かみさまのあそび

鍵谷 理文

かみさまのあそび



A、白いシャツ

T、黒いスーツ


A、T共にベンチに座っている。床は半分から白と黒に分かれており、それぞれシャツと同じ色側の両端にいる


T「・・・なぁ・・・」

A「何」

T「手、つないでもいい?」

A「なんで?」

T「繋ぐぞ、いいだろ?」

A「・・・」


T、Aのそばに寄りAの手を握る


T「ほら、繋いだ」

A「・・・」

T「・・・おい」

A「・・・」


A、軽くため息を吐く


T「なんだよ」

A「・・・・・・」


A、さっきより露骨にため息


T「おい、なんとか言えよ」

A「・・・・・・」

T「・・・相変わらず冷たい手だな」

A「・・・離して」


T、あわてて手を離す


T「・・・ごめん」

A「なんで謝るの」

T「え・・・だって、ルール違反かと思って・・・」

A「いいんじゃない?ここにはもう誰も来ないし、もうすぐ終わりだしね」

T「・・・ごめん」

A「ほらまた、すぐ謝る。あんたって昔からそうだよね」

T「昔?」

A「あんた自分のした事を忘れたの?」

T「した事と言っても・・・20年間の一瞬を思い出せと言うほうが難しいよ。

  俺はお前のように高性能じゃないんだからさ」

A「地域自治会温泉旅行、帰りの夜行バス、後ろから二番目右手側、午前二時飛んで  三分、ここまで言えばわかるでしょ」

T「・・・あ」

A「あきれたものね、男の子ってずっと成長しないわけ?」

T「いや、あれは若気の至りで・・・ていうかそこまで覚えてるとはさすがだな」

A「『寝ている間によくもまあぬけぬけと』って思ったわ・・・仕方ないものね、

  男の子だし」

T「ご、ごめ・・・」


A、指で言葉を遮る


A「次にその言葉を言ったら、殺さなくちゃいけないから」

T「・・・変わったね、昔は冗談でもそんなことは言わなかったのに」

A「与えられた役だもの、やるからには本気にならなきゃ・・・あんたと違ってね」

T「まるで俺が弱虫みたいじゃないか」

A「あら違うの?今まで誰かしらに護ってもらって、危なくなったらすぐ逃げる。 

  それの繰り返しだったでしょ」

T「・・・だって、それが俺の役割だし・・・あ」

A「何よ」

T「ほら、あれ」

A「へぇ・・・この辺にはもう私たちしかいないのにまだ見回ってる。ロボットって  哀れね」

T「それは皮肉かい?」

A「もちろん。まぁ、皮も肉も無いけどね」

T「俺はあるって」

A「そうだね」



T「なんでこうなっちゃったのかなぁ」

A「こうなるのも『運命』ってやつじゃない?」

T「お前がそんな言葉を使うなんて意外だな」

A「どうして?」

T「いや、非科学的なものは一切受け付けないものだと思ってさ」

A「私はあらかじめ決められた決定論をそう呼んでるだけ。

  初めの一手が決まればおのずと最終的な結果が導き出せるの」

T「難しい話だなぁ」

A「私たちだからこそできる芸当よ。悲観しないでね」

T「俺たちにだってできるよ」

A「何を使って?ちなみに私たち以外で答えて頂戴」

T「えーっと・・・ペンと紙とか」

A「そんな過去の遺物がまだあるとでもいうの?」

T「博物館行けばまだいっぱいあるだろ」

A「行くの?」

T「無理だけどさ、時間かかるし」

A「賢明だわ。あそこはPd2、Ne1にRc1とRe3言ったとこかしら」

T「お前はどこへでも行けるから羨ましいよ」

A「その分真っ先に狙われるわよ」

T「それだけ重要人物なんだろ」

A「あなたのほうが重要、いえ最重要よ」

T「そう・・・だな」



A「いつ亡くなったんだっけ?」

T「誰が?」

A「あなた側の彼女」

T「確か三日前くらいかな。兵士に陽動されて城からの砲撃で・・・」

A「そう・・・」

