第7話



優月視点



謁見の間に足を踏み入れた僕の前には、玉座に座らされた意識のないエレオノーラさんと、彼女を囲む三人の大国の王、そして三人の騎士と二人の冒険者、一人の人工勇者がいた。


僕はエレオノーラさんを視界に収めると、ついで気色悪い笑みを浮かべる三人の王が目に入った。


「よくぞここまで辿り着いたな。我はてっきりお主が早々にくたばった者だと思っていたぞ。」


ニヤニヤと笑みを浮かべながら国王が言葉を発する。僕はそれに対して反応せずにじっとエレオノーラさんのことを見つめる。


彼女を見たことで最早この場にいる者達全員が僕とにとってそこらに漂うホコリのように、足元に生える雑草のように、心底どうでも良い存在になっていた。


芽生えてきた怒りも火の灯った復讐心も、全てエレオノーラさんを助けることの前にはどうでもいいものになる。


しかし、一度意識をこの場にいるエレオノーラさん以外の者へと向ければ、たちまち怒りが湧いてくる。彼女をあんな目に合わせておいて、何故こんな奴らが生きているのか。


そう思うだけで、理性を吹き飛ばして全てを破壊したくなるような怒りを感じる。


僕はその怒りを抑えながら、相手を速やかに排除する方法を考えることに専念する。


「さて、では哀れな小僧を殺すとしよう。全員、やれ!!」


国王のくだらないおしゃべりが終わり、ようやく戦闘が開始される。


向かってくるのは三人の騎士(恐らくは各国の騎士団長だと思われる。)と一人の人工勇者、そして二人の、いや三人のSSランク冒険者だ。


僕はその場から横に飛びのいてさらにそこに向かって血の刀を振るう。


ガキン!という音とともに刀越しに手に硬い感触が伝わってきて、防がれたのがわかる。

一見僕が刀を振った場所は何もないように見えるが、次の瞬間、そこに一人の冒険者が現れる。


「久しぶりですね。SSランク冒険者である『幽幻』さん。」


そう、この部屋に来た時から何処かで隠密していた彼が戦闘開始の合図とともに音も気配もなく襲ってきたのだ。


僕は元からこの場に姿の見えない『幽幻』を警戒し、尚且つ、隠れていても実体はあるため、それにより発生する空気の乱れを敏感に察知して何とか回避したのだ。


いつもならカウンターで決められたが、今は避けるのが精一杯で、反撃も雑になってしまった。


そうして『幽幻』は再び隠密行動に移り、僕の前から姿を消す。


その間に向かってきていた六人が襲いかかってくる。


僕は一先ず右手に握る陽刹を腰の左側に挿しておき、血の刀一本で対応する。


まず三人の鎧を着た騎士が前に出てきて、それぞれ大剣、長剣、槍で攻撃してくる。


その一つ一つの動作は非常に洗練されていて彼らの技量の高さを物語っている。しかし、僕は【走馬灯】で彼らの動きをゆっくりと感じながら見ることで簡単に回避しながら、反撃の一撃を混ぜていく。


だが、相手も己のスキルや武器のスキルを使ってきて、中々崩すことができない。


特に氷を操る槍使いは厄介で接触するとその部分が凍ってしまうため、安易な受けができない。


また、他二人は大剣使いは一振り一振りの威力が非常に高いくせに、大剣の扱いはまるで羽のような軽さで振り回しているため、大剣特有の重さによる隙が全く見当たらない。


長剣使いは、大剣使いと槍使いをカバーするように動いている。そしてそのカバーが非常に上手いせいで、他の二人がさらに自由に動けている。


そのため、僕の中で最も厄介なのはこの長剣使いと判断した。


(このままだと持久戦になるな。だけどそれはダメだ。僕には持久戦をしている暇はない。)


