第一話
「なんだいこれ、ひっどいね」
それが俺の書いた小説に対する
「……忌憚なき意見どうもありがとう、とりあえず死んでくれ」
俺は頬杖をつきながら横で俺のPCを覗いている悪友に悪態をつく。
「いやいや、こんなものをいきなり見せられる私の身にもなってくれよレフ。
寝起きにドぎついゲイポルノを見せられたようなもんだ。
流石にきつい」
「勝手に読んでおいてその言い草はなんですかこのやろう。
てかなに?
起動画面にはパスワード設定してるし、これに関してはフォルダの奥深くに沈めてたなのになんで見つけてるの?
怖いんだけど」
「うん、いくつか質問に答えるとすれば、パスワードに関しては前の彼女の誕生日と名字の組み合わせ。
フォルダに関しては……そりゃデスクトップに動物なんてフォルダがあって犬猫の写真の中に隠しフォルダがあれば、
そりゃ中身はポルノ動画だろと思った次第だ」
ドヤ顔を満面に貼り付ける蝋家。
いやなにこいつ、ほんと怖い……
わかりやすい隠し方をしてた俺にも非があるのはわかる。
わかるが、ここ大学のキャンパスですけど?
なんでそんな場で友人のパソコンに入ったエロ動画探してるのこの人……
あとパスワードは、それ前の彼女じゃなくて片思いしてた高校のときの先輩の名前と誕生日です。
はい、キモくてすみません。
俺が顔を青くしながらドン引きしてると、
蝋家はそんな俺の顔を非常に満足だと嬉しそうに眺めている。
蝋家七海は中学からの友人で、いわゆる腐れ縁というやつだ。
もったいぶった言い方が特徴で、勉強ができて頭がいい。
なんでこんな端にもかからない私大に通ってるのかが謎だ。
そして俺のことを低く見ている。
嫌な女だ。
そして趣味はポルノ動画鑑賞。
やばい女だ。
正直この女とどういうキッカケでつるむようになったかは覚えていない。
ただ友達が少ない俺にとってはこいつの遠慮のない距離感がなんだかんだ心地よく、こうやって何年も悪友を続けている。
「で、この小説。
いつ世にだすんだい?」
「世に出すも何も永遠に出さないよ。
そもそもいまさっきがた酷評したくせに、なんでそんなことが言えるんだお前は」
「いやいや褒めただろ、私は。
何言ってるんだ君は」
「いやいやいやいや」
やっぱりこいつ頭おかしいのでは?
いまさっきふっつうにこき下ろしてたじゃん。
ゲイポルノに褒めてる要素ありました?
いやゲイポルノに含む要素はないけどさ。
好きな人は好きなんだろうけど、ほらね?
「まぁ確かにまだ冒頭しか読んでない私が言うのも何だが、文章は拙いし、
拙い文章を良く見せようと過度の装飾を行って酷く着膨れてる。
駄文もいいとこだ」
「やめて、そういう本当の批評は心にくるからほんとやめて」
「しかし創作というのはどこまで行ってもオナニーであるという一点だけはしっかり守れている。
白濁でにちゃにちゃした右手をティッシュで拭いているときのあの恥ずかしさと背徳感と心地よい疲労感を読者に感じさせる、
見事な気持ち悪さだ。
少し読んだだけでここまで伝わるのは一種の才能。
この私を持ってしてもナイスオナニーと言わざるを得ない」
「あ、どうもありが……いや、オナっ……
ええ……」
またまたドヤ顔を披露しながら俺の小説に対する感想を述べる蝋家にたいしてドン引きした顔を返す俺。
え、なにその最低最悪な感想文……
これを書いた作者の気持ちを答えてくださいで、それ書いて二重丸もらえると思ってるんですかあなた……
そういえばこいつ中学のときに、○上春樹作品の文章問題がでて、先生に作者の意図を聞かれた際、
「基本は年上とのセックスが、だらだらとナメクジのように余計な気遣いをせず、気持ちよくなれるが、
やはり時たまの年下とのセックスはそれはそれでいつもと違って新鮮だと思います。
あとやるなら青姦がいい」
と億面もなく答えたせいでその場で生徒指導室に連れていかれてたな……
あの時の教室の空気は一生忘れないだろう。
いやまぁ村上春○を中学の問題文で使うのどうかと俺も思うんだがね。
もうあれ全編セックスじゃん。
まぁ問題文に問題があったとしても、
こいつに限って言えば、人の営みすべて、
金と暴力とセックスだけで成り立っていると思ってるフシがあるやつだ。
アン○ンマンで掛け算を見出す女なのだ。
バイキ○マンとアンパ○マン?
