第2話 夏生まれ 25歳 奈美

『ビアガーデンのあと家寄らない?』


3日前に直樹君からそんなLINEが来た。

私の誕生日前日にビアガーデンに行こうという約束をした。

このLINEに私はまだ返信できてない。約束の日は明日なのに。



私達の出会いは久しぶりに参加した合コン。

参加者は、童顔が可愛い先輩の真希さん、ふんわり系女子の夏菜子ちゃん、そして私。男性側は真希さんの友達とその友達。

このメンツでは私の勝算は99.9%なし。

私は黒髪のロングヘアーにしっかりアイメイクの強めな見た目、酔ったフリも出来なければ、話を盛り上げることも出来ない、可愛げの無い女なのだ。そんなの知ってる。


一人仕事で遅れてくるとのことでこの会は5人でスタートした。


「えーみんな何歳なの?」

「何歳だと思いますか?」

「真希ちゃんはね、26歳!」

「ぶー」と真希さんが嬉しそうに言う。

「27!」

「ぶー」

「28?」

「ピンポーン」

というお決まりのやり取りを端から見てる。


「じゃあ奈美ちゃんは真希ちゃんの後輩だから27!」

「えー27に見えます?」出来るだけ明るく答えた。24だっつーの。

「もっと下?」

「下ですよー」


いつからだろう、年を取りたくないと思うようになったのは。

まだ若いって言われるけど、まだ若いまだ若いって思ってるうちにきっと年を取っていくんだ。それがなんとなくわかる。現にこの前ハタチになったと思ったらもうあと3ヶ月後には25歳だ。四捨五入したらなんたらかんたら...だ。

年上に見られる方が仕事には役立つ。

こういう世の中悟ってるところが可愛げがないし、変に落ち着いていてるのが年相応には見られない理由だろう。



「すいませーん、仕事が長引いちゃって。」


1時間半遅れでやってきた男性。

それが直樹君だった。第一印象は爽やかな人。以上。


2時間制の居酒屋での直樹君の滞在時間は30分。

30分ために来たなんて、なんか気の毒だなと思いつつ、両端に座っていたせいで私は彼とはほぼ話せなかった。

特に収穫もなくこの合コンはお開きになった。

私と直樹君はたまたま最寄り駅が隣で一緒に帰ることになったのだ。


直樹くんは私の2歳年上でバリバリの営業マン。

近くで見たら結構イケメンだった。


帰りの電車はかなり込んでいて、直樹君は私を壁側にしてくれて覆いかぶさるように守ってくれた。それだけでなんとなくときめいてしまう自分がいる。

最後に彼氏がいたのは2年前。大学2年生から付き合った元カレとは就職してからお互い忙しくなってしまい、すれ違いで別れた。それから男の人と出会わないことは無いけれど、付き合うに至らなず、本命になれる自身を失っている今日この頃。


「今日は楽しかった、ありがとう。じゃあまたね」

直樹君は先に電車を降りていった。閉まっていくドアに向かい、たった30分の合コンが本当に楽しかったのかなという疑問を抱えつつ、やっとこの合コンが終了したことに安堵していた。

最寄り駅が隣なんて、本当に家に帰るまでがなんとやらだ。


早速グループLINEが出来上がっていた。

『今日は楽しかったです。ありがとうございました。』

という社交辞令だけ送っておいて疲れたから化粧だけ落としてもう寝よう。



その後あのグループラインは一切動かず、1ヶ月が過ぎたある日、

直樹君から突然のLINE。

『久しぶり。今度よかったら三茶あたりで飲みに行かない?』

まさか、あの勝算0の合コンで私に矢印が向くとは思っても無かった。

しかも1ヶ月後って。全員回ってダメだったから最後に私に来たのか。

と、素直に喜べない私は本当に可愛くない。



そんな勘ぐりは必要なかったみたいだ。

他の二人には連絡もしてないらしい。

疑り深いと思われたくなかったから1ヶ月のブランクのことは聞かないでおいた。

直樹君は優しくて、落ち着いてて、とても素敵な人だった。



3回目のデート。

私は直樹君に惹かれている自分にはもうとっくに気づいてた。

でも本気になってるのは私だけなのかもと思ってしまう恋愛には弱気な私。

この人はきっと女には困ってないんだろう。


「奈美ちゃんの第一印象は、斜に構えてるだったよ」

は?この人はなんで私を誘ったんだろう。

「え?それ印象悪くないですか?」と尋ねる。

「それが逆に良いと思ったよ。媚びてなくて。大体良い会社に努めてて、そこそこスーツで盛れる男には女の子は目をキラキラさせて近づいてくるんだよ。でも奈美ちゃんは、私はそういうの興味ないんでって感じで。