僕は多少強引でもこの三人を排除する行動に出た。


槍使いと大剣使いの攻撃を躱しながら、『神力』を発動する。


そして長剣使いの攻撃を無視して強引に槍使いを刀を左手から右手に移して狙う。

長剣使いの突きが腹に刺さるが、刀の一撃を阻害するものではない。


『神力』による超パワーの一撃が槍使いが咄嗟に構えた槍すらも破壊してその頭から股までも一直線に斬り裂く。


さらに突きにより腹から滲み出た僕の血が剣を伝って長剣使いの元まで行き、そのまま皮膚を切って体内に侵入して、臓器をズタズタにする。


これで一気に二人が片付いた。大剣使いも一人では僕の相手ではない。


空いている左手に腹から滲み出る血を集めて手刀の形に変形してそのまま顔面を刺突で貫く。


獄炎ヘルフレイム


その瞬間『禁術使いスペルマスター』が《焔属性魔法》の中でも高威力の魔法を放つ。

既に死んでいるとはいえ、騎士三人を巻き込むのもなんとも思っていないようだ。


僕は即座に血の刀を血に戻して地面に捨てると右手で左腰から居合の容量で陽刹を抜き、〈魔導〉を発動させる。


「術式展開・純白:『絶界』」


高速発動により、『獄炎』を防ぐとさらに、〈魔導〉を重ねる。


「術式展開・翠:『分解』」


翠の波動が放たれて『獄炎』が一瞬にして消える。魔法の構造が一瞬にして分解されたために、消えたのだ。その点から見ればこの〈魔導〉は魔法使い殺しと言っても過言ではないだろう。


自分の魔法が完璧に消されたことに『禁術使い』は驚きを見せるが、彼は既に次の魔法を組み上げていた。


「『精神干渉メンタルインター』」


その瞬間僕の中に変な考えがいくつも生まれる。それらは本当にどうでもいいことだが、この戦闘中において、僕の思考を邪魔することになり、横から来た不意の一撃への反応が遅れる。


何とか血を盾に変形させて間に入り込ませることで、ナイフの一撃を防ぐ。


ここで一度後ろに飛び退き、思考をリセットする。


(禁呪魔法か。精神に干渉してくるとは。今のは多分余計な思考を入り込ませたのか。)


僕は先程の余計な思考による反応の遅れの原因を特定して、対策を講じる。


「術式展開・純白:『絶界』」


自分に向かって〈魔導〉を発動して、自分の精神に結界を張って精神攻撃を無効化する。


『禁術使い』にどんな魔法があるかは分からないが、取り敢えずこの精神防御を破ることは不可能だろう。


そうして〈魔導〉を発動していると、圧倒的な圧が襲いかかってくる。


「ッッ!」


反射的に思いっきりその場から飛び退いてその攻撃の正体を見る。


すると、そこには赤いオーラを纏った『覇王』が大剣を振り抜いた姿だった。


大きく飛び退いた僕はさらに直感に従ってその場でしゃがみ後ろを見ずに背後に血の刀で突きを放つ。


キィンという音ともに刀は相手の剣に受け止められる。その受け止めた相手は人工勇者だった。


(いつの間に背後に。さっきまで『禁術使い』の横らへんにいたのに。警戒が必要だな。)


そして前方から『覇王』が後方から人工勇者が、連携して攻めてくる。


さらにそこに神出鬼没の『幽幻』が混ざると、流石に捌き切れないし、反撃の手が出しづらい。


段々と僕が傷を負う展開になってくる。いくら『再生』があるとはいえ、この状況ではジリ貧に等しい。先程のように強引に崩す手もあるが、それでも『禁術使い』が後方に控えているため、下手に動けば魔法でやられる可能性が高い。


僕はそこまで考えながら、しかし特に打開策を打たずにこの状況を維持した。


時間が惜しいからと焦って行動するのは良くない。まだ人工勇者の能力がイマイチ掴みきれていない上に、この混戦の中にいるからこそ、『禁術使い』の大魔法が打たれていない。


