提案に、少女が返したのは自嘲するような苦笑いだ。


「残念だが、少々遅かったな。少し前の私ならば靡いていたかもしれんが、間が悪かったと諦めてくれ」


 帰ってきたのは拒絶の言葉。思い通りの艦が作れさえすれば、後はどうでもいいという雰囲気を隔そうともしない少女にしては違和感のある答えだ。思い当たる節はあるだろうかと記憶を探ろうとし、酷く何でもない、露骨とすら思える理屈が頭をもたげた。


「ああ、なるほど。アリセか、ならば奴ごと引き抜く算段を付けねばならんか」

「っっっ!?い、いやなんでそうなる!?まるで意味が解らんぞ!?」

「クックックック。青いな、いや、命短し恋せよ乙女と言うべきか」


 意地の悪い笑みとともに放たれた言葉の雷撃は、先ほどまでの特異とすら感じられる怜悧さを帯びていた、天才技術者の殻を轟沈させる。後に残ったのは熱湯に放り投げられた蛸の様になりつつ、壮年の男を睨みつける17の小娘だった。


「なっ!…あっ!……」

「どう取り繕っても良いが、そんな顔をしている以上無駄な足掻きだとは思うがね」


 喉の奥まで出かかった反論をぐっと飲みこむ。ここで感情的になってぶちまけたところで疲れるだけだというのは直観的に理解できた。


「くっ………この陰湿狼……死ね!轟沈しろ!てかトイレ逆流して撃沈されろ!」


 何とか口に出来た幼稚にもほどがある罵声をどこ吹く顔で受け止められてしまう前に、半ば蹴り空ける様にしてハッチを開き艦内へ続くはしごへと足を掛けた。


「戦略的撤退には少々遅かったな」

「五月蠅い黙れ喧しい!邪魔したな、艦長。ウチのバカを回収したら帰らせてもらう!精々対潜ロケットぶち込まれない様におとなしくついてこい!」

「ご忠告痛みいるよ、沈黙の母殿」


 ガゴン、と盛大な音を立ててハッチが閉じられ、再び艦橋に静寂が戻る。少し揶揄いすぎたか、と独り言ちるヴェディゲンではあったが、先ほどのやり取りに何処か懐かしさを覚えていた。

 自分が彼女らぐらいの年はどうだったか、と回想しそうになりパイプを意図的に深く吸い込むことで、おぼろげな像を結びつつあった過去を砕く。



 過去は、過去。現在は現在だ。そんな思い出に浸る暇があるのなら、今と明日に投資すべきだろう。




 発令所に滑り降り、こちらを興味津々と言った雰囲気で見やる当直のクルーを一睨みで黙らせつつ、頭を下げて艦前部へと通じるハッチをくぐる。

 艦長室と通信室に挟まれた廊下に出ると、数m前の前部魚雷発射管室へ通じるハッチから、見慣れた紺色の軍服の背中が見えた。奴が今どんな話をしているのかは関係ない。今は、一刻も早くこの性悪な狼の懐から『綾風』へと移りたかった。

 だから、その時までは有瀬の首根っこを引っ掴んで引きずってでもこの艦を最速で後にするつもりだった。


「大尉は、どうして軍人になったのですか?」

「そうだな…やはり、フネが好きだからだろう」


 そんなやり取りが聞こえてくるまでは。







「それはまた…何と言いますか…」

「国防意識に燃えて、とか、皇主陛下の宸襟を安んじ奉るために、とか、親の仇で、とか言った方が良かったか?相手が文屋ならそういうセリフを吐くべきなんだろうが、アンタらに格好つけたところで寒いだけだよ」


 単純極まりない理由に上級水兵長が口ごもるったのと同時に、空になったマグカップを弄ぶ皇国軍人はどこか揶揄うような言葉を零す。


「戦闘艦の本質は他者を殲滅する兵器ではあるが、その時代を生きた設計者の願いの結晶だ。割り振られた役割に対し、必要な機能を突き詰め、不必要な機能を切り捨て、想定外の事態すらも飲み込んで形を成す。闘争たたかい衝突たたかい相克たたかいの果てに辿り着いた、血と油で描かれた戦闘詳報の最終頁。だからこそ、そこに残っているのは敵を殺すという思考に先鋭化され、物質化した意志と言える」