この子を女にさせたいって思った。」

やばい、この男は女慣れしている。

こういう男には騙されちゃダメってわかってるのに、やっぱり私も女なんです。

合コンでは斜に構えてるけど所詮は女なんです。



翌朝目が覚めると隣には直樹君の寝顔。可愛い。

そして、やっちまった...。

「ん、おはよ」掠れた声が聞こえた。

「お、おはようございます。」恥ずかしさと後悔で顔が見れない。

「今何時?」

私はスマホを見て、「えーと、6時半です。」

「何時に出れば会社間に合う?」

8時くらいですかねと答えると、ぎゅーっと私を抱きしめて、

「じゃあもうちょっとこうしてよ」

なにこれ。夢かな。この時間が永遠に続けばいいのに。


『眠くて全然仕事に集中できない。奈美ちゃんは大丈夫?』お昼頃にLINEが届いた。

『私は元気です。お仕事頑張ってください』送信。

『やっぱ若いなー。奈美ちゃんも頑張って』2歳しか変わらないのに。なんか妙におじさんっぽい。こうやって年下扱いしてくれるところも私には嬉しい。



その後も直樹君は私を食事に誘ってくれて、何回か一緒にご飯を食べた。

一緒にいると楽しいし、真剣に仕事もしていて、趣味もあって、話も面白い直樹君に私はどんどん惹かれていった。

「うち来る?」は断り続けた。

私は直樹君とは体だけの関係にはなりたくなかった。正直こんなにこの人との関係を真剣に考えてる自分に驚いた。



ある日の会社で、真希先輩に

「直樹君とはどう?」と聞かれ、

「え?なんで知ってるんですか?」と驚く私に

「太一君に聞いた。直樹君が奈美ちゃんのこと気に入ってたって」太一さんはあの合コンにいた人の一人だ。

「何回かご飯行きました。」

「えーいいじゃーん!でもさ、直樹君彼女いるみたいなんだよ。」

「え?」心臓がドクっと鳴るのがわかった。

「結構付き合い長いみたい。」

そうなんですねと答えて

「ところで真希さんは太一さんとはどうなんですか?」と話を移す。

ふふふ、と笑っている真希さんは太一さんといい感じらしい。


やっぱり、私は遊びだったんだ。

長く付き合ってる彼女がいて、ちょっと刺激が欲しくなっただけなのかな。


彼女のことは何も聞けない日々が続く中、

『8/7、空いてる?ビアガーデン行かない? 』と直樹君からLINEが来た。

私の誕生日の前日だ。どういう意図だろう。

この前誕生日の話はしたから知ってるはずなのに。

『はい、空いてます。行きましょう』

『ビアガーデンのあと家寄らない?』LINEでの誘いは初めてだった。

どうしよう。家に行くってことは、そういうことだよね。



返信出来ないまま、前日になってしまった。

『明日19:00に日比谷駅で大丈夫?』直樹君からLINEがきた。

『大丈夫です』

それだけ返し、私は、明日ちゃんと聞こう。と心に決めた。



19:00の日比谷駅は通勤の人、待ち合わせの人、ショッピングしに来た人で混んでいた。夜でも東京の夏はムシムシしている。直樹君は先に着いて改札の前で待っていた。今日この関係が終わるかもしれないと思うと悲しいし、話さなければいけないということに緊張してきた。

『お疲れ様です。お待たせしました。』

『お疲れ様。』優しく微笑む直樹君。

その笑顔もなんだか心が痛い。



「ちょっとさ、公園散歩してからビアガーデン行かない?」と直樹君から提案が合った。なんでだ?と思いつつ、

はい、と答えて歩き出す。

ここで聞くべきなのかもしれない、と意を決した時。

直樹君が私の手を握って

「あのさ、俺、好きになっちゃったんだよね、奈美ちゃんのこと」

え?とりあえず私も好きって伝えなきゃ。

「私も...好きです」

「付き合おう」直樹君は私の手を強く握った。

「でも...でも直樹君彼女いるんじゃ」

「別れた。奈美ちゃんのこと好きになっちゃったから」

一目惚れってやつ?と行ってニコッと笑った。



「お酒飲む前に告白しなきゃと思って」やっぱり直樹君は遊ぶような人じゃない。

直樹君の部屋でのんびりしながら教えてくれた。確かに長く付き合ってた彼女がいたけど、関係は冷めていたこと。あの合コンのあとすぐに別れ話をしたけど、相手が中々納得してくれず、結局別れるのに1ヶ月かかったこと。完全にフリーになれるまでは私に連絡しないと決めていたこと。

こんなに真面目に私を思ってくれてたのに私は全然直樹君のことを信じられてなかった。


そして時計の針が12時になった時、

「奈美ちゃん、誕生日おめでとう」

直樹くんが持ってきてくれたお皿には小さいカットショートケーキの上に25の数字のろうそくが立っていた。そして小さな花束も。

「これがしたくて、家来ない?って言ったんだ」と直樹君は照れて笑った。

「ありがとう」花束なんてもらったのは初めてだった。こんなに嬉しいなんて知らなかった。



25歳、素敵な人に出会えました。

これからよろしくお願いします。





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Birthdays. 暁月絢 @underthesky

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