脳漿剥き出しボーイ〜礼門荘司の怪異事件録
@NGRMAN
金魚鉢
角材での執拗な殴打で
自身の頭からこぼれ落ちるピンク色の脳漿を、向かいに立てられた鏡を通してみている私は、
その現実味のない光景を、およそ自分のことではないように、非常に冷めた気持ちで眺めていた。
額から流れる血が目元を流れ、顎へと垂れる。
目に血が入るので、拭いたかったが、あいにく手足は縛られている。
ああなんてことだ。
この手足が自由なら、私の脳の色を延々と見続けられるのに。
溢れ出る脳漿を自身の手の触感で確かめられるというのに。
ああ、なんとも残念だ。
私が長年求めていた私の中身がすくそばにあるというのに、私は触れることも楽しむこともできない。
鏡を通してみる自身の脳漿は着色料をぶちまけられたケーキのようになんとも
その色を見て私は悔しいと思った。
やはり鏡では駄目だ。
こんなものが私の中身であるわけがない。
直接だ。
直接確かめたいと。
脳がこぼれ落ちるとともに、私の命も共に落ちてゆく。
時間がない。
そんな私の焦燥を聞き遂げたのかドアの向こうからコツコツと階段を降りる音がする。
助かった。ありがたい。
まだ顔も知らぬ貴方よ。
どうかドアをあけておくれ。
私の願いを聞き遂げてくれ。
──そしてどうか私の中身を暴いてくれ
足音は止み、サビに覆われたドアノブが悲鳴を上げる。
その音を聞いたとき、鏡に映った私の顔は歓喜に歪んでいた。
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