 朗々と語られる有瀬の内面に、誰もが口を挟む発想を失っていた。今まで自分たちが何気なく過ごしてきていた鋼鉄の狼、ヴェディゲン艦長の手によって鮮やかに敵を葬り続けてきた『U-109』も、極論してしまえば彼の言う【物質化した殲滅と言う意志】の一つだと再認識してしまったからだった。


「逆に言えば、実体と化すほどに洗練された純粋な設計者の意志だ。個人的な好みとして、意志の強い人物には好感が持てるんだ。たとえどんな逆境に落ちようとも、必要だと信じれるもの以外の全てを投げ出したとしても。それでも我を通す人間に憧れるし、僕自身もそうありたいと思っている。艦が好きだというのは、そんな考えの表れだろう」


 思い浮かぶのは、今頃夜の海に目を凝らし、耳を澄ませている自分の艦の姿。自分自身が関わったからと言う点も大いにあるが、やはりあの艦の美しさは群を抜いている。


「『綾風』の艦長になれたのは、これまでの19年の人生で二番目に幸運な出来事だ。今の《皇国》海軍、いや全世界においてあれ程美しい艦はないさ」

「とすると1番の幸運は?」

「決まってるだろう?『綾風』を生み出した人物と知己に成れたことだ。おそらく、一生分の幸運を使い果たしてしまってるだろう。けど、それだけの価値はあると断言できる」


 この場に集った人間の中に、『綾風』が永雫の手によって建造されたものであると確信している人物がいなかったのは、小さな幸運と言えるだろう。もし、この場にヴェディゲンか、リュートあたりが居ればどうなったか想像に難くはない。

 現実ではそうはならず、兵員室の男たちが「良い出会いがあったのだ」というごく普通の解釈をするにとどまったのは、彼にとっても、全員から死角になる位置で凍結フリーズした彼女にとっても幸運に違いなかった。


「じゃあ、有瀬大尉から見て『U-109』はどうですかね?」

「この艦か?無論、最高峰だとも。艦も、艦長も、乗員も。《皇国》でもそれなりに海軍軍人をやっていて、いろいろな艦にも乗ったが。この艦は格別だね。僕が知る中で、士気、練度、性能どれもが最優秀の潜水艦だ。戦場では絶対に敵として会いたく無い」


 屈託なく浮かべられた笑顔に、兵員室の若者たちもつられて破顔する。自分と、自分の艦に惜しみない賛辞を贈られて悪い気になる船乗りは存在しないだろう。


「我々も、大尉と『アヤカゼ』に追い掛け回されたくはないですね。ケツの毛まで毟られそうだ」

「同感だ。尤も、『綾風』に魚雷を受けるようなことが会ったら。艦と運命を共にする以前に、副長に息の根を止められるだろうが」


「お宅の艦は恐妻家ですな」とミュラーが笑い、「綺麗なバラには棘があるものだろう?触れば痛い目を見るのは勿論、自分から刺しに来るのは珠に瑕だが」と笑えば、つられて他の乗員も笑う。もっとも、何かに気が付いた様な魚雷発射管周辺の乗員は、爆笑と言うよりはこの後の惨状展開を頃街にする、愉悦全開のニヤニヤ笑いだったが。




「ほう?誰が自分から刺しに行く毒棘だって?」




 背後から聞こえた底冷えのする声に、ギギギと油をさし忘れた潜望鏡の様に有瀬の首が回った。背後のハッチをくぐり、腕組みをして佇んでいるのは件の副長恐妻殿。冷たい印象を与える美貌には、華やかな笑みが浮かんでいる。レンズの向こうの瑠璃に輝きはまったく無く、額には青筋が浮かんでいたが。



「……………………どこから聞いてた?」

「お宅の艦は恐妻家、の件からかな?」

「ライヒスジョークであります!大尉殿!」


 後に、カール兵長は語る。その時のミュラー上級兵曹長の敬礼は、額縁に入れて保存しておきたいほど模範的な挙手敬礼であったと。


「まあ、貴様らが私の事をどう思おうが勝手だからな。今回は水に流そう」

「はっ!ありがたき幸せであります大尉殿!」

「見たところ、宴もたけなわと言ったところか。済まんが、私はこれから艦長コイツと今後の航海について相談せねばならんことがある…構わんか?」


 ちらり、とミュラーの双眸がいつの間にか首根っこを掴まれた有瀬自分へ向いた。

 なるほど、これが彼の有名な『養豚場の豚を見るような目』か。『かわいそうだけど、明日にはヴルストに成っちゃうのね』と言う憐憫の欠片もない視線か。せめて永雫とかミラとか、見目麗しい美人にされるのであれば一定の需要はあるだろうが、むさくるしいオッサンにされるのは死にたくなるだけだ。


