第7話

「いやぁ、えらいえらい」

 元の体に戻った桃太郎は事の次第を鬼たちに伝えました。

 鬼たちは最初は驚いていましたが、すぐに納得してくれました。

 今はこうして無事に膝の上でほめてもらうことが出来て、桃太郎はほっと一安心していました。

「それにしても商人を襲って乗り込んでくるとはねぇ。さすがに百人もいたら、あたしらだってどうなったかわからねえよ」

 鬼はそういうと笑って桃太郎の頭を撫でました。

 平穏を取り戻した村で、四人は生きていることを喜びました。

 とっつかまえた盗賊から鬼の悪いうわさを流していたことも突き止めましたし、お役人に来てもらって事の次第も報告しました。すべては順調に進んでいる、そのはずでした。

 事件はすぐに起こりました。


「お前ら全員をしょっ引く」

 お役人が軍隊を連れて戻ってきました。

「商人を痛めつけた挙句、盗賊扱いして役人に引き渡すとは何事か」

 桃太郎は潔白を主張しました。最初に襲ってきたのも、悪だくみをしていたのもあいつらだといいましたが聞き入れてもらえません。

「というか、おまえらは元気であいつらがボロボロなんだから、どっちが不貞を働いたかは一目瞭然ではないか」

 きびだんごの効果なんだといいましたが、信じてもらえません。

「そのきびだんごとやらが無いのでは話にならんではないか」

 盗賊を退治したときにすべて食べてしまっていました。

 これでは桃太郎たちが盗賊をボコボコにしたことになってしまいます。

「そもそも四人だけで百人もの人間を相手になんぞ出来るか。大方、そっちの鬼どもと商人を待ち伏せし、身ぐるみ剥いで追い返したというところだろう」

 事実は違いますが、桃太郎は役人の言ってることのほうが真実味があるなと思ってしまいました。

 現に桃太郎たちはあっという間に追い詰められてしまいました。きびだんごの力で勝てたというのも、実際に目にしていなければ桃太郎たちだって信じられないのですから。

「さぁ、連れていけ!」

 桃太郎たちは必死に何度も身の潔白を訴えました。

 そしてどうしても連れていくなら自分たち四人だけにしてくれと言いました。

「いや、信用できぬから」

 役人は努めて冷静に言うと、鬼たちに縄をかけました。その際、腰縄が短かったので手を体の前で交差させ、手首を固定するようにしました。

 すると、帯布で巻いただけの胸が寄せられることになり、零れ落ちそうになりました。

 それを見た役人がサっと顔を背けました。

 桃太郎はなんとなく信用できるなと思いました。

 そこで役人に最後のお願いをしました。

「私と、この鬼のおなごを連れて行ってください。ほかのものと警備の役人たちを残して島を離れ、ご沙汰を受けます。その際、盗賊……商人でしたか。そいつらの前でご沙汰を下してください。さすればひと月、いや、一週間もしないうちに乗り込んでくることでしょう」

 桃太郎が必死の形相で頼んでいたのを見て、役人は少し考えました。

 やがて「うん」と頷くと。

「やや信用に欠けるが、一方の言い分だけ聞いて終わりというのも問題であろう」

 こうして桃太郎と鬼はいっしょに連れていかれることになりました。

 その際、船の中でいちゃいちゃする二人に役人が気まずい思いをしたり、あまりに人目をはばらからぬものだから、役人のお叱りを受けたことは言うまでもありません。


「……よって、その方ら鬼ヶ島一党には領地没収の上、島流しの刑と処す」

 二人は鬼ヶ島の代表として沙汰を受けました。

 刑場の隅には商人の格好をした盗賊がニヤニヤと笑っていました。

 桃太郎は連行される間も悔しそうな顔を作るのを忘れません。そして役人たちの協力のもと鬼ヶ島に取って返すと盗賊を待ち受けました。

 一週間くらいかかるだろうか。桃太郎はそう思っていたのですが。

「まさか、おぬしの言うとおりになるとはの。しかし、初日とは気の早い」

 桃太郎が到着した後、すぐに乗り込んできました。

 今度は五十人ほどでしたが、鬼ヶ島にはほとんど人が残っていないはずでしたから、それで十分だと思ったのでしょう。

 しかし、こちらには役人たちを含め、全員合わせると二百人ほどいました。

 それが浜辺をぐるりと取り囲んでいるのですから、盗賊たちも観念するしかありませんでした。

 こうして桃太郎は見事、盗賊を退治しました。

 桃太郎は滅ぼされた村へ帰ると復興のために尽力しました。

 その際、隣には強く美しくたくましい鬼嫁がいたそうです。そんな鬼嫁の尻に敷かれながら桃太郎は二人の子宝に恵まれました。

一人はお酒が大好きで、ちょっとやんちゃな、でも涙もろい青年に成長しました。

 もう一人は、好きになったらとことんまで愛してしまい、ちょっと包丁を取り出して「私も一緒に逝ってあげるから」と、浮気をした彼氏につめよってしまう、一途な乙女へと成長しました。

 鬼嫁と鬼息子と鬼娘に囲まれ、桃太郎はいつまでも幸せに暮らしました。



「で、いいだろ?」

「……ハイ」

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ももたろう 弱腰ペンギン @kuwentorow

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