少なくとも人工勇者の能力の正体を掴むまではこのまま続けるのが得策だろう。

逆に言えば、それさえ掴めば突破口も見えてくるかもしれない。


それと『覇王』の能力については既に知っている。彼の能力は《覇王》。その力は大きく分けて二つある。


それが《覇力》と《覇壊》だ。

《覇力》は自身の身体能力を超強化するスキルだ。しかもその強化量が半端ではない。よく、二倍や三倍、十倍とかはあったりするが、このスキルは軽く二十倍を超える。


僕もその強化量の上限は知らず、何らかの条件付きで強化量が上限などないかのように跳ね上がっていくのだ。


まずこれだけでも相当な強さだ。しかしこの上に《覇壊》というスキルが加わることで、彼を世界最強格へと成らせた。


その力は攻撃したものを破壊する力だ。自分が攻撃して、相手に当たった時に任意でその対象を破壊する。

例えば、彼が大剣で攻撃して相手の剣と衝突した時、その剣を破壊するのだ。

また、この力は人体にも有効で直接攻撃されたら最後、人体を粉々に破壊されてしまう。


《覇力》で超強化した身体能力で接近し、攻撃が相手の体に当たればそれで勝ち。


しかも、《覇力》による強化のせいで回避も逃亡すらも難しいとなればもう無敵だろう。

一撃必殺を出され続ける中で回避しながら反撃しなければいけないなど、普通に考えて無理だ。


これが『覇王』の力だ。まさに世界最強として相応しい理不尽さと言える。


その『覇王』が物凄い速度と膂力で迫る。しかもその間々に『幽幻』のヒットアンドアウェイが混ぜ込まれるため、捌くのが難しい。


先程から『覇王』の一撃は確実に躱し、『幽幻』の一撃は躱すか防御するようにしている。

『覇王』はそのスキルのため、絶対回避を迫られ、『幽幻』は攻撃する短剣に毒が塗り込まれているため、回避か防御する必要がある。


そして、そのために人工勇者の攻撃が防げない、回避できないことがあるため、徐々に傷を負うことになっている。


人工勇者の攻撃は『幽幻』のように神出鬼没な感じで、前から攻撃してきたと思えば、いつの間にか背後に回っており、すると、今度は右にいたりとまるで捉えられない。

しかも一撃一撃が非常に重く、威力が高いことが分かる。実際彼の攻撃は掠る程度でも結構抉られることがある。


この状況から考えられるのは気配を操作する能力か、超高速で移動する能力のどちらかだということだ。


気配の操作については、気配を完全に消すことによるヒットアンドアウェイ。つまり『幽幻』と同じ力ということになる。

正直これは可能性としては低いと考える。この場にその能力のトップクラスたる『幽幻』がいるのに、同じ奴がもう一人いたところで、あまり意味がない。むしろ回復役や魔法剣士とかの人工勇者の方が使えるだろう。


では、そうなると超高速移動による連続攻撃ということが考えられる。


今の所僕の中ではこの能力の可能性が最も高い。高速移動の能力が余りにも高いせいで『幽幻』と同じ能力に見えてしまうという可能性は十分あるし、それなら一撃の威力が高いのも頷ける。


なぜなら、高速移動によって威力が増した一撃となるからだ。


それにこの猛攻の中よく観察すれば、床には摩擦の跡のようなものもあるし、なんとなく風を切る音も聞こえる。


僕は騎士を殺した後解除していた【走馬灯】をもう一度発動して、人工勇者を観察する。

『覇王』の大剣を一歩下がって躱し、右からの『幽幻』の刺突を受け流す。

その時前方にいた人工勇者が【走馬灯】を発動しているにも関わらず高速で動き背後に回って流れるように剣を横薙ぎしてくる。


僕はそれをしゃがんで躱すとそのまま左に飛び、囲いから脱する。

そこに超高速の光線が打ち込まれるが、『絶界』を発動して防ぐ。


これでようやく人工勇者の能力に確信が持てた。


僕はボロボロになっていた血の刀を作り直すと、反撃を開始することを決めた。



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漆黒の剣帝は変貌した地球で無双する ソラリオン @Sora0725

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