「………夜道にはくれぐれもご注意を!」

「忠告痛みいる。よし、行くぞ有瀬。貴様にはこれを機に話したいことがたっっっぷりあるからな」


 身の危険を感じた有瀬は後ろにかかった手をやんわりと振り払い、腰を上げてハッチの方へと少し後退る。位置関係的には、ハッチを挟んで自分と永雫が向かい合っている状態。不意を突けば、万に一つぐらいの確率で先手を取れる…かもしれない。


「話は良いが、関節をゴキゴキ鳴らす行為の説明を求める」

「なに、ちょっとした準備運動だ」


 どこぞの劇場版になると漢を見せる小学五年生のガキ大将宜しく、両手の関節を鳴らす副長。何をどう間違えても、華奢な少女がやっていい動作と表情ではない。


「さては《皇国》語の話し合いでは無いな?」

「《皇国》海軍式の古式ゆかしい方法だろうが。忘れているのならば、私が直々に再教育をしてやろう」


 ピンと人差し指を立てる姿は、有能な家庭教師感あふれる仕草だったが、正直なところ次に紡がれる物騒な言葉を容易に想像できるため。恐怖しか感じない。


「いいか?有瀬。この世における最高究極至高の言語ラングウェッジは…だ」


 一応断っておくが、皇国海軍において体罰は御法度だ。少なくとも表向きは。

 とにかく、そんな建前はどうでもいい。問題は何とかここを切り抜ける方法だが…昼間の海戦に比べ、ひどく古典的どころか原始的ともいえる方法しか思い浮かばない自分の脳みそに泣きたくなった。

 こうなったら、毒喰らわば皿まで、皿まで喰ったらコックに蹴りを入れて食堂に艦砲射撃だ。


「ならもう一つ教えてくれ………その言語で愛してるってどういえばいいんだ?」


「……はぁっ!?」と唐突に過ぎる有瀬の問いを理解した永雫が素っ頓狂な声を上げた瞬間、対面する艦長の足は鉄製の床を思いきり蹴っていた。陽動作戦とすらも言えない稚拙な作戦だったが、選んだ言葉の内容によってどういうわけか成功してしまう。


「明日への希望ッッッッッ!」

「って、待て貴様ァァァァァァァァッ!」


 悲鳴と怒声とともにハッチの向こうへと消えていった二人。

 一瞬、兵員室に静寂が訪れるが、誰かが噴出したかと思えば一瞬で爆笑の渦に包まれた。何とも青いやり取りだったが、愉快極まりないひと時であったことに異論をはさむ者はいなかった。






 約10分後、迎えの内火艇を甲板で待つ2人と。それを艦橋から見下ろすヴェディゲンの姿があった。波除にもたれパイプを燻らせながら、ニヤニヤとした顔を係留用のロープで簀巻きにされ、機銃座の手すりから逆さに釣られている青年艦長へと向ける。


「おい、アリセ。ミノムシのモノマネならお前の艦のマストでやれ」

「それは横の副長殿に言ってもらえませんかねぇ。と言うか、変な揺れ方して気持ち悪いんだが……」


 懇願するような柘榴石が横を見るが、腕組みをしてそっぽを向いた副長のわき腹が見えるだけだった。当の副長は、ツンとした雰囲気を崩さぬまま自分が物理的につるし上げた艦長を見下ろす。


「《皇国》魂で何とかしろ。得意だろ、そういうの」

「根拠のない精神論奨励は即刻中止せよ!あ、すまん。謝るから。謝るから揺らすな、揺ーらーすーなー!」


 嗜虐的な冷笑を浮かべつつ、吊り下げた有瀬を指で突いて揺らす少女。既に怒りは冷めていたが、先ほどの爆弾発言に対する言語化不能な感情が、この制裁を止めることを良しとしなかった。


 結局迎えの内火艇が『U-109』に横付けし、操縦してきたハクの生暖かい視線を受けるまで、有瀬はブランコ宜しく揺らされ続けたのだった。


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