鉄塔と咎女

白湊ユキ

本編


 ぎ——、ぎ——、ちゃぽん。

 櫂に弾かれた水滴が肌を刺す。


 温もりを何処かに置き忘れたような鉄の格子の中に、私は居る。

 それは、私が漕ぐ舟から高く伸びて、群青の空を指す。


 塔は——、

 その朱を知っている。

 その明けを待っている。


 私にも、それは訪れるのだろうか?


 惰性に漂う水面の上。私は身を屈め、舟底で仰向けになった男の氷のような唇にそっと口づける。忘れ得ぬ鮮烈な朱が閉じた瞼の裏にいつまでもこびりついていた。

 仄かに香る甘さを胸に閉じ込め、私はまた鉄塔を漕ぎ出す。




   ***終***

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鉄塔と咎女 白湊ユキ @yuki_1117

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