缶ころころ
安良巻祐介
びょうびょうと秋風の吹く中、散歩していると、風の伴奏のように、からりかろりという音が響く。
飲み捨てられたらしい空き缶が、道端の吹き溜まりに幾つも転がって、そんな音を立てているらしい。
マナーの悪い奴が多いものだと思いつつも、拾ってやるほどの善心も持ち合わせず、そのままそばを行きすぎようとしたところ、かろかろという音がぴたりと止まる。
おや、と思って吹き溜まりを見ると、空き缶の群れが、いっせいに頭を立てて起き上がった。
それぞれの缶に、痩せ蛙のような足が二本ずつ生えて、円筒の体を支えている。
化けたのだ、と思うのと同時に、肩の
「付喪神にすら成り切れぬ、微塵の品々の霊だ」
いちいち出て来るな、とその迷惑な居候を手で抑えつけ、缶を見やる。
缶たちはおれの目の前で、行儀よく隊列を作って、そのままぞろぞろと行進し始めた。
「あんなものでも、鬼か」
「蟲(むし)のようなものだ。五分の魂も持たないがな」
「放っておいても害はあるまい」
と言う。
「しかし、鬼だろ。何かしらの妄念で動いているんだろう」
「あれを見ろ」
鸚鵡の言葉のまま見ていると、行列を作った缶たちは、道の先にある、自販機のところまでたどり着くや、隣の
からから、かろ、かろん、と、投身の音が、人気のない道にひときわ大きく響く。
そうして、全ての缶が籠に収まると、その後は、もうすっかり静かになってしまった。
「何て行儀のいい奴らだ」
自ら塵籠へと人知れず身を投じてゆく缶たちの健気を想い、おれが感動しているところへ、鸚鵡が水を差した。
「別に、捨てた持ち主の罪を贖っているわけではない」
どういうことだ、と聞き返すと、
「あれらの妄念は、転生思想だ。あの籠の中へと入れば、収集され、新しく生まれ変われることを、あんなものですら知っている」
と、鸚鵡が解説する。
「鬼も輪廻を信じるのか」
「鬼だから、信じるのさ」
何か少し思うところのありそうな口調で、鸚鵡は呟く。
そう言えば、こいつも元々は、輪廻の輪へ還ろうと足掻いていたのだ。何故か迷惑にも、俺の肩へと癒着して、人面瘡のような有様になってしまったが。
「一部の例外はあれど、流転の円のかたちは何処にでも刻まれている」
一部の例外、に力がこもっている。案の定、自身の身の上と、おれへの皮肉を込めたらしい。
「蟲の観察程度で、良い勉強になったろう」
減らず口を叩くそれを、もう一度抑えつけながら、俺は、すっかりと冷え込んだ体で、また歩き出した。
空き缶の伴奏も絶えて、すっかり物寂しい、秋の黄昏道であった。
缶ころころ 安良巻祐介 @aramaki88
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