違う、カバ男とカレ○パンマンだ。
道徳など、すでにはるか地平線の向こうに投げ捨てている。
うん。今更ながら危険人物すぎる。
世に出しちゃいけないやつだ。
「なに人に汚物見るような目をむけている。
現に君は書きながら達していただろう?
なに、恥ずかしがることはない。
作家とはそういうものだ」
「さもや当然かのごとく、
書いてる最中は誰もがリビドーを爆発させてるかの言いよう。
世の中の作家さん全てを、
性欲を満たすために作品書いてるような異常性欲者でも思ってんですかあんた」
「少なくとも村○春樹はそうじゃないか?
ノルウ○イの森でずっこんばっこん毎日気持ちいいみたいな、性の喜び〜みたいな」
「ノーベル文学賞候補をどっかの変態親父の域まで落とし込むのはやめろ。
というかあの人は、人よりちょっとHなおじさんなだけだから。
てか君ほんとう好きね村上○樹」
あとノルウェイの森はビートルズの曲で、ただの劇中歌です。
決して盛り場の歌とかそんな意図はございません。
「まぁなんだ。
私が君の小説を読んでなにを言いたかったというと……
うん、とってもHだったよ……」
「違う。
そこで情感たっぷりに顔を赤らめて言われても、
俺が書いたのはミステリー小説だから。
エッチな要素は一つもないから、その感想はおかしいよね」
「Hだったよ……村上春樹……」
「それはもう村上春樹の人柄の感想だよね?
もはや俺の小説の感想ではないよね?
頭大丈夫か?」
「H村上……」
「うん。
それはただのイニシャルだな。
ただ今の流れで行くとエッチがあだ名になっている村上さんになっちゃうね?
それは彼の思うところじゃないと思うんだ僕は」
「中々いきのあった漫才だとは思いますが、とりあえずそこまでにしてくれませんか君たち」
あーだこーだと、どうでもいい話でヒートアップしていた俺たちは、その声で顔を上げる。
すると壇上にたつ教授と目があう。
あ、やばい。
講義中だというのに盛り上がりすぎた……
冷や汗をかく俺を眺めながら、教授はにっこり微笑むと、
ドアを指差した。
言われないでもわかる。
出て行けとの通告。
講義を受けてる他の連中からの視線が痛い。
「単位ほしいなら明日の講義もでること。
あと来週までにそのエッチな小説の提出よろしくね
笑顔を崩さぬままとどめを刺してくる教授。
いや教授……
誓っていいますがほんとエッチな小説じゃないんです……
しかし弁明の機会は与えられない。
まさにノーフューチャー。
これはもう明日からの俺のあだ名はH礼門で決まりだろう。
すれ違うやつすべてから、Hだ……とかエッッッッ!とかいいながら指さされまくるのだ。
最悪だ。
そういうのはツイッターだけの日常にしておきたかったのに……
関係ないのだがエッチな絵かく絵師さんばっかフォローしてるとTLが大変なことになるから注意が必要だ。
そのせいで俺の高校のときのあだ名はグレートオナニスト礼門だ。
あれ前のほうがひどくないかこれ。
とにかくさようなら俺のキャンパスライフ。
さようなら俺のパリピライフ。
これからの俺の人生は、
大学を追われた俺は職にもつけず、田んぼに潜みながらタガメを密漁して生きていくしかないんだ。
もう絶望しかない。
……いやまてタガメって美味いのか?
それより何故タガメがでてきた?
わからない、俺には何もわからない……
混乱する頭をよそに俺は体を縮こめながら、いそいそと机を片付ける。
そんな俺は蝋家は生暖かい眼差しで見守っているが、お前も退出だぞ?
わかっているのかこの女。
腹が立ったので軽く頭を小突いてやり、俺は足早にこの場から逃げ去るのであった。
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