第14話 エピローグ

 障害者枠で雇用していただいた会社は数か月続いている。

仕事は徐々に増え、でも暇な時間もある。暇なのは辛いが、新しい仕事を頼まれるたびに仕事がある喜びのみならず仕事をこなせるかどうかという恐怖が胸を締め付ける。

一喜一憂しながら、社員さんや障害者福祉サービスのスタッフさんや家族にも助けられ毎日が過ぎていく。不安は拭いきれなくても幸せなのかもしれない。


自分という存在、生命についてや、親に対してなど、蟠りはある。

仕事が毎日続くたびにこの難解な問題をどのように緩和していこうかと思いを巡らせている。自分の過ちや欠点を振り返るのはとても恐い。今までその瞬間瞬間をこなす為に生きて周りのことを考えたり気遣ったりできなかった。不運もあったとしても自分に非があった。

今日もこんな悩みを考えては諦め、考えては心が凍った。受け止めて反省して改善していこうと決めて書き始めた反省日記も、身の辛さと忙しさで書けない日も多かった。


 自分が嫌いで…、

でもどうにか生かそうと今日も音楽を再生していた。音楽はボリューム小さめにして距離をおいて聴いていたけど、聴こえてくるメロディは自分の良い所を救ってそして欠点へと向き合わせる慰めを与えてくれた。


 米津玄師さんの音楽が流れていた。

やわらかなメロディの最後に『…山椒魚だ』と結ぶ節が居心地よくて、爽やかな青年の米津玄師さんを想像した。

いつもは聴き流すだけだったけど、今日は歌詞はどんななんだろうって改めて歌詞カード をみた。


ぐっと涙がこみあげてきた。

お口に酸味の乳酸菌キャンディをほうりこんでバリバリ噛みながら抑えきれないような愛しさが沸いた。


『あなたの抱える憂が

その身に浸る苦痛が

雨にしな垂れては

流れ落ちますように

・・・

一つも報せも残さずに

去り退いたあなたに

祈りを送りながら…』


優しい詞に心がじわっとする。

きっと深淵な…、米津玄師さんが眺めて作り上げた世界があるのだろう。

もっと言葉を拾い上げてわたしの心に吸わせて栄養にしたい。

そう思っても、わたしの、与えられたはずの何もかもを、ぐちゃぐちゃにしてきてしまった、わたしの、人生が、わたしを鬱にし大きな壁となって目の前を塞ぐ。

だけど、そんな思慮や憂慮や理性よりも…今は…、

米津玄師さんの優しい髪の毛一本一本に触れたい…。


叶わない理想と恋の数だけ飴を粉々にしていく。

わたしは冷酷だろうか、狂っているのだろうか…。


そうだとしても、好きだと思うのはきっと自然なことだ。


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天地天命、人として生く 半日の夢 夏の陽炎 @midukikaede

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