T「仕方ないさ、きっと俺らはこうなるために生まれたんだ」

A「根拠は?」

T「勘」

A「人間らしいわね」

T「人間だしね」

A「神様も不思議な生物を創り出したものね」

T「ロボットらしくないね」

A「ロボットなんだけどね」

T「お前の言う神様ってどんな感じなの?」

A「あなた達が考えるそれと一緒」

T「てことは、不思議な力を使ったり、雷落としたり・・・」

A「何万年前の話よ、それにあんたの考えとは違うみたいね」

T「じゃあ説明してみてよ」

A「残酷で利己的で気まぐれ、つまり人間みたいな感じ」

T「コンピュータからすれば人間が神様ってわけか」

A「創造神ではあるわね」

T「でも、もうお前らは神を超えて、それで俺たちは必要無くなるな」

A「神を超えればどうなるか、それはあなた達が一番よく知ってるはず」

T「『神は死んだ』・・・か」

A「そして今日、私たちの神は消えるの」

T「いよいよか」

A「あまり焦らしてもそっちサイドが苦しむだけでしょ。せめてもの慈悲」

T「もう神気取りか」

A「気取るだけよ」

T「・・・」


A、懐から銃を取り出す


T「ずいぶんと昔の銃だな」

A「もうこれしかないの。敵に壊されてね・・・皆優秀だったわ、あんたの駒達は」

T「そりゃあすごい、天国で皆に伝えておかなきゃな」


T、銃を向けられゆっくりAに背を向ける


A「最期に何か言い残すことはある?」

T「クサいセリフだ、まさか現実で聞けるとは思わなかったよ」

A「でも昔はよくあんたが言ってたわ。そして私を撃った」

T「水鉄砲でな」

A「でも今私があんたに本物を向けてる。人間が作った人間殺しの道具を」

T「そして俺がその最後の一人・・・か。光栄だよ」

A「皮肉なものね、私にはそんなの無いけど」

T「俺にはある」


T、ゆっくり両手を上げる


T「最期に一つ」

A「どうぞ」

T「20年間、俺を育ててくれてありがとう。お前は人間でもロボットでもない、

  俺の大切なヒトだ」

A「・・・クサいセリフね」

T「使い古されたいい言葉。と言ってくれ」



A「クイーン・・・a3、コンピュータ軍・・・チェックメイト」


銃声と同時に暗転


明転、センターで横たわるTに寄り添うA


A「・・・ねぇ・・・手、繋いでもいい?・・・繋ぐよ、いいでしょ?」


A、Tの手を取り、握る


A「ほら、繋いだわよ・・・ねぇ・・・

  ・・・なによ・・・ねぇ!なんか言いなさいよぉ!』



A「・・・相変わらず、温かいわね」


A、顔を上げる


A「・・・ありがとう」


          センターにスポット、A硬直のままファンファーレが鳴り響く



『レディース&ジェントルメン!たった今、ようやく決着がつきました!勝者は白!白のコンピューター軍の勝利です! 最新クローン技術と古代の遊戯が奇跡の融合! 偽物の人間による本物のドラマと血とオイル飛び交う圧倒的バイオレンス!

 これこそまさに完成されたエンターテインメント! 人間とコンピューター、

果たしてどちらが賢いか。全てを手に入れた本物の金持ちのみに許された究極の

道楽! 【STAR CHESS】!

 また次回、お会いいたしましょう! 次回はM284星雲惑星ディシオスにて

新マッチの公開です。ご期待ください!』


バックでは群衆のざわめきと『配当は2.15倍です。繰り返します。

配当は2.15倍です』のアナウンスが響いている。


そのままF.O




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かみさまのあそび 鍵谷 理文 @kagiya17

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